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君と二人で駆け抜けた戦場… 第1話「出会い…」

俺は塹壕ざんごうに飛び込んで隠れた。
俺の頭の上を敵も味方も分からない銃弾が飛び交っている。
このままじゃ味方に撃たれるかもな…

だが、ひとまず俺は休憩をして水を飲むことにした。
俺は背嚢はいのうから水筒を取り出しフタを開けた。

「ゴクリ…」
背後で唾を飲み込む音がした。
俺は驚いて振り返り、常に肩にかけている小銃を構えた。

「誰だっ? いるのは分かってるぞ! 出てこい!」
俺の誰何すいかの問いかけに返事は無かった。
だが、間違いなく人間の気配が感じられる。
この塹壕は奥の方まで、かなり深く続いているようだった。

俺は小銃の引き金に右人差し指をかけたまま
左手で肩に固定したライトを点け奥を照らして見た。

 ライトで照らし出されたそこには、汚いぼろぼろの合羽かっぱかポンチョのような服を身体にまとった一人の人間がいた。
 フードを頭にかぶっていたし、顔が汚れていて年齢も男か女かすらも分からなかった。

俺はライトを点けたまま両手で小銃を構えた。
これでいつでも撃つことが出来る。

「お前は誰だ? そこで何をしている?」
俺はもう一度そいつに向かって聞いた。
今度は俺にも撃つ覚悟があるし、いつでも撃てる。
俺は銃の先端で、そいつが被っているフードを頭からはねのけた。

頭はぼさぼさの長髪でやはり顔は分からない。
「あああ… ああ…うう…」
訳の分からないうめき声を上げるだけで、やはり返答は無かった。

俺はイラついてきて、銃床で殴りつけるように銃を振りかぶった。
そいつはかばう様に両手で頭をおおった。
「ああああっー!」

俺は振りかぶっていた銃をゆっくりとおろした。
「お前… しゃべれないのか…?」
俺の問いかけにそいつはコクンと小さくうなずいた。

俺は地面に置いていた水筒を持ち上げて、そいつに見せた。
「お前、これが飲みたかったのか…?」

俺の問いかけにそいつはうなずいたが、すぐに奥の方を指さした。
「あああ…うう、ああうう…」

「ん? 何を言いたいんだ、こいつは…?」
 そいつは俺に一生懸命に何かをうったえていた。汚れた顔だが目が必死なのは俺にも分かった。俺もそいつの必死さに心を動かされて穴の奥にライトを向けた。

 照らし出された穴の奥には何かが横たわっていた。茣蓙ござなのか毛布なのか分からないモノを布団ふとん代わりにかけてあるソレは、仰向あおむけに横たわった人間の様に見えた。

「他にもいたのか… で、お前はこいつを俺にどうしろって言うんだ?」
 俺はポンチョ野郎の顔を見て聞いてみた。コイツは話すことは出来ないが俺の言う事はちゃんと理解しているらしかった。

 するとそいつは俺の水筒を指さしてから、あの横たわった誰かにその指を向けて振る動作を何度も繰り返して見せた。

「この水をアイツに飲ませろって言うんだな…? そうなのか?」
俺がそう言うと、そいつはうれしそうに何度も頭を縦に振っていた。

俺は少し警戒しながら横たわった人物に近付いた。
 貴重な水筒をポンチョ野郎に渡すわけにはいかないから、俺が自身で渡すしかなかった。
ポンチョ野郎が嬉しそうに俺にまとわりついて来るのは、完全に無視した。

 俺は銃口を向けたままの銃身を使って、人物にかかっている茣蓙ござだか毛布だかをめくり上げた。中には、やはり黒っぽいポンチョの様な衣服を身体に巻いた人物が仰向けに寝ていた。

「おい、お前… おい!」
そいつはすでにこと切れていた。
 俺はそいつの手にさわってみた。脈は無かったが、まだほんのりとあたたかかった。俺が穴の底に飛び込んだ頃には、まだ生きてたのかもしれなかった。

俺はそいつの顔をよく見てみた。男の老人だった。
俺は銃の先では無く自分の手を使って老人の顔を布団ふとんおおってやった。
 どんな奴だろうと死んだ人間は仏様だ。俺はそういう風に祖父母から学んだ。この老人も仏様になったのだから、丁重にほうむってやらなければならないと俺は思った。

俺はポンチョ野郎を振り返って見た。
俺の顔をじっと見つめてやがるから、俺は首を横に振ってじいさんが既に死んでいる事を伝えた。
「駄目だ… 残念だけど、もう…じいさんは死んでるよ。ついさっき死んだみたいだな…」
 ポンチョ野郎は俺の目の前で身体を震わせて立っていた。こぶしを握り締めて震えているのだ。ヤツの目から涙がポロポロとこぼれ落ちた。

 ポンチョ野郎は握りしめたこぶしで数回俺の胸を叩くと、俺の手から水筒をひったくって、老人の身体にすがり付いた。
そして、ボロボロの布団を捲り上げて水筒の水を老人の口に注ぎかけた。
老人にどうしても水を飲ませたかったのだろう。
貴重な水だったが、俺はヤツの好きなようにさせておいた。

ポンチョ野郎は顔の下半分を覆っていた布を引き下げて口をあらわにした。
「おじいちゃあーんっ! なんでっ、なんで死んだの! あたしを一人にしないでよおっ!」

 俺は茫然ぼうぜんとしてポンチョ野郎の顔を見つめた。
「こいつ…女だったのか… それに、しゃべれるじゃないか…?」
 ポンチョ野郎の布に覆われていない目のまわりは黒く汚してあったが、布に覆われていた涙の伝う下半分は、白くなめらかな肌をした若い女の口元に間違いなかった…

 下半分しかハッキリとしなかったが、俺の目には彼女の口元がとても美しくまぶしいモノとしてうつった…

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