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妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』 : 「由井正雪と魔槍『妖滅丸』」(⑫拾弐)" 柳生家伝家の宝刀『大天狗正家』 "

俺に向かって無数の何かが高速で飛来して来る
俺は自分の太刀をすでに抜き放っていた

「一か所にとどまっていてはズタズタに切りきざまれる
あの親父殿の供の者達のごとく…」

俺は左右に前後に素早く走り跳びながら
飛来する空気のゆがみの様なモノを
次々とかわし斬り捨てていった

しかし、数が多い…
左手に持った太刀たちで飛来するモノを斬り捨てながら
俺はふところに隠し持った裏柳生うらやぎゅう手裏剣しゅりけんつか
右手で数本投げはなった
投げた手裏剣は一本もねらいを外す事なく
モノを撃ち落としていった

「この柳生十兵衛三厳やぎゅうじゅうべえみつよしを甘く見るなっ!」

しかし、やがて手裏剣が
モノを受け止め斬り捨てていた太刀にも異変が…

「ピシッ! パキンッ!」

「ぬうっ! しまった、拙者の太刀がっ!」

すぐさま折れた太刀を捨て、脇差わきざしを抜き放ち構える
柳生新陰流やぎゅうしんかげりゅう小太刀こだちの技を見せてくれるわ!


********


拙者と柳生但馬守やぎゅうたじまのかみ水竜すいりゅうの胴体の隙間すきまから
十兵衛の闘いを見ておったが
十兵衛の太刀が折れるやいな
但馬守が拙者に向かって叫んだ

「青方どの! 水竜を解いてくれい!
脇差のままでは十兵衛がやられる! わしの太刀をせがれに!」

拙者も十兵衛の危機を黙ってていられなかった
二人を取り囲んでいた水竜の壁を解き放つ
水の壁が解除された途端とたん
但馬守が立ち上がり十兵衛に向かって叫んだ

「十兵衛! わしの刀を使え!
大天狗正家おおてんぐまさいえ』じゃ!」

但馬守がさやに収めし自分の太刀を十兵衛にほおった


********


脇差を投げ、飛来しモノの一つを撃ち落としつつ
親父殿が叫びながら俺にほおって寄こした太刀を
俺は鞘ごと左手で受け取った
つかみし太刀を右手でスラリと抜き放つ

「おおっ…
これぞ柳生家に伝わりし宝刀『大天狗正家おおてんぐまさいえ』…
この伝家の業物わざものさえあれば!」

俺は『大天狗正家』を両手で構えるや否や
飛来せしモノを全て斬って捨てた

そして由井 正雪ゆい しょうせつに向かい正眼せいがんに構えながら言い放つ

「この柳生十兵衛三厳やぎゅうじゅうべえみつよし
神にうては神を斬り、仏に逢うては仏を斬る…
たとえ相手が悪鬼羅刹あっきらせつ化身けしんなりとも
逢うてはこれを斬って捨てる…

貴様の様なあやかしの技を使い人の世を乱せし者は…
この俺が捨ててはおかぬ!

この柳生家宝刀『大天狗正家おおてんぐまさいえ』を構えし俺は
今までの柳生十兵衛とは一味ひとあじも二味も違うと思え…
由井 正雪ゆい しょうせつよ、覚悟致せ!」


********


むうっ…
太刀を折り、十兵衛もここまでよと思いしが
但馬守たじまのかみめが余計な真似を…

しかし、柳生家の宝刀だと…
そんなもの、人間にはいざ知らず
妖に通じるものか…

「『妖滅丸ようめつまる』よ、『大入道おおにゅうどう』を出すぞ!
出でよ、『大入道』!
生意気な柳生十兵衛めをつぶせ!」

それがしが空中に『妖滅丸』の穂先ほさきで円を描くと

「ズシーンッ!」

目の前の大地をるがし地響きを立て
身の丈三丈(約9m)に及ぶ『大入道』が現れた
右手には長さがやはり三丈ほどの長さを持つ
巨大な八角棒はっかくぼうを握りしめている

「ぐおおお~っ!」
その口より発する雄叫おたけびは
まるで大筒おおづつの発射音の様にあたり一面にとどろき渡った

「よし、やれいっ!
『大入道』よ、あの十兵衛めをお前の力で叩きつぶせ!」


********


「ばっ、化け物… 何という大きさよ…
おのれ…正雪しょうせつめ!」

俺は目の前に現れしあまりにも巨大な大入道を見上げた
入道の姿をした寺の本堂ほんどうほどもあるあやかし
だが、恐るるものか…
今、我が手に『大天狗正家おおてんぐまさいえ』あり

「鬼にうては鬼を斬り…
大入道に逢うては、これを斬って見せん!
いざっ、参るぞ!」


********


「むっ!
何じゃ、あれは…
十兵衛が大入道と対峙たいじしておる…
あれが由井 正雪ゆい しょうせつの使う妖か…
十兵衛… 無茶をするでない!」

儂が徒歩かちでそこまで来たとき
但馬守たじまのかみどのと青方龍士郎あおかたりゅうしろうどのが
バラバラになりし駕籠かごと人の残骸ざんがいそばに立っておる

少し離れた林への入り口近くに十兵衛
そしてその前に立って居るのは…
身の丈三丈はあろうかという大入道じゃ…

いかに十兵衛が人並外れた腕を持つ剣豪と言えど
あれはいかん…
相手は山の様な化け物じゃ…
儂の法力ほうりきにて…
ん…?

おお… 十兵衛の持ちたるはまさしく
柳生家伝家の宝刀『大天狗正家おおてんぐまさいえ』よ…
あの剣ならば…

よし…!
江戸の町とそこに住みし庶民しょみんを守るため…
それに、柳生親子をこの場で死なせてはならぬ…

禁呪きんじゅを用いる!

儂は両手を使い孔雀明王くじゃくみょうおうの印を結び
孔雀明王呪くじゃくみょうおうじゅとなえた

「オン・マユラ・キランデイ・ソワカ
オン・マユラ・キランデイ・ソワカ…

いにしえ大行者だいぎょうじゃ役小角えんの おづの』よ…
貴方様のお力…
石鎚山法起坊いしづちさんほうきぼう』としての大天狗おおてんぐのお力を
あの柳生十兵衛三厳やぎゅうじゅうべえみつよしの持つ太刀
大天狗正家おおてんぐまさいえ』に宿らせ
人に害せし妖を退治させたまえ!」


********


おおお…!
な、何だ? 
俺はこの大入道をぶった斬ってやろうとしておったのに
この、両手に握りし『大天狗正家おおてんぐまさいえ』が震えておる…
それに… 何と、刀身が…光を発し出した!

うわあっ! それだけじゃねえ!
俺の身体が浮かび始めた…
空中を飛んでる…


********


おおお…
あれは…
せがれの十兵衛がちゅうに浮かぶ…
青方どの…
十兵衛が… 十兵衛が…
あの大入道といい…
いったいどうなっておるのじゃ…?
儂にはさっぱり…

青方どの!


********


但馬守たじまのかみ様…
拙者にも、訳が分かり申さぬ…」

だが、『斬妖丸ざんようまる』の反応からして
大入道は間違いなく由井 正雪ゆい しょうせつの操る妖だが
十兵衛どのの飛空は妖とは別の何か…

むっ?
十兵衛殿の身体を刀身から出た光が包み始めた…
光りが形を成していく…

あ、あの背中に翼を広げし形は…?

あれはまさしく大天狗の姿…

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