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仕事できない奴ほど、人の仕事ぶりにめちゃくちゃこだわる。たぶん。俺、統計による。

久しぶりにさいたま支社時代の後輩の濱くん含む数人で酒を飲んだ。濱くんはモロ典型的な口だけタイプ。相手に対して、自分がマウンティングできる要素があれば、全力で乗っかることが至上目標。その俺さまぶりから、周囲から「濱様」と呼ばれている。(本名 濱崎忠信)

この時のメンバーはちょうどみんな、濱様以外みんな本社勤務だった。
「俺も、もうそろそろ、そっち側に戻ろうと思ってんですよ」
「ああ、本社に?どこの部署?」
「もう経理は腹一杯なんで。企画とか広報とかですかね」
「だって濱くん、本社で経理しかやってないじゃん」
「いや、なんか経理ってなんか向いてないんですよ、俺。だってなんか人のお金扱うのって、責任あるじゃないですか。そういうの苦手で」
そこにいた全員が心の中でツッコんでいた。いや、本社で責任のない仕事なんてねーだろって。皆、生暖かい視線で濱様を眺めている。

濱様は俺は仕事できるアピールだけはすごい。もちろんアピールだけで、実績は全く伴っていない。濱様と同じシマにいて同僚として一緒に働いた連中は皆、濱様から被害を受けて、遠ざかっていた。違うシマにいると、生意気だけど可愛げのある後輩というおさまりのいい位置にいられるキャラなのだが。軒並み動機からの評判は最悪だった。

過去、濱様は本社の経理部に一本釣りされたが、上司からパワハラを受けているといって人事に泣きついていた。その上司は人格者として有名で、あんな人が濱様にパワハラなんかするわけがないというのが周囲の統一的な見解だった。結局、濱様だけ案の定飛ばされた。

「今野さんも、今、結構本社でバリバリやられてるかと思うんですけど」
「いや、俺ももうそろそろ一線引こうかと思ってるんだよ。最近コロナとかで、いろいろ考えるとこあって」
「え、だって、もう補佐職じゃないすか。正直、もったいなくないすか」
「仕事より、家族とか健康の方が大事だし」

俺の話を聞くにつけ、途端に濱様は話の方向性を変えてきた。
「そっすね。それもありだと思います。自分ももうそういうので勝負しようと思わないっすもん」
「あ、濱くんもそうなんだ」
俺は苦笑いした。

「あ。でも、濱くんの同期の今井くん、この前、企画で社長賞取ってたよ。本社でも目立ってるって」
「はあ、今井っすか」
濱様のハイボールをくいっとかきこんで、ブツブツ言いながら、こう捲し立てた。
「あいつ、仕事はあれでも、人間力とか全然ないっすよ。俺の方が全然アイツより人間的な器は上だと思ってます」
これには皆、苦笑いするしかなかった。コイツはたぶん一生こうなんだろうなあと思いながら、引き続き飲み会のネタを提供してくれることを期待して、濱様を呼び続けることになるだろう。

そうしているうちに、皆、濱様を追い抜かしていくだろうが、濱様はずっと人間的なレベルとやらで、俺たちの上に立ち続けていることになるだろう。裸の王様で居続けること。彼にとって、それが一つの幸せなのかもしれないと思った。

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