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「今後は手段を選べぬということだ」ジオンとニュータイプとシャアの目的~機動戦士ガンダム 第38話「再会、シャアとセイラ」感想

にらみ合い(その1)

ナレーター「今、ホワイトベースとマ・クベ艦隊はテキサスゾーンの漂流物に身を隠し、互いの位置を確認できないまま対峙していた」

今回は前回のラストシーンのすぐあとから始まる。

ギャン撃破による大爆発でコロニーの壁が破壊された。コロニーの壁が爆発で壊れるシーンからそのまま映像は宇宙空間を動いていって、コロニーの外で繰り広げられているホワイトベースとマクベ艦隊との戦闘に場面が移行する。

コロニー内の戦闘から宇宙空間での戦闘へ自然に場面移行する。非常にうまいやり方である。

さて、ホワイトベースとマクベ艦隊の戦闘はにらみ合いの状態だ。お互いに漂流物に身を隠し、自分の位置が敵方に把握されないようにしている。

小惑星にホワイトベースの影が落ちている描写など、状況描写も非常に細かいところまで行き届いていて物語のリアルさを醸している。

アムロ「誰だ?誰が僕を見ているんだ?」
ララァ「大佐、ありがとう」
シャア「なにを言うのだ、ララァはただの戦士ではない。運が良かった。空気の流出が弱まってきたぞ。急いでザンジバルへ戻れ」
ララァ「はい、大佐」
シャア「私はガンダムを食い止める」
ララァ「はい。でも大佐は?」
シャア「ララァ、私の心配なら無用だといつも言ってるはずだ。さあ、早く行くがいい」
ララァ「赤い彗星のシャア、信じています」

アムロとララァはお互いに誰かが自分のことを見ているような感覚を抱いている。ニュータイプ同士が接近するとこういう現象が起こるようだが、ララァもアムロもお互い何が起きているのか状況が理解できていない。

前回、ララァをギャンの爆発から身を挺して守ったシャア・ゲルググ。ここでもシャアは「ララァはただの戦士ではない」と特別視する発言をしている。そのララァだが今回もあまり出番はない。いつになったら出撃するのか。

にらみ合い(その2)

ブライト「アムロも気がかりだが、さて、この状態では先に動いた方が不利になるしな・・・。ミライ、どう思う?」
ミライ「そうね。アムロは大丈夫、生きているわ」
フラウ「なぜそんなことが言えるんですか?」
ミライ「そうね、なんとなくわかるのよ」
フラウ「アムロ・・・」

ウラガン「デラミン艦長、戦力ではこちらの方が圧倒的に有利であります、攻撃を!」
デラミン「いかん。敵は1隻とはいえ大型戦艦だ。こちらがのこのこ出て行けば・・・」
ウラガン「しかしこちらはバロメルが攻撃を受けて」
デラミン「ウラガン中尉!」
ウラガン「艦長」
デラミン「君はマ・クベ大佐の下に長年いて何を学んだのだ?あ!?まもなくバロム司令の艦がここに着く。それまで待つ」
ウラガン「は・・・」

ふたたび場面は宇宙空間へ。ホワイトベースはウラガンのムサイ艦隊とにらみ合いを続けている。どれくらいの時間膠着状態が続いているのかはわからないが、後ほど描かれるフラウボウの様子からして、ソロモン攻撃から戦闘続きで休む時間はほとんどなかったと思われる。

ここでフラウボウが「なぜそんなことが言えるんですか?」と立ち上がって声を荒げるシーンがあるが、かなり唐突な印象を受ける。

フラウボウが他のクルーに対してきつく当たるシーンはこれまでにも何回かあった。一例を挙げれば第14話「時間よ、とまれ」で、ガンダムに仕掛けられた爆弾の解除作業中に「ブライトさん!なんでみんなで助けないんですか?一緒にやればもっと早くすむのに」と詰め寄るシーンがあった。

ここでフラウボウが語気強めにブライトとミライに「どうして?」と問うのはフラウボウの過労を表現するものであろう。肉体的な疲労から精神的な余裕がなくなり、安易に「アムロは大丈夫」と判断するミライ達にイラついてしまったといったところだろう。

均衡状態が続くホワイトベースとムサイだが、この後ジオン軍、連邦軍共に援軍の到着により一気に事態が動き始める。

アムロvsシャア(9戦目)

シャア「見つけたぞ、ガンダム」
アムロ「ララァだ、ま、間違いない」
アムロ「・・・シャアがう、うしろから仕掛けたのか?それとも別の敵か?」
シャア「厄介なことになりそうだ。ガンダムのパイロットもニュータイプだとはな。もう一度試してみるか」

アムロがララァの車に気を取られて油断している隙にシャアがガンダムの後方からビーム発射!

しかし、ガンダムがギリギリでかわす。

これを見たシャアがガンダムのパイロットもニュータイプと気づいた。ただし、まだパイロットがアムロ(=サイド6で出会った少年連邦兵)というところまでは気づいていない。

アムロ「わあーっ」
シャア「チィッ」
アムロ「あああっ!!ああ!」
シャア「間違いなさそうだな。私の射撃は正確なはずだ、それをことごとくはずすとは」
アムロ「あっ、よ、横からか!クッ、今度は前からか。さ、さすがだなシャア!」

ガンダムがゲルググを捕捉できていないことを利用し、いろんな角度から攻撃を仕掛けるシャア。しかし1発も当たらない。こうした状況からシャアはガンダムのパイロットがニュータイプであることを確信する。

このシーン、ガンダムの動きが素晴らしい。空中でゲルググに接近しながらビーム攻撃を最小限度の動きでスレスレをかわしていく。

シャアも「私の射撃は正確なはずだ、それをことごとくはずすとは」とニュータイプの能力に感嘆する。

しかし、シャアも手練れである。ガンダムの背中のバックパック部分に見事命中。アムロも思わず「さ、さすがだなシャア!」ともらす。お互いに認め合ったライバル同士だからこそのセリフ回しである。

アムロ「どこだ?シャア。どっから?ようし、見てろ!シャア、読めたよ」
シャア「なんだと?」
アムロ「くあっ!」
シャア「しまった!」
アムロ「ああっ!も、もう少し早く反応してくれ!!ぐ・・・シャア」
シャア「あっ?ええい、慣らし運転もしないで使うと・・・」
アムロ「逃がすか!!ああっ!!・・・だいぶ消耗して。・・・もう一息だったのに。あっや、やったのか?でも、あのシャアが・・・」
シャア「だいぶやられたな。偽の爆発であのパイロットを騙せたとも思えんが」

ガンダムがゲルググの姿を捉えた。ガンダムがジャンプして一気に間合いを詰め、ビームサーベルがゲルググの右手をクリーンヒット。

ゲルググもガンダムを蹴り飛ばし双刃刀で攻撃するが、地面を転がって回避する。

最後、ビームサーベルがゲルググのわき腹にヒットし、ゲルググは撤退を余儀なくされる。

ガンダムが地面を転がりながらゲルググの刀を避けるシーンは、チャンバラ映画やカンフー映画、ウルトラマンシリーズ等でよく見るシーンの引用である。機動戦士ガンダムもこうした格闘ものの系譜に位置付けられる作品ということだ。

さて、シャアはガンダムの攻撃を受けてあっさり撤退しているが、そもそも今回のシャアの戦闘目的はララァが避難するまでの時間稼ぎであり、ガンダム撃破は目的に入っていない。偽の爆発も時間稼ぎの一環だ。

援軍の到着とあっけない幕切れ

ワッケイン「ホワイトベースとはまだ接触できんのか?」
連邦兵A「は、この付近はミノフスキー粒子の濃度が高い上に、こう漂流物が多くては」

場面は再度宇宙に移ってワッケインのマゼランである。マゼランはホワイトベースと接触するためテキサスコロニー付近を探索中だ。しかし、ミノフスキー粒子が濃く、さらに漂流物も多いので、作業が難航している。

マゼランがこの領域を航行しているのは、ソロモン攻略後の掃討作戦の遂行中だからということでよいだろう。

そんな中、バロムの戦艦に接近しそのまま戦闘に入る。

バロムは第36話「恐怖!機動ビグ・ザム」でソロモンの援軍として月面基地グラナダから派遣された将校である。しかし、到着前にソロモンは連邦軍の手に落ち、バロムはグワジンで残党兵の救出活動にあたっていた。

マクベ「どうだろう?大佐はこのグワジンでゼナ様をグラナダへお届けしろ。私はチベに移り、今後の連邦の動きを見届けたいのだ」
バロム「は、奇襲を掛けるにしてはすでに時を逸したようですし」
マクベ「そうだな。君はあくまでもソロモンが持ちこたえられた時の作戦参謀だった」
バロム「情報収集と脱出者救助の艦を残します」
マクベ「よかろう。私もその任務に就こう」

第36話

バロムはマクベ艦隊の救援に向かっていたところにワッケインのマゼランに遭遇したということだろうか。このあたりのバロムやマクベの艦隊の行動理由がいまいちよくわからない。

ジオン兵B「ポイントA17、B33付近で戦闘光らしきもの確認。バロム司令の予定コース上です」
ウラガン「艦長、まさかバロム司令の」
デラミン「ああ、やむを得んな。全艦、現地点を急速離脱。該当地点に向かう」

ウラガンのムサイ艦隊がバロムの救援に向かう。しかし、動き出した瞬間をホワイトベースは見逃さなかった。すかさずセイラがGファイターで出撃、ホワイトベースも主砲とミサイルで総攻撃を仕掛ける。後方から仕掛けられたウラガンの部隊はあっという間に壊滅。

その後、バロム艦もワッケインによって撃沈。均衡が崩れてから一気にジオン側は壊滅してしまった。

ワッケイン「ブライト君、中には敵の生き残りがいるかもしれん、気をつけてな。私は外で待つ。ホワイトベースか。たくましくなったものだ」

ワッケインと接触したホワイトベースはそのままテキサスコロニーに進入。ガンダムの回収作業に入る。

ルナツーでブライト達を拘束したり、民間人を門前払いしたりした頃のいや~な感じは一切ない。ブライト達を同じ軍人として対等に扱っている。「ホワイトベースか。たくましくなったものだ」とつぶやくワッケインには急成長を遂げるホワイトベースに対する期待まで感じさせる。

お疲れのフラウボウとドラマ作り

ミライ「着地、完了」
ブライト「よし。オムル、セイラ、ジョブ、捜査に出てくれ。アムロを発見できるまで第2戦闘配置。カイはガンキャノンでスタンバらせろ。フラウ、無線の状態はどうだ?フラウ!無線の状態はどうか?」
フラウ「え?あ、はい、使えそうです」
ブライト「・・・」

ジョブ「あれは?こちらジョブ・ジョン、こちらジョブ・ジョン、ホワイトベース」
フラウ「・・・あ、は、はい!こちらホワイトベース、どうぞ」
ジョブ「まだガンダムは発見できません」
フラウ「了解。ブライトさん!」
ブライト「了解した。フラウ、ハヤトの容体を見てきてくれないか?ハヤト、寂しがってるだろう」
フラウ「でも」
ブライト「フラウ、バンマスをすぐに上がらせろ」
フラウ「はい、わかりました」
ブライト「はぁ・・・みんな疲れているんだ」

テキサスコロニー内に着地したホワイトベース。ガンダム捜索のためにバギー3台を出動させる。

ここでフラウボウが疲労困憊でぼーっとする様子が描かれている。

これを描く意味は、一つは、先ほど書いたようにソロモン攻撃から戦闘続きでクルー達には休む暇があまりなかったことを表現すること。

そしてもう一つは、この後のシャアとセイラの会話をブライトに聞かせるドラマ作りのためである。

ブライトは過労気味のフラウボウを見て、ハヤトの容体を見てくるように指示するとともに、サブブリッジのバンマスにブリッジに上がるように指示した。この交替の間、ブライトがバギー隊と直接通信することとなり、シャアとセイラの会話を耳にすることとなったわけだ。ドラマの作り方が実にうまい。

ジンバ・ラル

シャア「ジンバ・ラルの教えてくれたことは本当のことかもしれない。あのじいやの口癖だったからな」

ジンバ「(お父様のジオン様がなぜジオン共和国をおつくりになったのか。それは、ニュータイプとして再生する人類全体の未来を考えてのことでございました。ところが急の病に倒れ、その御臨終のきわにお父上はデギン公を御指名になったのです)」
デギン「(・・・私ごときを次期首相にと?)」
ジンバ「(私はジオン様の御気性をよく存じております。デギン公を御指名になったのは御自分の暗殺者がデギン公だと教えたかったのです。そうでなければ、御父上のお味方が次々と倒されたり、キャスバル様とアルテイシア様に嘘の名前まで付けて地球でお育てするようなことを、このじいはいたしません)」

セイラのバギーにシャアが乗り込む。ここが今回のハイライトである。

ジンバ・ラルの名前が久しぶりに登場した。前回登場したのは第20話「死闘!ホワイト・ベース」のランバ・ラルのセリフである。

ラル「・・・間違いない、アルテイシア様に違いないな。私をお忘れか?あなたの父上ジオン・ダイクン様に御仕えしたジンバ・ラルの息子ランバ・ラルですぞ」

第20話

このジンバ・ラルのセリフからジオン公国建国の経緯が明らかになった。

まず、シャア(キャスバル)とセイラ(アルテイシア)の父親ジオン・ダイクンがジオン共和国を建国。建国理念の根幹には「ニュータイプ」概念が深く関わっている。なお、ニュータイプの語が登場するのはこれが最初である。

その後、デギンがジオン・ダイクンを暗殺。臨終の際、ジオン・ダイクンはデギンが黒幕だと知らせたかったようだが、それを逆手にデギンは「自分が後継の首相に指名されたぞー」と吹聴して首相に就任。政敵となるべきジオン・ダイクンの息のかかった者を次々と殺害し、国家体制も公国(君主制)に変更。キャスバルとアルテイシアは名前を変えて地球で亡命生活を送るようになる。

このあたりの経緯を見るにつけジオン・ダイクンの無念は察するに余りある。シャアがザビ家への復讐を考えるに至ったのも頷けるというものだ。

シャアの目的は何か?

シャア「ジオンに入国してハイスクールから士官学校へ進んだのも、ザビ家に近づきたかったからだ。しかしな、アルテイシア、私だってそれから少しは大人になった・・・。ザビ家を連邦が倒すだけでは人類の真の平和は得られないと悟ったのだ」
セイラ「なぜ?」
シャア「ニュータイプの発生だ」
セイラ「アムロがニュータイプだから?」
ブライト「(ニュータイプ?)」
シャア「うん、そのニュータイプを敵にするのは面白くない。今後は手段を選べぬということだ」

シャアはザビ家への復讐のためにジオンに入国、ハイスクールから士官学校へ進む。連邦軍との戦争が始まって、ガルマを亡き者にすることに成功した。

しかし、すでにシャアの目的は別のところにあるらしく「ザビ家を連邦が倒すだけでは人類の真の平和は得られないと悟ったのだ」という。そしてその理由として「ニュータイプの発生」を挙げる。これはどういう意味だろうか。

シャアが「ジンバ・ラルの教えてくれたことは本当のことかもしれない。」といっているところを見ると、シャア自身ニュータイプの能力を持った人間が本当に存在しうるのか半信半疑だったのだろう。ジオン共和国建国の理念であるニュータイプの存在が疑わしい中で、当面シャアはザビ家への復讐に力を注ぐ。

しかし、ララァの存在を知りシャアはようやくニュータイプの存在を確信する。シャアはザビ家を打倒し、父ジオン・ダイクンの悲願であるニュータイプによるニュータイプのための国家であるジオンを再建しようとしていたのではないか。

ところが、ガンダムとの戦いの中で連邦軍にもニュータイプがおり、さらにニュータイプがすでに実戦投入されていることを知る。つい先ほどのことだ。もっともこれは連邦軍が組織的に研究していることではなく、まったくの偶然なわけだが。

連邦政府の圧政から逃れるためにニュータイプの国家を建国したとしても、連邦政府側にもニュータイプが存在するのであれば、ニュータイプは分裂状態でお互いに殺しあうことになるし、連邦政府の支配のもと戦争の道具として利用されるだけの存在になってしまう。それはジオン・ダイクンの掲げた建国理念と相容れない。

しかし、そうだとして、ではどうすればシャアやジオン・ダイクンの理想は実現できるだろうか。シャアの言う通り「ザビ家を連邦が倒すだけ」では不可能だろう。

シャアは「今後は手段を選べぬということだ」という。シャアがどのような未来を描いているのか、どう振舞えばいいのか。そこは語られなかったが、状況は混迷を極めている。

一つ言えることは、シャアの目的をこのように解釈するとララァはやはりシャアにとって一つの駒に過ぎないのではないかということだ。

ジオン・ダイクンの理想をシャアが受け継いでいるのだとすればニュータイプであるララァのことをシャアがむげにするとも思えないが、他方で「今後は手段を選べない」とも言っている。

シャアは狡猾な人物で誰かを利用することをなんとも思わないし、常に何かを企み腹の中をなかなか明かさない。他方、ララァはシャアを完全に信頼している。

ララァの立場はなかなか不憫だ。

シャアの置き土産

バンマス「ワッケイン隊からです。テキサスの反対側の港からザンジバルタイプの戦艦が出港すると」
ブライト「なんだと?ガンペリーの発進は中止だ。ホワイトベース直進してガンダムとオムル達を収容する」

ブライト「よしミライ、発進だ。ザンジバルの使った港から出て追撃戦に移る」
マーカー「第3シャッター付近に発信物体をキャッチしました」
ブライト「爆発物か?」
マーカー「・・・わかりません。ただ、非常に小さな物です」
ブライト「ええい、この緊急の時に。オムルに調べさせろ」
カイ「ブライト!爆発物じゃないらしいぜ。ただのゴミだ、ゴミ!」
オムル「おっとっとっとっとっと」

シャアとララァのザンジバルがテキサスコロニーを出港する。外にはワッケインのマゼランが待機しており、ザンジバルと交戦状態に。ホワイトベースもガンダムを回収後援軍としてザンジバルを追撃する。

ホワイトベースがテキサスコロニーを出港する。ホワイトベースが出港する様子はさきほどザンジバルが出港する様とまったく同じ構図である。ホワイトベースがザンジバルを追っていることが視覚的にも容易に理解できるようになっている。

ところが、そこに発信物体キャッチの報が入る。爆発物の可能性も考えて詳細をチェックするようブライトが指示を出す。このチェック作業のためにホワイトベースの出港がわずかに遅れたことがマゼランの運命を左右することとなる。

なお、このとき回収された物体は金塊の入ったトランクで、先ほどシャアがセイラに「金塊を残していく」と言っていたものだ。このあたりもドラマの作り方が自然で非常にうまい。

ワッケインの死

ブライト「・・・ワッケイン司令」
ミライ「あっ」
カイ「シ、シャ、シャアの野郎!」
アムロ「お、遅かったのか・・・」
フラウ「あっ」
ブライト「ワッケイン司令・・・」

ホワイトベースの眼前には撃沈されたマゼランの残骸が広がっている。

ホワイトベースは間に合わなかった。ホワイトベースが戦闘に間に合わなかったのは、テキサスコロニーを出港しようとした際にシャアの残したトランクの確認で出港に手間取ったからである。このあたりのストーリーテリングやドラマの作り方がストーリー的にも自然で非常にうまい。

ザンジバルがマゼランを撃破する瞬間を描くのではなく、ホワイトベース目線で戦闘の終わった戦場を描くことで戦闘行為の無情さ、あっけなさが強調されている。

マゼランに向かってブライトが敬礼をする。このブライトの敬礼はいわゆる海軍式と言われている形式のものである。

敬礼の仕方は陸軍と海軍で異なっており、陸軍式の敬礼は肘を横に張り出す形になるのに対し、海軍式の敬礼では肘を張り出さず脇を締めるコンパクトに行う。これは空間の狭い軍艦内でも他者にぶつからないようにするためと説明されることが多い。機動戦士ガンダムの世界の宇宙空間を航行する戦艦は海軍式にならっているということだろう。

ただ、こちらのサイトの記載によれば、海軍式敬礼なる特別の形式のものはそもそも存在せず、終戦近くに一部で指導された敬礼の形式が戦後になって海軍の「正しい」敬礼として流布されたと指摘している。

旧海軍における敬礼は基本形は基本形としつつ、現実にはその時その時、その人その人によって形が異なる、ということです。
そしてこれは、旧海軍自身が敬礼の 「形」 そのものについてはそれほど厳格にしてこなかったということもあります。それはそうでしょう。例えば狭い艦内の通路では当然ながら臂を張らない脇を締めた形にならざるをえませんし、逆に広い練兵場に整列した多くの兵員を前にして壇上から答礼する場合には臂を横に張った形になることもあるでしょう。
ですからこれが逆に、終戦近くなって、極端に脇を締めて肱を前に出す “おかしな” 敬礼が一部で言い出され、指導がなされたこともありましたし、またそれを習った一部の旧海軍軍人の中には戦後になって 「海軍の敬礼は ・・・・」 という人達も “中にはいる” ことも確かです。
そしてこれがさも旧海軍における “正しい” 敬礼であったかのように流布されることになります。“狭い艦内では、云々 ・・・・ ” などともっともらしく。

海軍須知「第2話 海軍式敬礼?」

こうした一部で流布していた「海軍式敬礼」が映画・アニメの製作者によって摂取され映像表現に取り入れられていき、映画・アニメを通じて一般にも流通するようになり、「海軍式敬礼」が実体のあるものとして扱われるようになったということらしい。

ことの真偽は定かではないが、なるほど、なかなか説得力のある説明である。

なお、ガンダム世界の戦艦が海軍を模倣していると考えられる表現は第4話「ルナツー脱出作戦」でも見られた。第4話ではパオロの遺体が宇宙へ放たれるシーンがあるが、これは宇宙で行われる「水葬」である。長期間の航海が予定されている軍艦では遺体を長期保存することができず、やむを得ず水葬をしていたという歴史がある。遺体を宇宙へ放出するのは軍艦で行われてきた「水葬」を宇宙空間に応用したものだ。

セイラの告白

ブライト「トランクに貼り付けてあった手紙がセイラ宛てだということしか私は知らん。オムルもだ。心当たりはあるのかね?」
セイラ「あります」
ブライト「私には検閲する権利もあるが、教えてもらえんか?トランクの中身と差出人のことを」
セイラ「トランクの中身はきっと金塊だと思います」
ブライト「間違いないのだな?」
セイラ「おそらく」
ブライト「差出人は?」
セイラ「シャア・アズナブル、赤い彗星です」
ブライト「・・・そんな馬鹿な!」

シャア「先の約束を果たされんことを切に願う。あのやさしき、アルテイシア・ソム・ダイクンへ。キャスバル・レム・ダイクンより愛をこめて」
セイラ「・・・兄さん・・・」

トランクについてセイラを尋問するブライト。セイラの口から「シャア・アズナブル」の名を聞いた時のブライトの心境はいかばかりだろう。信頼していた部下が実はジオン軍のスパイだったのかもしれない。

ラストでセイラは自室で泣き崩れるシーンでこの回は終わるが、普通に考えてスパイ容疑のある兵士は即座に身柄を拘束し独房入りである。次回以降のセイラの処遇が気になるところである。

第38話の感想

今回も実に濃厚な回であった。

まず、ニュータイプ・アムロの成長が著しい。ゲルググとの戦闘はスピード感にあふれていて見応え十分である。戦闘中、アムロが「も、もう少し早く反応してくれ!!」というシーンはおそらくはアムロの反応速度にガンダムの性能が追いついていないことの表れと捉えてよいだろう。当初ガンダムの性能に助けられてばかりだったアムロが急成長を遂げ、ここに至ってガンダムの性能を凌駕するようになったわけだ。なかなか感慨深いものがある。

また、ワッケインの描かれ方の変化も気になるポイントだ。第4話で登場したワッケインは徹頭徹尾官僚主義的・権威主義的で終始いや~な感じの付きまとう融通の利かない軍人として描かれていた。それが今回はそういった印象はなく優秀な指揮官として描かれている。こうした視点から第4話をもう一度見直してみるとまた違った解釈ができるかもしれない。なかなか深掘りさせる作品である。

そして何といってもシャアとセイラである。二人の会話からジオン建国の経緯が明らかになった。そしてそこにニュータイプが深く関わっていることも明らかになった。シャアにしてみればザビ家を打倒し、ララァとともに理想のジオンを建国しようと思っていたのだろうが、連邦側もニュータイプを実戦投入していることを知って計画の根本的な変更を余儀なくされたといったところだろう。

敵方にもニュータイプがいることを知りシャアは「今後は手段を選べぬということだ」とつぶやく。シャアの関心はザビ家の打倒からニュータイプへと変化した。今後のシャアの行動にも目が離せない。

次回予告を見て、いよいよララァが出撃するようだ。またシャリア・ブルというニュータイプも登場するらしい。

いよいよニュータイプ同士の戦闘が始まる!

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