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新時代の戦争とニュータイプがもたらす未来~機動戦士ガンダム 第39話「ニュータイプ、シャリア・ブル」感想

奇妙な事件

ナレーター「昨日まではジオン公国の宇宙戦略の一翼を担っていたソロモンではあったが、今や地球連邦軍の拠点として活動を始めていた。これによって、連邦はジオン進攻の強力な足掛かりを得たのである。援軍が補強され、連邦軍の乾坤一擲の作戦が開始されるのもすでに時間の問題と思われた時、ソロモンに奇妙な事件が起こった」

連邦士官A「ま、また聞こえるぞ、ララだ」
連邦士官B「コースはEの6だが」
連邦士官C「現場なら敵が見えるだろ。え?こっちは電気系統の整備がまだ終わっちゃいないんだ、見える訳がないだろ。・・・おい、どうした?38エリア、38エリア!将軍!」

第36話「恐怖!機動ビグ・ザム」で連邦軍の手に落ちたソロモン。連邦の新兵器ソーラ・システムで大打撃を受けてはいるが、連邦にとってはジオン攻略への強力な宇宙拠点である。

オープニングで連邦軍の軍艦がソロモンに着艦する様子が描かれている。将校が一列に整列し、鼓笛隊も演奏で出迎える。軍艦から降りてきたのはレビルだ。


レビルといえば第25話「オデッサの激戦」で連邦軍を指揮して勝利に導いた将軍である。ここから一気に形勢が逆転し、連邦は宇宙攻略の足がかりを得た。

そのレビルが直々にソロモンに出向いているところを見ると、連邦は一気にこの戦争を終わらせるつもりなのだろう。

ナレーションにもあるとおり、連邦の乾坤一擲の作戦が開始されるかと思った矢先、事件が起きる。

ソロモンが何者かから攻撃を受けている。将兵たちが敵の位置を探索しているが見つからない。あわせて連邦兵が「ま、また聞こえるぞ、ララだ」と言うように、どこからとも知れない攻撃にあわせて「ララ」という声が聞こえてくる。

この現象は一体何なのか。その正体はすぐに明かされる。

ララァとモビルアーマー・エルメス

シャア「すごいものだな。あの輝きがララァの仕掛けたものとは、この私にも信じられん。ニュータイプのララァとモビルアーマー・エルメス、これほどのものとは」

ブライト「なんだ?爆発だぞ。マーカー、敵はどこにいるんだ?」
マーカー「見当たりません。どのみち、ミノフスキー粒子がえらく濃いようで」
ミライ「なにかしら?何かが呼んでいるような気がするわ」
ブライト「対空監視を全員にやらせろ!」
マーカー「はい!」
ブライト「ミライ、どうした?」
ミライ「え?」
ブライト「体の具合でも?」
ミライ「あ、いいえ、そうじゃないの。とにかく変なのよ、このソロモンの周り、すごく」
ブライト「変?そりゃ、殺気みたいなものは感じるが」
フラウ「ブライトさん!」
ブライト「なにか?」
フラウ「ホワイトベースは第1戦闘配置を取って入港を待て、との事です」
ブライト「了解。第1デッキ、第2デッキ、ガンダム、ガンキャノン、Gファイター、発進。第1戦闘配置を取らせろ」

奇妙な現象の正体はやはりララァだった。

ニュータイプ・ララァが新型モビルアーマーエルメスで、ソロモンのはるかかなたから攻撃を仕掛けていたというわけだ。ただし、この時点ではどういう方法で攻撃しているのかまでは明らかにされていない。そのあたりは今後描かれるはずだ。

場面が変わってホワイトベース。ホワイトベースからもソロモンへの攻撃が確認できた。しかし、敵機は見当たらないし、ミノフスキー粒子が充満しているのでレーダーも使えない。

ここでミライが「とにかく変なのよ、このソロモンの周り、すごく」と違和感を訴えている。おそらくミライもニュータイプの素質があり、ララァの発する何かに気付いているのだろう。他方で、ブライトは「そりゃ、殺気みたいなものは感じるが」と特に違和感は感じていない様子だ。

この空域に違和感を覚える者とそうでない者とがはっきり描き分けられている。ニュータイプの能力が発現する者とそうでない者とがいるということだ。しかし、なぜニュータイプ能力を発現する者とそうでない者がいるのか、その具体的な条件はまだ明らかでない。

さて、ホワイトベースはソロモンに入港するまで第1戦闘配置で待機である。あわせてガンダム、ガンキャノン、Gファイターが出撃する。

元ジオンの女

ブライト「セイラ、君を信じているが、戦いに私情は持ち込むなよ」
セイラ「ブライトさん、私の今までの行動は嘘ではなくてよ」
ブライト「指揮官として確認したまでだ。信じているよ」
セイラ「ありがとう。Gファイター、発進できます」

セイラ「仕方がないか。(元ジオンの女、シャアの妹、信じられなくなるのが当たり前よね)」

前回、セイラとジオン・シャアとのつながりを知ったブライトだが、セイラをスパイとして独房にぶち込むといったことはせず、そのまま出撃させている。

このあたりの描写はホワイトベース内の結束や信頼関係が強固になっていることを物語るものである。第16話「セイラ出撃」では、ブライトは勝手にガンダムで出撃したセイラを独房に収監したし、

第19話「ランバ・ラル特攻!」では、ガンダムを持って脱走したアムロを同様に独房に入れている。

あの頃、ホワイトベースは地球上のジオン勢力圏内を突破するために、補給もままならない状況下でギリギリの戦いを強いられていた。新米艦長であるブライトにも余裕がなく、ホワイトベース内の連携もバラバラだった。

過酷な状況でお互いに不信感やイライラが募り、大小さまざまな衝突が絶えなかった。

その頃に比べれば、ホワイトベースは成長した。艦全体が一つの部隊としてまとまっており、ブライト指揮のもと軍事行動が取れるようになっている。

ブライトがセイラを収監しないのも、お互い衝突しつつも数々の死地を乗り越えてきたという強い信頼関係が醸成されているからだ。「セイラ、君を信じているが、戦いに私情は持ち込むなよ」と必要最小限の釘だけ刺してセイラに出撃させる。

さて、戦闘の方はといえば、ホワイトベース側は相変わらず敵の居場所をつかめないまま。その一方で敵は連邦の軍艦を次々と落としていく。

途中、アムロが「何かが聞こえる!」といってララァと共鳴しているかのような、不思議な心象風景が描写されている。

シャア「ララァ、疲れたか?」
ララァ「はい、大佐。でも大丈夫です、まだやれます」
シャア「いや、今日はやめておこう。戦果は十分に上がっている。一度休んだ方がいい」
ララァ「はい、大佐」

アムロ「き、聞こえなくなった。何が聞こえていたんだ?確かに何かが呼んでいたのに」

ララァとシャアが攻撃をやめ帰還する。するとそれまで聞こえていた何かに呼ばれるような音声が聞こえなくなった。

ジオンのニュータイプ能力を駆使した攻撃に連邦軍はなすすべもなくやられっぱなしだった。今回は様子見だけでさっと引き上げてくれたからいいものの、ジオン軍の総攻撃が来たとき、果たして連邦軍は持ちこたえられるだろうか。

ソロモンを失い押され気味のジオンだが、ニュータイプの登場によって再度パワーバランスが変わるかもしれない。

木星帰りの男

ナレーター「これに先立つ数時間前、ジオン公国ザビ家の総帥ギレン・ザビは、木星帰りの男、シャリア・ブル大尉を謁見していた」

今回の主役シャリア・ブルの登場である。

シャリア・ブルは「木星帰りの男」という異名を持つ、ロマンスグレーの渋いおっさんだ。

機動戦士ガンダムの世界では月の軌道周辺までは日常的に宇宙船が航行している。月と地球の距離がおよそ38万キロメートルだ。これくらいの距離は数日程度で往来できるくらいに宇宙空間の航行技術が進んでいる。

しかし木星となると規模が違ってくる。こちらのサイトによると、地球と木星との距離は最も接近したときでも約6億キロメートルはあるらしい。

地球と木星間の距離は、地球と月の距離の1500倍以上の距離がある。ガンダム世界の航行技術をもってしても日常的に行き来できるものではないのだろう。

ちなみに、人類が初めて木星に探査機を打ち上げたのが1972年3月2日、探査機パイオニア10号である。

パイオニア10号が木星に最接近したのが1973年12月4日であるから、地球から木星まで約1年9か月かかっている。

機動戦士ガンダム世界の科学技術が現在よりも進んでいるとしても、やはりそれなりの時間(年単位?)はかかると考えてよいのではないか。「木星帰りの男」という異名が登場するのも、それがなかり特別なことだからである。

なお、細かいところであるが、ここの「謁見」という言葉の使い方が引っかかってしまった。コトバンクでは「謁見」とは「身分の高い人、または目上の人に会うこと。」と説明されている。

なので、ギレンを主語とするこの文で「謁見」を使うのは間違いだ。シャリア・ブルを主語にして「シャリア・ブルがギレンに謁見していた」とすれば語義が通る。

また、「謁見」の対義語として「引見」という言葉があるので、ギレンを主語とするのであれば「ギレンがシャリア・ブルを引見していた」とすればよい。

ギレン「今回の君の船団の帰還でヘリウムの心配はいらんわけだ。私とて何年もこの戦争を続けるつもりはないからな」
シャリア「総帥はこの戦争を1ヶ月で終わらせてみせるとおっしゃってました」
ギレン「それを言うな、シャリア・ブル。座ってくれ、本論に入ろう」
シャリア「は、ありがとうございます。しかし、お話のニュータイプの件ですが、わたくしは多少人よりカンがいいという程度で」
ギレン「君のことは君以上に私は知っているぞ」
シャリア「は?」
ギレン「木星のエネルギー船団を勤めた君の才能のデーターはそろっている。フラナガン機関に検討させた。その机の上にある」
シャリア「・・・シャリア・ブルに関するニュータイプの発生形態。わたくしにその才能があると?」
ギレン「そう、君は自分でも気付かぬ才能を持っている。もっとも、ニュータイプの事はまだ未知の部分が多いのだが、それを役立ててほしい。今度の大戦ではもう人が死にすぎた」
シャリア「・・・キシリア殿のもとへゆけと?」
ギレン「ほう、言わぬ先からよくわかったな。キシリアのもとで君の即戦力を利用したモビルアーマーの用意が進められている」
シャリア「御言葉とあらば」
ギレン「ん、空母ドロスが用意してある」
シャリア「は」
ギレン「私がなぜ君をキシリアのもとにやるかわかるか?」
シャリア「は・・・。わたくしには閣下の深いお考えはわかりません。しかし、わかるように努力するつもりであります」
ギレン「それでいい、シャリア・ブル。人の心を覗きすぎるのは己の身を滅ぼすことになる。ただ、私が君をキシリアのもとにやることの意味は考えてくれ」

シャリア・ブルが木星に行っていたのはヘリウムの調達のためのようだ。Wikipedia情報では木星の大気について「ほとんどが水素分子とヘリウムから構成され、大気における両者の比率は太陽とほぼ同じである。」との説明がある。

さて、ギレンがシャリア・ブルと引見しているのは、シャリア・ブルがニュータイプ能力を有しているからである。

ギレンとシャリア・ブルの会話を見ていると、シャリア・ブルは「わたくしは多少人よりカンがいいという程度で」と、自分がニュータイプであるとの自覚はないようだ。

ジオン軍はそうしたニュータイプ能力を「フラナガン機関」で調査・研究している。フラナガンといえば、第37話「テキサスの攻防」でララァ、シャアとともに馬車に乗っていたおっさんである。


ジオンもいよいよニュータイプを実戦に投入する段階に至ったというわけだ。

ところで、このシーン、ギレンは終始手元でペンのようなものをいじりながらシャリア・ブルと会話をしている。ニュータイプ能力を有する者を目の前にして、自己の内心を見透かされてしまうのではないかという漠然とした不安や居心地の悪さを覚えているのかもしれない。

ギレン「私がなぜ君をキシリアのもとにやるかわかるか?」
シャリア「は・・・。わたくしには閣下の深いお考えはわかりません。しかし、わかるように努力するつもりであります」
ギレン「それでいい、シャリア・ブル。人の心を覗きすぎるのは己の身を滅ぼすことになる。」

ギレンはそれまで手元に向けていた目線を上げ、まっすぐシャリア・ブルを見つめる。そして「私がなぜ君をキシリアのもとにやるかわかるか?」と問う。

シャリア・ブルは質問に正面からは答えず「わたくしには閣下の深いお考えはわかりません。しかし、わかるように努力するつもりであります」と軽くいなした形になった。

このときシャリア・ブルはギレンの内心をどこまで伺い知れたのだろうか。ギレンは最後に「人の心を覗きすぎるのは己の身を滅ぼすことになる。」と釘を刺すかのような発言をしている。続けて「ただ、私が君をキシリアのもとにやることの意味は考えてくれ」とこれまた意味深な言葉を投げかける。

このあたりのやり取りの意味するところを読み解くのは難解だ。そもそもギレンやキリシアはニュータイプのことをどう思っているのか。2人の考えに差異はあるのか。そのあたりはまだ物語中で描かれていないように思われる。もう少し進めば明らかになってくるだろう。

ここ数話、ニュータイプが物語上で語られるようになってからストーリー自体がかなり難解になってきている。

ブラウ・ブロ再登場

キシリア「この船でシャリア・ブルという男も来ておるのだな?」
ジオン将官A「は。シムス中尉と共にブラウ・ブロを使わせます」
キシリア「・・・もし、そのシャリア・ブル大尉の能力がララァより優れているのなら、エルメスをシャリア・ブルに任せることも考えねばならぬ。その点、シャア大佐にはよく含み置くように、と」
ジオン将官A「は、伝えます」
キシリア「木星帰りの男か。ララァよりニュータイプとしては期待が持てるかも知れぬ」

シャリア・ブルを乗せた空母ドロスが月へ到着。キシリアがその様子を見ながらブラウ・ブロやエルメスに言及する。

ブラウ・ブロは第33話「コンスコン強襲」で登場していた。

この時はパトロール中のGアーマーと接近してしまい、偶発的に戦闘に至った。実験段階かつエンジンも故障中ということもあり、このときはGアーマーに撃破されてしまったが、今回は満を持しての出撃である。

パイロットはニュータイプのシャリア・ブルだ。果たしてどんな戦闘を見せるのか。

ところで、キシリアは「ララァよりニュータイプとしては期待が持てるかも知れぬ」とシャリア・ブルの能力に期待を寄せており、シャリア・ブルの方が優れるのならエルメスをシャリア・ブルに任せるとまで言っている。

シャアのララァへの入れ込み具合からして、この判断はシャアにはできないだろう。

第34話「宿命の出会い」でシャアが語っていたように、キシリアは目の前の敵のことだけではなく、戦争全体を見通し、戦争後のことまで考えることができる大局観をもった人物だ。

シャア「やむを得んな。ドズル中将もコンスコンも目の前の敵しか見ておらん。その点キシリア殿は違う。戦争全体の行く末を見通しておられる」

第34話「宿命の出会い」

そうしたキシリアからしたら、戦争に勝つためにエルメスのパイロットを交代させるのももっともな判断だ。キシリアにこのセリフを言わせることで、シャアがララァへ入れ込みすぎて視野狭窄に陥っているのではないかと思わせる演出効果がある。

サイコミュ?

シャア「わかったのか?ララァが疲れすぎる原因が」
フラナガン「脳波を受信する電圧が多少逆流して、ララァを刺激するようです」
シャア「直せるか?」
フラナガン「今日のような長距離からのビットのコントロールが不可能になりますが?」
シャア「やむを得ん、というよりその方がよかろう。遠すぎるとかえって敵の確認がしづらい」
フラナガン「そう言っていただけると助かります。なにしろ、サイコミュが人の洞察力を増やすといっても・・・」

また新しい用語が出てきた。「ミノフスキー粒子」しかり「ニュータイプ」しかり、機動戦士ガンダムではガンダム世界独自の概念が何の説明もなしに登場する傾向が強い。この「サイコミュ」も同様である。

文脈から意味内容を推測するほかないが、フラナガンが「サイコミュが人の洞察力を増やすといっても・・・」と言っているところからすると、人の洞察力=「物事の性質や原因を見極めたり推察したりするスキルや能力」を増幅させる装置とかシステムとかそういったものであろう。

ここでは「洞察力」といっているが、人の持つニュータイプの能力を増幅させるものと考えてもよいのかもしれない。そして、サイコミュによって増幅されたニュータイプ能力を用いて「ビット」と呼ばれる装置を操作し、超長距離から攻撃するというもののようだ。知らんけど。

ニュータイプの能力をどのように実戦に応用するのかについて科学的っぽい説明がなされており、なかなか考察しがいのあるセリフである。この先、このあたりのより詳しい設定が説明されるものと期待したい。

ララァとシャリア・ブルとシャア

シムス「シムス・バハロフ中尉、シャリア・ブル大尉、ただいま到着いたしました」
シャア「ご苦労、シャアだ。こちらがエルメスのパイロット、ララァ・スン少尉」
シムス「フラナガン機関の秘蔵っ子といわれるララァ?」
シャア「なにか?」
シムス「いえ、少尉の軍服の用意がないのかと」
シャア「補給部隊には言っているのだがな。こんなぞろぞろした格好で艦の中を歩き回られて困っているのだ」
シムス「シャリア・ブル大尉」
シャリア「ん?なるほど・・・。大佐、この少女、ああいや、ララァ少尉から何かを感じます。そう、力のようなものを」
シャア「で、大尉は私から何を感じるのだね?」
シャリア「いや、わたくしは大佐のようなお方は好きです。お心は大きくお持ちいただけるとジオンの為に素晴らしいことだと思われますな」
シャア「よい忠告として受け取っておこう。私はまた友人が増えたようだ。よろしく頼む、大尉」
シャリア「いえ、もし我々がニュータイプなら、ニュータイプ全体の平和の為に案ずるのです」
シャア「人類全体の為に、という意味にとっていいのだな?」
シャリア「はい!」
シャア「ララァ、わかるか?大尉のおっしゃることを」
ララァ「はい」
シャリア「・・・ララァ少尉はよい力をお持ちのようだ」
シャア「だがな、シャリア・ブル大尉、厄介なことはガンダムというモビルスーツのパイロットがニュータイプらしい。つまり、連邦はすでにニュータイプを実戦に投入しているということだ」
シャリア「は、ありうることで」

ララァとシャリア・ブルとシャアの初対面である。シャアは「で、大尉は私から何を感じるのだね?」とシャリア・ブルに尋ねる。

シャリア・ブルは「いや、わたくしは大佐のようなお方は好きです。お心は大きくお持ちいただけるとジオンの為に素晴らしいことだと思われますな」と微妙にずれた回答をする。

ここのやり取りは先ほどのギレンとシャリア・ブルとのやり取りと対をなしている。シャリア・ブルはギレンとシャアから何を感じ取ったのだろうか。

「兄は鬼子です!」

セイラ「どうぞ。すみません、わざわざ」
ブライト「いや・・・。こんな時に何かね?」
セイラ「あなたの誤解を解いておきたくて」
ブライト「僕の誤解?」
セイラ「腹が立つんでしょ、私があのシャアを知っていて隠していたこと」
ブライト「まあな」
セイラ「シャアは私の兄なんです」
ブライト「兄?兄さん?またそれがなんで?」
セイラ「事情はいろいろとね」
ブライト「・・・で、艦を降りるつもりなのか?」
セイラ「いえ、もうそれもできないでしょうね。ホワイトベースに愛着もあるし、それにできもしないことをできると信じている兄を思うと、刺し違えてもいいって」
ブライト「セイラ!」
セイラ「兄は鬼子です。父の本当の望みを歪めて受け止めて、自分ができるなんて。キャスバル兄さんじゃありません」
ブライト「本名かい?キャスバル・・・」
セイラ「ええ。キャスバル兄さん」
ブライト「で?」
セイラ「・・・ごめんなさい、ブライト。これ、兄が私にくれた金の延べ板です。これをホワイトベースのみんなでわけてください」
ブライト「その方がいいのか?」
セイラ「私がすっきりします。こんな自分勝手な言い草はないと思いますけど」
ブライト「セイラの選んだ道はつらいぞ」
セイラ「承知しているつもりよ」
ブライト「わかった。以前と同じように君を扱うだけだ」
セイラ「ありがとう、ブライトさん」
ブライト「いや、君の強さには敬服するだけだよ。頭で考えるほど楽なことではないと思うがな。ま、あてにするぞ、セイラ」
セイラ「わかっているわ」

「鬼子」とはなかなか聞きなれない言葉が登場した。1979年当時アニメを見ていたちびっ子達は絶対に理解できなかったことだろう。

① 鬼に似て異様な容貌で生まれてきた子。多く歯、または髪が生えて生まれた子にいう。
② 鬼のように荒々しく強い子供。
③ 両親に似ていない子。比喩的にも用いる。

コトバンクから引用したが、ここでは②、③の意味で使用されていると考えられる。

前回、ジオン・ダイクンによるジオン共和国建国の理念について検討し、シャアの目的がザビ家への復讐からニュータイプによるニュータイプのための国家の再建を考えているのではないかと分析した。そして連邦側もニュータイプを実戦投入していることを知ったシャアは「今後は手段を選べぬ」と言う。

シャアの目的や今後の行動が読めない中で、セイラも思い悩んだはずだ。

ブライトとの会話でも「できもしないことをできると信じている兄を思うと、刺し違えてもいいって」とまで思い詰めていることも吐露している。

「父の本当の望みを歪めて受け止めて、自分ができるなんて。」と、シャアが父ジオン・ダイクンの建国理念を歪めて受け止めているとセイラは理解しており、そのことを指して「兄は鬼子」と言っている。

したがって、ここでは親とはまったく別の考えを持ってしまった子供、そしてその子供が「手段を選べぬ」と言って戦争の世界で奮闘する様を表しているので、上記の②、③の意味で用いられていると考えるべきだろう。

思えば第30話「小さな防衛線」でシャアと再会してから、セイラは悩み続けてきた。

第31話のビグロ戦では「パイロットが兄だったら!?」と考えてしまい、その結果生まれた一瞬の隙に足元をすくわれピンチを招いてしまった。

前回のシャアは、妹であるアルテイシアに「マスクをしている訳がわかるな?私は過去を捨てたのだよ」、「お前に戦争は似合わん。木馬を降りろよ!」と言って妹と決別の意志を表明している。

今回はシャアの問いかけに対するセイラからの回答だ。セイラはホワイトベースを降りることなく、ジオンと戦い続けることを選んだ。金の延べ板を手放したのもその決意を示すためだ。

セイラが兄・キャスバルの背中を追い続けていた過去の自分と決別し、ホワイトベースの一員として生きていくことを決断した瞬間である。

兄と刺し違える覚悟のセイラを見て、ブライトも「わかった。以前と同じように君を扱うだけだ」、「君の強さには敬服するだけだよ。」と最大限の敬意を表している。

最後、セイラの手にそっと手を重ねるところなど、ミライに見られたら後々面倒なことになるのではないかなといらぬ心配をつついしてしまうが、ともかくセイラとブライトとのわだかまりもこれで解消である。

アムロvsシャリア・ブル

アムロ「ん、来るな!3機に見えるが、違うな。ララァじゃない、別の何かだ!」
シムス「シャリア・ブル大尉、敵をキャッチしました。戦闘はお任せします」
シャリア「私にどこまでできるかデータは取っておいてください」
シムス「了解です!来ます!大尉!」
シャリア「見えます、やってみましょう。ん?・・・これは、すごい。敵のパイロットはこちらの位置と地球の一直線を読めるのか?」
アムロ「なに?違うぞ、さっきとは。ん?下か!チッ。クッ、やはりガンダムの反応が鈍い」
シャリア「すごいモビルスーツとパイロットだ。あのパイロットこそ真のニュータイプに違いない。そうでなければこのブラウ・ブロのオールレンジ攻撃を避けられるわけがない。おおっ」

いよいよニュータイプ同士の激突である。

ブラウ・ブロは、前回登場したときのようにワイヤー状のものをギュイーンと伸ばしてその先端部分からビーム攻撃を仕掛ける。


アムロ目線では何もない宇宙空間からいきなりビーム攻撃がやってきたように映るだろう。

シャリア・ブルは、ニュータイプ能力でこのワイヤーで繋がれた発射口部分を操作し、様々な方向から様々な距離で攻撃を仕掛けていると思われる。

対するアムロだが、「3機に見えるが、違うな。ララァじゃない、別の何かだ!」と敵の状況を素早く把握し、パイロットもララァではないことを見抜いている。ニュータイプのなせるわざだ。

しかし、戦闘では盾を早速やられ、反撃の糸口もつかめず敵の攻撃をかわすのでやっとだ。しかもアムロの反応速度にガンダムが追いついておらず、思い通りに動かせない状態だ。

新時代の戦争

ハヤト「うわーっ!!に、2機か3機のモビルアーマーがいるのか?」
アムロ「下がれ、この敵はいつものモビルアーマーとは違うぞ、下がれ!」
カイ「うわーっ!!」
セイラ「カ、カイ、どこから?」
ハヤト「カ、カイさん!どこだ?」

ジオン軍はモビルスーツの開発・運用によって連邦軍に対して圧倒的なアドバンテージを得て、この戦争を有利に展開してきた。これに対し、連邦軍も遅ればせながら自前のモビルスーツを開発し、ジオンへの反攻を開始した。時代は大型戦艦同士の撃ち合いから、モビルスーツ戦へと移行している。

しかし、ニュータイプの登場によってその状況も動きつつある。

この場面でガンキャノンがなすすべもなくやられてしまうのは象徴的だ。ハヤトもカイもセイラも敵の居場所も数も把握できていない。もはやモビルスーツがどうこうという時代から、パイロットがニュータイプ能力を有しているかどうかに戦力の比重が変化していると考えて差し支えない。

アムロはブラウ・ブロの攻撃を避けるので精一杯でやられっぱなしの状態だが、実はそれはすごいことなのだということがカイ達との対比で示されている。

アムロ「下がれ、この敵は違うんだ!クッ。ガンダムの反応が遅い?」
シャリア「あのパイロットは反対からの攻撃も読んだ」
アムロ「どういうことだ?敵は1機のモビルアーマーのはずだ。・・・オ、オーバーヒートだ。・・・敵は!」
シャリア「なんだ?見つけたのか?シムス中尉、逃げろ!!」
シムス「えっ?」
アムロ「や、やったか。し、しかし、ガンダムに無理をさせすぎた。ガ、ガンダムの操縦系が僕のスピードについてこれないんだ。今さっきのような敵が来たらもうアウトだぞ」

しかし、やられっぱなしのアムロではない。目をつぶり意識を集中させついに敵機本体の居場所を掴んだ。この場面目視もしていないしレーダーなども一切使用していない。

新時代の戦争はこうなるのかと思わせる描写である。

ブラウ・ブロの位置を把握したアムロは雨あられのように降り注ぐビーム攻撃をかわしながらブラウ・ブロに接近、一撃で撃破。強い。

第39話の感想

今回はニュータイプ同士の戦闘を描いた回であった。

これまでの戦艦同士やモビルスーツ同士の戦闘とは全く違う戦闘が繰り広げられていた。特に印象的なのはアムロがブラウ・ブロの位置を把握する描写である。目視もせずレーダーも使用せず、ただ意識を集中させるだけ。

ガンキャノンがやられてしまう描写と対比すれば明らかなように、もはや時代はニュータイプへと移行してしまっている。

シャリア・ブルは今回初登場で、早速戦死してしまった。シャリア・ブルとギレン、シャアの会話を通してジオン軍内でのニュータイプの位置づけをもう少し詳しく伺い知ることはできないかと思ったが、これがなかなか難しい。

シャアが「彼はギレン様とキシリア様の間で器用に立ち回れぬ自分を知っていた不幸な男だ。潔く死なせてやれただけでも彼にとって・・・」とシャリア・ブルのことを慮る描写があった。これはどういう意味だろう。

シャリア・ブルは常に紳士的で謙虚で好感が持てる兵士である。「木星帰りの男」という異名も持つ、実績も実力も兼ね備えた有能な人物だ。

しかし、ジオン軍内におけるシャリア・ブルの扱いがかなり軽い印象を受けた。自分の気づかないところで自分のニュータイプ能力について調査が行われているし、自分の意志とは無関係に周囲が自分のことを取り立てて、新型モビルアーマーに乗れとまで言われる始末である。

まさにモルモットのような実験対象として扱われている。そのことをシャリア・ブルは十分理解していた。そして、その役回りをけなげに果たそうとさえしていた。

ガンダムとの戦闘中「データは取っておいてください」とシムスに指示したり、ガンダムの接近を把握してからは「なんだ?見つけたのか?シムス中尉、逃げろ!!」とシムスと戦闘データを守ろうとしていた。自分の命よりもそちらを優先させたのだ。

その意味でシャリア・ブルは職務に忠実で上官の意向や目的を把握し、その中で自分はどう行動すべきかを考える能力には長けていた。しかし真面目すぎて融通が利かず、自分自身の地位の安全にまでは目配りができていなかった。一言でいえば不器用なのだ。

シャリア・ブルの死はニュータイプが今後の戦争の中でどう扱われる存在なのかを暗示している。現状では、ニュータイプは実験材料であり、ただの戦争の駒として扱われる存在でしかない。いうまでもなくそのような世界はシャアの理想とする世界ではない。

ラスト、シャアが「ララァ、ニュータイプは万能ではない。戦争の生み出した人類の悲しい変種かもしれんのだ」というのは実に示唆的だ。

人類は戦争によって様々な兵器を開発し、それによってどんどん戦争は高度化していった。技術革新が進み、たくさんの人を一瞬で殺すこともできるようになっている。

ニュータイプ能力も似たような側面を持つ。現状でニュータイプの持つ戦闘力は圧倒的で、並みのパイロットでは太刀打ちできない。ニュータイプ能力を有するパイロットをどれだけ確保できるか、その能力を最大限発揮できるモビルスーツ、モビルアーマーをどれだけ擁しているかが今後の世界の覇者を決める。その意味でニュータイプは世界最強の「兵器」だ。そして彼・彼女らが物ではなく人間であるということも併せ考えれば、「悲しい兵器」だ。

このように考えるとニュータイプの未来はあまり明るくないのかもしれない。しかし、過去戦争によって進歩した技術は我々の日常生活に多大な恩恵ももたらしている。その最も著名な例はインターネットであろう。

ニュータイプ能力も同様だ。要は人類がニュータイプ能力を何に活用し、その持ち主をどう扱うのか、である。

果たしてニュータイプは今後どのような進歩を遂げるのか。それは人類にどのような害悪と恩恵をもたらすのか。そんなことを思わせる重厚な回であった。

さて、いよいよララァが出撃するようだ。これまで初登場(第34話)から焦らしに焦らしてきたが、次回ついにアムロと戦闘である。アムロについていけなくなったガンダムの方もどうなるのか、今後が楽しみである。

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