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コンドームの付け方はみんなで授業中に練習?!オープンでポジティブなオランダの性教育とは? 〜第3回 中等教育編〜

こんにちは!
オランダの性教育事情について書かせていただいている佐藤翠です!

前回の “「はじめて」が慎重になるオランダで小学生はセックスをどう学ぶ?〜第2回 初等教育編〜”


に引き続いて、

今回はオランダの中高生が学ぶ性教育の内容をお伝えしたいと思います!


①実生活を見据えた充実の内容

幼少期から始まるオランダの性教育は、中高生になると更にパワーアップ。

中高生のための性教育の時間では、授業で学んだことを実生活に生かすための実践的な内容や、より詳細な知識が教えられます。


例えば、避妊の方法について。

日本では、避妊に関する知識があまり系統的に教えられていない、と言われています。
過去には、東京の公立中学校で行われた性教育の授業で避妊について言及されたことが「不適切」であるとして、都議会で議論になったことさえもあります。

この授業が「不適切」だとされた理由は、学習指導要領を超えて避妊について具体的に教えており、「性交をしてもよいかのような内容で、かえって助長する可能性がある」からです。

また、「生命の誕生につながる妊娠を性交のリスクのようにとらえてよいのか」という疑問も同都議から投げかけられています。

個人的には、性交を前向きに捉える内容がなぜダメなのか、そして、(望まない)妊娠を性交のリスクのようにとらえることの何が悪いのかわかりかねますが。。。
一方で、オランダでは中高生に対する性教育への方向性が根本的に異なり、その中でも性教育での避妊への捉え方には大きな差異があります。

オランダの中高生たちは、避妊に関して学校で詳しい説明を受けます。
学校ごとに、担任の先生あるいは外部団体から派遣された担当者によって性教育が進めらます。

内容としては、教師に実物のピルやコンドームを見せられ、皆が避妊器具についての知識を深めます。

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コンドームに関しては、男性器の模型などを使いながら実際に装着する練習を行います

ここで重要なのは、性交渉がいやらしく避けるべき対象ではなくポジティブなものと捉える一方で、性感染症と望まない妊娠のリスクを減らし、安全に行うために必要な情報を生徒に伝えることです。

セックスをするのは全然OKだけど、そのためにはルールを知って安全に楽しもうね!という考えですね。


オランダでは、ピルはかかりつけ医が処方し、モーニング・アフターピルはドラッグストアなどで安価に買えます。

モーニング・アフターピルの値段は、なんと1200円〜2500円。
安い....!!!!!

 また、IUDと呼ばれる子宮内に装着する避妊器具を使うというオプションもあります。これを装着すると数年間避妊することができます
とっても便利ですね...!

15歳から30歳までのオランダの女性のうちなんと約40%がピルを、5%から10%がIUDを用いた避妊を行なっているという統計もあります。

女性が選べるいくつもの安全な避妊方法が提示されおり、一人一人にあった方法を選択することができるのは素晴らしいですね!

(ちなみに日本では、約4.2%がピルを、約0.4%のみがIUDを用いているという調査結果が報告されています。これらはまだ日本ではメジャーな避妊方法ではないようですね。)


また、医療保険は、23歳までは女性の避妊手段を全額カバーし、コンドームは男女とも年間20個まで無料で配布しています。
何種類ものSTD(性感染症)の検査もかかりつけ医で無料で行えます。

これらの内容もオランダの中高生のための性教育の授業で教えられており、万が一避妊に失敗した時も、落ち着いた行動が取れるように教育されています。

この成果は、ヨーロッパでも最も低いと言われるオランダの10代での妊娠率・出産率(オランダの母親1000人のうち約4.5人が10代)に反映されていると言っても過言ではないのでしょうか。

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(1960年代から大幅に減り続けたオランダの10代での出産率のグラフ。WHOのウェブサイトから引用。)

個人的に驚いたのは、避妊についてのこのような価値観は、性教育にのみ表れているわけではないということです。

例えば、アムステルダムの一角のビンテージショップではコンドームが無料で取り放題(!)でした。
また、大学の新入生オリエンティーションウィークでコンドームが手渡しで配られており、避妊に対して、非常にオープンでポジティブに捉えられているなぁという印象を抱きました。


②性の多様性への理解

前回の記事でオランダのLGBTQに対する寛容さについてお話しましたが、その礎として欠かせないのが性の多様性への理解を促進するための性教育です。

性教育というと、性交渉に関する内容を連想しがちですが、オランダでは性交渉以外のことも学びます。

その中でも大切なテーマの1つがジェンダーアイデンティティやLGBTQについてです。

中高生という多感な時期に性の多様性やLGBTQの存在を知り、正しい知識を得ることで自らや周囲を尊重できる人間になることを目標としています。

この授業で自分が当事者だということをカミングアウトする生徒も少なくない、と言われています。

性的マイノリティとしての自分が周りに受け入れられないんじゃないか、差別を受けるのではないか、とLGBTQならではの苦しみを抱えたり、自殺する人が世界中にいる中で、こういった教育を若いうちに受けられることは特に当事者にとって社会を生きやすい場所にするために必要不可欠なのではないのでしょうか。


③IKEAの模型を使って体位を紹介!?学校外での性教育

オランダの性教育は、学校内で完結するわけではありません。
例えば、首都アムステルダムにあるNemo Science Museumという子ども向けの科学博物館では、ワンフロア全体が、セックスについてインタラクティブに学べるようになっています。
年齢制限があるブースもありますが、基本的には子どもたち皆がアクセスできます。

“Let’s talk about sex”というスローガンのもと、舌を表した模型で濃厚なキスの様子が再現されていたり、アニメーションで男の子が初めての射精を経験する様子が映し出されたり、IKEAの人形の模型を用いて様々な体位が紹介されています。

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なかなかリアリティがあり、衝撃的な展示内容と言えるかもしれませんが、家族で性について話し合える入り口になり得る良い展示と言えるのではないでしょうか。

(NEMO Science Museumの性教育ブースについてもっと知りたいということはこちらのリンクをクリックしてみてください。実際にこの博物館を訪れた方の体験記を読むことができます。残念ながら英語のページですが、写真だけでも色々と伝わってくるはずです....! )


また、オランダの性教育と切っても切れないものは、家族の存在
多くの学校で、性教育で学んだ内容を家族と話し合うよう生徒たちに推奨したり、家族との話し合いが必要な課題も出されたりしています。

性について家族とオープンに話せる関係を構築しておくことで、性暴力やデートDVなどの被害なども未然に防げるのではないでしょうか。

学校によっては性教育に関する保護者説明会を行うこともあります。
オープンな人が多いオランダですが、やはり他のトピックに比べて性教育はセンシティブであることには変わりなく、一体どのような内容が授業で教えられているのか知りたいという保護者も一定数いるという理由からだそうです。

宗教や文化的な背景も考慮し、希望する保護者には子どもを性教育のクラスに欠席させることも可能です。とは言えど、性教育の必要性について学校側から説明があり保護者も性教育の大切さを理解しているため、実際に欠席する子どもはかなり少数派だと言います。


④オランダの性教育のこれからの課題

今までの記事の通り、オランダの性教育は世界で最も充実していると言っても過言ではありませんが、課題もあります。

特に現在課題と捉えられているのは、学校や先生によって性教育に割かれる時間や内容が異なること。

2012年に、オランダでは性教育が全ての学校で義務化され中核目標などは定められたものの、詳しい内容については学校や先生に任されているといいます。

オランダは、以前にも増して西洋人以外の人口が増えており、特に首都アムステルダムでは約半分の子どもが白人ではない、とされています。

その中にはやはり、性の多様性や避妊に対して異なる価値観を持つ家庭も数多くあり、そのような背景を持つ子どもが多く通う学校では、詳細な性教育を行うことが簡単ではない場合もあります。

そのような違いを認識しながらも、自分と相手を尊重するために欠かせない充実した性教育を全ての子どもに届けることが、現在のオランダの性教育の課題なのです。


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編集後記
ここまで、オランダの性教育事情とLGBTQ事情について書かせていただきましたが、いかがでしたか?

私自身、オランダに来る前、および学生生活を送る中でオランダの性教育事情について耳に入れる機会はありましたが、今回ブログ記事を執筆する過程で、たくさんの新しい発見があり、数多くのことを学ぶことができました。

日本でも性教育の充実が求められていますが、個人的には必ずしもオランダの性教育の全ての局面をそのまま実行する必要があるとは思いません。

ただ、オランダのように性教育が子どもたちの人権尊重のためには必要不可欠で、セックスが大切なコミュニケーションの1つであるという認識は少なくとも日本にも広まって欲しいと強く考えます。

そして、特に家族間でセックスの話題を避けるのではなく、積極的に話し合う土壌が日本でも培われることを切に祈ります。

これらの記事が、みなさんに新しい知識と視野を提供できたのであれば幸いです。

これからもGenesisをどうぞ宜しくお願いいたします!

#Genesis #性的同意 #sexualconsent #オランダ