染色体の見方

染色体異常は特に小児科領域では接する機会は多いです。Down症候群は特に多いですが、マイナーな染色体異常を含めると患者さんの数は非常に多いです。Prader-Willi症候群やAngelman症候群などのインプリンティングが関わる疾患など、複雑なバリエーションがあります。
今回は、微細欠失症候群の見方について解説をします。

理解するべき点は以下になります。要約をすると、染色体を遺伝子のレベルに分解して考えること、その方法の解説となります。
①Clingen Dosage Sensitivity map:欠失領域に含まれる遺伝子を調べる。
②the probability of being loss-of-function intolerant (pLI):遺伝子が欠失した時に症状を起こすかどうかの指標。
③OMIM(Online Mendelian Inheritance in Man)
④UCSC-genomebrowser:欠失を伴う罹患者のデータベースであるClinGenやDecipher、正常人のコピーナンバーバリアント(CNV)多型のデータベースであるDGVの参照に使用します。

①ClinGen Dosage Sensivity Map https://dosage.clinicalgenome.org/index.shtml
染色体異常が見つかった場合、22q11.2欠失症候群や1p36欠失症候群など、染色体の欠けている場所を表す番号(郵便番号の様なもの)を聞いている場合、マイクロアレイ染色体検査や次世代シーケンサーによる解析で見つかった場合、chr5:175570677-180719789(GRCh37)のようにより細かな場所を示す情報(建物を表すような情報)までわかっている場合があります。
Clingen Dosage Sensitivity mapを使用すると欠失している領域に含まれる遺伝子がよく分かります。
方法はClingen Dosage Sensitivity mapのページに行って、番地の番号か建物まで示す番号をいれるだけです。含まれている遺伝子が一覧で並んでいます。
注:ポジションの情報はだいたいの位置を指しているのみでずれている場合があるので注意してください。例えば、3q13が欠失していますよと言われても、3q13の一部かもしれないですし、場合によっては隣の3q14を含んでいる場合もあります。chr5:175570677-180719789のようにより細かい情報も、それよりも広い領域の場合もあります。

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②the probability of being loss-of-function intolerant (pLI)
Clingen Dosage Sensitivity mapの遺伝子の横に表示されているものです。この数値が高いと欠失により症状が起きる可能性が高い遺伝子であることを示します。同じ遺伝子を父母からそれぞれ受け継ぎ2つ持っているので、1つになったとしも症状に現れない遺伝子が多いのです。Haploinsufficiency scoreもpLIと同じ様な意義、数字が高いと欠失が症状に関わる可能性が高いです。

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③OMIM(Online Mendelian Inheritance in Man) https://www.omim.org
メンデル遺伝病のデータベースです。欠失範囲に含まれるpLIが高い遺伝子をここで検索してみてください。いろいろな症状名が出てきます。chr5:175570677-180719789はNSD1遺伝子を含んでおり、Sotos症候群の原因であることがわかります。マイナーな染色体異常もメンデル遺伝病の原因遺伝子レベルにまで分解して考えると、染色体異常の理解がしやすいです。

注:遺伝子には欠失などで機能喪失(loss-of-function)で症状を起こす遺伝子と機能獲得(gain-of-function)で症状を起こす遺伝子があります。欠失範囲に含まれていても、pLIが低く、gain-of-functionが原因と考えられる遺伝子をOMIMで検索する意義はありません。

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④UCSC Genome Browser https://genome.ucsc.edu
UCSC Genome Browserを参照。DGV(正常人)のデータベースが占めている領域は症状には関係しない。ClinGenやDecipherに登録のある領域は疾患と関連している領域の可能性がある。クリックすると症状などの情報も手に入る。
最終的にはPubmed(医学論文の検索のデータベース)の検索も重要です。22q11.2 deletionなどでみることもできますし、欠失範囲でpLIが高い遺伝子が複数分かっていれば、遺伝子名1 遺伝子名2 deletionなどと検索すると論文を見つけることも容易です。

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欠失はこのように調べるとloss-of-functionが症状に関わる遺伝子に分解できるので分かりやすいです。遺伝子が2個から3個に増える重複は難しいです。UCSC genome browserでDGVやClinGen, Decipherを見比べることは役に立ちます。難しい場合も多いのでDown症候群の病態も実はまだまだわからないことも多いです。
以上、染色体異常の見方についての解説です。

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