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映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記③ ~あなたが、撮るんですよ

答を見つけられない日々

「ま。その時は、どうぞまたよろしく。」

という大道さんのひと言は
僕に対する静かな挑発と問いかけでした。

(撮れるものなら、撮ってみろ。
オレは変わってないよ、そっちはどうだい。)

トークイベントが終わって
僕は何ヵ月もああでもないこうでもないと
答を見つけられずに思い悩むのでした。

僕はたぶんそれなりに変わったけれど、
テレビも随分変わった。

果たして今現在のテレビは、
世界を飛び歩く稀代の天才写真家を
ピュアに記録していくのに
本当にふさわしい媒体だろうか。
今現在の森山大道をきちんと表現し得る
枠や時間帯や番組はあり得るだろうか。
ほんの10分や15分、
気の利いた特集を組んだってしょうがない。
その程度のことでは、
「今の森山大道を撮らないのか?」
と問うた先のお客さんにも、
「その時はどうぞまたよろしく」
と静かに挑発した大道さんにも、
ちゃんと応えたことにはならない。

でも、だからといってどうすれば?

考えても考えてもなかなかこれだ!
という答にたどり着かないまま、
いくつもの季節が無為に過ぎ去っていきました。

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企画の扉を開けた男

2017年の秋。
ある日突然、その突破口が開けたのです。
企画の扉を大胆に開けたのは、
一人のプロデューサー
杉田浩光さんでした。

杉田さんは、テレビマンユニオンに身を置く
テレビ・映画プロデューサーで、
NHKの名作ドラマ「ラジオ」や
劇場用映画「二重生活」「あゝ荒野」など
数々のヒット作・話題作を手掛けてきた
辣腕の制作者です。
僕とも随分長い付き合いです。

そんな杉田プロデューサーから
ある日、唐突に切り出されたのです。

「岩間さん、この間のあれ、
映画にしましょうよ」

ん?この間のあれ…とは?
一瞬、何のことだか分からずに当惑していると、
杉田プロデューサーが
じれったそうに言うのです。

「森山大道さんの今、ですよ。
僕、あのトークのこと
ずっと気になってたんですよ。
岩間さん、撮らないのかって
問われてたじゃないですか。
でも日本で大道さんのテレビ番組を作っても、
それは日本人しか見ないじゃないですか。
それより映画にして、
世界で公開して、
世界中の人に
『今現在の森山大道』をバシッと見せましょうよ。
だって世界のDaidoMoriyamaじゃないですか。
だったら世界公開の映画作りましょうよ。」

と眩暈のするような話をするのです。

テレビじゃなくて…?と、
しどろもどろになる僕に
杉田さんはきっぱりと言うのです。

「ダメです。映画です。」

あなたが、撮るんですよ

か、か、監督は…?と、
なおもしどろもどろになる僕に
杉田さんはあきれたように言うのです。

「何言ってるんですか。
監督は、岩間さんに決まってるでしょ。
あ・な・た、が、撮るんですよ。」

そんなこと最初から決まってるでしょ、
と言わんばかりの
杉田さんの気迫に圧されて、
僕は思わず飲みかけたコーヒーに
ゲホッとむせてしまいました。

杉田さん、ふざけてるのか?
いや、
どうも杉田プロデューサーの目はマジです。

しかし、続けて彼が言い放った次のひと言に
僕は絶句し、
眩暈どころか気を失いそうになったのでした。

それは…

つづく

(写真内作品©Daido Moriyama Photo Foundation)



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