見出し画像

世界経済フォーラムYoung Global Leaders年次総会

 小田玄紀です

 ドバイで開催された世界経済フォーラムYoung Global Leadersの年次総会に参加してきました。今回は現役YGLが300名、アルムナイ(卒業生)が300名と合計600名参加する大規模なイベントとなりました。
 
 YGLの任期は私が選ばれた時点では5年(現在は3年)のため、今年が現役としては最後の年になります。

 「YGLのイベントは何をするのか?」とよく聞かれます。実はやっていることは「ただ会話をすること」だけなのです。

 参考までにいくつかのセッションを紹介すると、上記のようにリーダーシップについての全体的なセッションがあった後、いくつかの分科会に分かれて議論をしていきます。今回はAIに関連するセッションが比較的多かった印象を受けました。

 「ただ会話をするだけ」と言いましたが、参加者がそれぞれの分野の最前線で活躍をしている人であったり、現役の大臣や次期大統領候補もいたりとか(普通に仲良く会話していた人で、別れ際に何をしているか聞いたら某ヨーロッパの大臣だったという人が普通にいます)で非常に刺激が得られる空間があります。

世界経済フォーラムの取組みに見るメタバースの可能性|genki oda (note.com)

 YGLの価値については上記のNoteに以前書いたので、ここでは割愛しますが、今回も非常に大きな学びがありました。

 まず、これは最初のセッションの1つなのですが、UAEの大臣や経営者のパネルになります。大臣といっても30代であり、また、パネリストの半分が女性です。

 ちなみに女性というところでいうと、YGLの過半数は女性です。当たり前に女性の政治家、経営者、アーティストなどが活躍しており、年齢も30代が大半です。

 中東のように女性の社会進出が抑制されていた国でも、現在は女性が活躍できる社会になっています。サウジアラビアでもサウジビジョン2030により勤労者の半数を女性にすることが求められいますし、ドバイでも当たり前に女性が活躍しています。

 とにかく日本も、若者へ任せることや女性の社会進出をもっと促進する取組みを本気で向き合う必要があると感じました。これを阻害している要因については後で触れていきます。

 また、もう1つ今回のイベントでは「戦争」についての意見交換がそれぞれのYGL同士の会話でされていました(セッション以外に昼休みやカフェの時間が長くあり、ここも非常に重要な場となっています。むしろ、こちらが主役ともいえます)。

 YGLが入っているWhatsappグループやTelegramグループがあるのですが、ここでも年次総会前にイスラエルとパレスチナの議論がされていました(ここは敢えてハマスではなくパレスチナと書いています。日本ではイスラエルとハマスのように議論されていますが、そのような単純な問題では実際にはありません)。

 全体的に多くのYGLがイスラエルを擁護する立場にはありますが、それでもパレスチナの人からすると過去のイスラエルの行動について、どうしても許せないという意見が出てきてしまい、Whatsappが先週は非常に荒れました。
 
 そこで、管理者が「一度冷静になろう。新規の投稿を年次総会まで出来ないようにする」という対応をしました。この措置は非常に適切な措置だったと思います。

 直接会っての意見交換ならまだしも、やはりバーチャルでの意見交換はお互いに攻撃的になりますし、また、会話も双方向ではなく「相互に一方的な意見」となってしまいます。

 どちらが正しいかどうか、という観点では答えがなく、当事者同士では解決が出来ない問題は多々存在しています。そのような際には利害関係をなるべく持たない第三者的立場で仲裁をすること、また、事実上の第三者が存在しない場合には、「とにかく行動を起こさない期間をつくること」が何よりも重要です。

 ロシアとウクライナの戦争もそうですが、イスラエルとパレスチナの問題はとにかくどちらが良いか悪いかではなく、一度沈静化させる時間が必要です。

 この写真の女性はGadeerという方ですが、彼女はイスラエルの少数民族の女性で初めて政治家になった方です。ただ、様々な迫害や妬みなどもあり今は政治家を辞めてイスラエルの女性進出のための活動をサポートする取組みをしています。

 イスラエル政府に対して決して良い印象を持っていない彼女ですら、今回の問題については様々な意見をもっていますが、とにかく願うのはPeaceであり、戦争や対立に関係のない女性・子供を殺害することはどちらの立場であってもやめるべきと訴えていました。

 また、今回改めて議論をしている中で感じたのは、日本だと「第3次世界大戦に発展しないのか」ということを議論する人も一部いますが、多くの紛争地域においては第三次世界大戦かどうかは関係なく、今が戦争状態です。第三者が評論家のように正悪を議論するのは意味がなく、当事者にとっては解決を求めています。とにかく、第三者がやるべきことは評論ではなく仲裁または一時的にでも戦争を止めることだと改めて感じました。

 また、こうしたイベントに参加することの意義は自分自身の殻に気付くことができるということです。正直なところ、ある程度成果を出していった人はその範囲で仕事をやっていったらある意味安全です。どこかセーフティゾーンのようなものが出来てしまっています

 ただ、自分のことを多くの人が知らない環境に敢えて身を置くことで、素の個人として会話をしていく必要があります。皆が利害関係の無い人たち同士のため、忖度が一切働きません。こうした環境に身を置くことで、間違いなく成長が出来ます。

 ほとんど全てのセッションで回りの人がグループディスカッションの時間があります。必ず何か意見を言う必要があります。今回も改めて感じたのですが、日本人は「100点満点を求めてしまいがち」という傾向が特にここ最近はあるのではないかということに気付きました。
 
 講師やモデレーターの問いに対して、海外YGLの最初の回答は大体がまとはずれなものです。そもそもちゃんと話を聞いている人がいないので、質問に対して全く違う、自分の意見や考えを言う人が大半です(笑)。ただ、それでも考えや意見を言い合っていくことで、議論として収斂されてきます。

 日本での議論の場合、最初から「100点の答え」を出そうとしてしまい、発言が限定的だったり、また、聞く側もその答えの課題を見つけ出そうとしてしまい、相手の欠点をつつくことに時間を使ってしまいがちです。

 批判を恐れ、当たり障りのない現実的な解を出すようになってしまい、結果的に50点の答えしか導き出せないのが現在の日本社会ではないでしょうか。

 ただ、結果的に1点にしかならない解だったとしても、これを100個積み重ねていけば100点になります

 たとえば最近議論がされているライドシェアの問題についても、ちょっと議論のポイントがずれているように感じています。ライドシェア推進派の多くがタクシーが捕まらない問題を解消するためにライドシェアを解禁するようにと言っていますが、結論からいうとライドシェアを解禁しても車が来ない問題は解決されません

 シンガポールでもドバイでもアメリカでも、混んでいる時は車はきません。UBERでもLIFTでも30分以上待つということは現実的に起こっています

 タクシーが来ないのは配車の問題よりも交通渋滞の問題が起因していることが多く、需要が高まっているとタクシーでもUBERでも結局来ないものは来ないのです。

 ただ、それでもライドシェアは解禁するべきだと思っています。それは、タクシー人員が間に合っていない地域であったり、また、高い料金でもいいから配車をしてもらいたい需要など細かい需要に対応するためにはライドシェアの方が効果的だからです。

 こうしたマス需要でないところはライドシェアが課題を解消していき、その分メジャーな需要を従来のタクシー業界が補強していくことで、いい意味での補完関係が構築できると思います。

 つまり「ライドシェア解禁が配車問題を解決する」という100点満点の要求を出してしまうと、この課題点をつついてきて政策も実現されなくなってしまいがちですが、100点満点なんて求める必要はなく、今起きている課題を少しでも解決していくためにライドシェアを解禁していく。その考えが重要だと思います。

 そして、これが若者や女性の社会進出という観点でも同様に重要な考え方になってきます。

 政治の世界だと、衆議院議員を3期やってはじめて半人前となり、副大臣などに就任できるようになります。そして、5期か6期やるとはじめて大臣になれる可能性が出てきます。通常衆議院議員の任期は4年なので3期ということは12年。5期や6期というと20~24年です。もちろん解散もあるので、実際にはこの期間の70%程度ですが、それでも大臣や重要ポストになるためには15年~20年の期間が必要になってしまいます。

 このため、政治の世界においては若者の活躍は限定的になってしまいますし、また、この期間に色々なしがらみが出てきてしまいます。政治の世界で若手政治家というと40代になってしまいます

 これもやはり100点満点を求める傾向から、若手や女性に対する権限移譲が限定的になってしまっている一例だと思いますが、他国を見ても大臣などは若手に移譲する方が改革が一気に進むと思います(当選回数が多く、経験豊富な議員の先生は党での役職に就く比率を高めるなどで調整を図るとかで)。

 今回、サウジアラビアにも視察に行ったのですが、サウジアラビアも2017年に当時31歳のムハンマド皇太子が実質的に権限を委譲されてから一気に改革が進みました。

 サウジアラビアのYGLであるイブラヒム氏に色々と現地の状況を聞きましたが、サウジアラビアはムハンマド皇太子体制になってから一気に「オープン化」が進みました。観光ビザも受け入れるようになり、外資の投資も積極的に受けるようになりました。

 NEOMでは大きく4つの都市開発を進めています。

 それぞれが70兆~100兆円規模の投資を行うことになりますが、それでも将来を見据えて投資を断行しています。特にThe LINEは幅200メートル、高さ500メートル、全長170キロメートル(ここだけキロメートルです!)という考えられない規模のプロジェクトです。

 今後の地球環境を考えた場合にエネルギー循環が出来、安心して暮らせる環境として本当にこの規模の開発を進めています。

 国際金融都市としてもKAFDという地域で大規模な最先端金融センターの建設をしており、近日中に稼働していきます。

 ドバイも5年ぶりに来ましたが、未来博物館やドバイEXPO跡地など近未来で非常に人気の観光施設となっていました。

 ドバイもますます成長していくと思いますが、サウジアラビアについても最低でもドバイ水準までの開発がこれから5~10年で実現していく可能性が高いですし、さらにここからリープフロッグで二世代程超えた進化を遂げる可能性があります。

 では、日本はこれから可能性がないのかと聞かれると、実は日本は非常に多くのポテンシャルがあると感じています。諸外国と比べて、日本の強みは3つあります。

 1つが観光資源です。ドバイも様々な観光資源がありますが、それでもバリエーションは限られます。ブルジュハリファや未来博物館などの近代的設備、ジュメイラビーチのような海、デザートツアーのような砂漠。これ以外にも食や旧市街など魅力的なところはありますが、とはいえ代表的な観光資源は片手を数えるほどです。そして、他の海外もだいたいそのようなものです。

 日本の場合は、全国でいうと30~50種類以上の観光資源があります。これは本当に他国にはない強みです。2030年までにインバウンド収入を15兆円以上にしようという取組みがありますが、これは現実的な数値ですし、観光客向け価格の導入やUSD決済、観光税の導入などをすることでさらに収益は増えると思います。

 2つ目が金融資産です。日本人の個人金融資産は2000兆円を超えています。これを言うとアメリカは個人の金融資産が1京2000兆円以上あるから強みにならないという指摘をしてくる人もいますが、日本の場合は過半数の1100兆円以上が預貯金でありほぼ未稼働なところに成長可能性があります。適切な運用を日本人がして、平均で4~5%の投資利回りを得ることが出来たら、年間で80~100兆円規模の資産が増えることになります。

 これで多くの日本が抱える問題は解消に繋がってくる可能性があります。

 3つ目が地政学的なポジションです。海に囲まれていること、アメリカと中国の中間に位置していること。日本にいるとこれが当たり前のことなのでこの価値に気付きにくいですが、今の社会においてこの地政学的な意義が持つ影響は極めて大きいです。

 むしろ、この地政学的な位置付けが今後の日本の成長のための必要条件になってくるとさえ思われます。これは他国では変われないことですし、先ほど触れた「第三者として当事者の仲裁または一時的に戦争を止めるように促すこと」が出来る数少ない国が日本なのではないでしょうか。

 今回、YGL年次総会に参加をし、改めて海外からみた日本というものを考えるきっかけになりました。100点満点を目指す必要はなく、1つ1つ課題を解決していき、1点づつ加点をしていく。それが結果的に日本そして世界の課題解決につながると考えています。

 なお、今回は1日目はこのイベントのために新調した着物で参加し、2日目はサウジアラビアのイブラヒムからもらったトーブを着ていきました。これが非常に好評で掴みはオッケーでした。日本のプレゼンスを上げることに1点でも貢献できたと思いますし、これからもこうした積み重ねで日本そして世界に貢献していこうと決意を新たにしました。

 2023年10月21日 小田玄紀

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?