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PSMCとの日本国内での半導体工場設立に向けた準備会社の設立に関する基本合意について

 小田玄紀です

 先日、私がSBIグループにJoinしたことをお知らせさせて頂きましたが、役職で「社長特命担当事項」となっており、具体的にどのようなことをしていくのかということを多数問い合わせ頂いておりました。

 その問いに対する答えの1つが本日、リリースされた案件になります。

 本日14時30から北尾さんが記者会見を開き、多くのメディアが取り上げて頂きましたが、台湾半導体ファウンドリ大手であるPSMCと日本国内で半導体工場設立に向けた準備会社を設立することについて合意をしました。

 詳細については上記の動画で説明をしていますが、ポイントをここにまとめさせて頂きます。

 まず、今回の合意についてはPSMCとSBIにてジョイントベンチャー(準備会社)をつくり、日本国内において『半導体工場の立地場所の選定』、『事業計画の策定』、『資金調達の計画等を実施』するところにあります。

 また、この資料にも書いており、会見で北尾さんそしてPSMCのFrankさんが何度か強調していましたが、一番大事なことは、『この日本工場に関連する特許等の知的財産は日本に帰属する』というところです。

 これが意味するところは実は非常に大きな意味があり、他社の事例では海外の半導体企業が日本に工場を設立し、生産拠点として日本を使う事例はありますが、知的財産はそれぞれの母国に帰属します。つまり、日本にはノウハウなどの知的財産は蓄積されません。今回の取組みは、日本において半導体産業を育成していくための知的財産を日本に帰属できるということが意義があり、中長期的に日本の半導体産業を育成していくことに繋がると考えています。

 SBIグループとPSMCがそれぞれの強みを活かして、今回のJVを運営していきます。

 なお、PSMCは世界では6位、台湾では3位の半導体ファウンドリです。半導体業界では同じ台湾のTSMCが世界最大手ですが、TSMCとPSMCは狙っている市場が異なるところがあり(これは後述します)、また、PSMCは半導体大手の中では唯一、「ロジックとメモリを両方開発している」ところも特徴があります。

 今回、このタイミングにてSBIが半導体分野に進出したのには、様々な理由があります。日本政府の方針、地政学的な事情、半導体市場自体の可能性、様々な御縁といったところがあります。

 SBIグループとしては「金融を核に金融を超える」という基本観もありますが、これまで取り組んできた既存事業との相乗的な効果がある事業分野を検討してきた中で、半導体分野は様々な面でシナジーが期待されるとの判断もあり、今回のMOU締結に至りました。

 なお、半導体は過去に大きな失敗をした事例もあります。有名なのはエルピーダですが、エルピーダも技術力はあったものの資金が続かずに破綻となってしまいました。技術だけでは事業は成功せず、また、資金だけでも事業は成功しません。今回、技術と資金、そして何よりも優れたビジネスモデルが共存することが事業成功のポイントになってくると考えています。

 また、半導体分野は日本経済にとっても極めて大きな意味を持つ産業だと考えています。かつては日本の半導体市場は世界全体の50%近いシェアをもっていました。それが現在は10%程度にまで下がってしまっています。

 2030年には100兆円市場になると言われている中で、半導体産業を復興させること、また、半導体は様々なものづくりの基盤のため、半導体で成功すると日本の多くの産業復興に繋がってきます。

 日本政府も様々な補助金を活用し、半導体産業を支援していこうとしています。日本以外の各国も半導体産業誘致には力を入れているため、これからも継続的に政府は半導体産業を支援していくと思われます。

 また、先日以下のNoteでも触れましたが、「スタートアップ育成5カ年計画」と今回の半導体産業も非常に相性がいいと考えています。

 2027年度までに日本国内のスタートアップ年間投資額を10兆円にしていくことを政府としては考えていますが、普通のベンチャーやスタートアップだけでこれを達成することは困難です。
 今回のようなメガベンチャー・メガスタートアップに対して資金が投下されることで、より大きなスケールの企業が育っていくことが重要になってきます。

 また、現在は多くの海外企業が半導体工場の開発に動いています。他社との違いは冒頭にも触れたのですが、それだけでない違いがこちらの図になります。
 
 現在、多くの半導体企業は最先端・先端分野への投資を強化しています。これは非常に重要なことであり、これから半導体は2nmや1.4nmなど更なる高性能な技術が確立していくことで、より市場規模が大きくなっていくことが考えられます。

 ただ、半導体は1つでも部品が欠けると製品が完成しません。そして、全体の需要において80~90%は最先端・先端部分ではなく、準先端となるサイズの半導体です。

 PSMCは28nm以上の準先端部分に特化しています。この部分において、安価に大量に高品質な半導体を生産するビジネスモデルを有しています。他社が最先端・先端分野に対して大量の投資をしていますが、敢えてそこではなく、準先端部分の生産体制強化に対して投資をしていくというのがPSMCのビジネスモデルであり、ノウハウとなっています。

 これから半導体需要が高まっていく分野である車載向けについては、この28nm以上の半導体が90%以上の需要を占めるとされています。最先端・先端技術を他社が確立し、PSMCが28nm以上の半導体を安定供給していく体制が構築できていくことで、日本の半導体産業は盤石なものとなっていくことが期待されます。

 日本の企業は、半導体製造装置や半導体部素材ではグローバルシェアも一定以上を有しています。半導体のファウンドリ部分についてはこの20~30年間でそのポジショニングが低迷してしまいましたが、今回、多くの海外企業が日本への進出を検討していること、そして、今回ここにPSMCが加わることで再び日本の半導体産業は一気通貫型で発展していける可能性が出てきました。

 なお、PSMCは実際に海外での工場開発実績があります。こちらは中国での事例ですが、2015年に工場建設を開始し、2年後の2017年に量産体制を開始し、その後2023年にIPOをした実績があります。

 また、PSMCの半導体はロジックとメモリが一体型の半導体であり、これは消費電力の抑制効果処理速度を高めることに繋がっています。ロジックとメモリの両方を開発しているのはPSMCのみであり、この点も次世代グリーン半導体としてこれから評価が高まっていくと考えています。

 今回のPSMCの日本進出が意味するところは、ただの工場進出にとどまりません。冒頭でも書いたように、「知的財産が日本に帰属する」ということは極めて大きな意味がありますし、さらには日本で半導体に関する人材を育成したり、半導体のデザインハウス産業が生まれていくこと(これは非常に大きな意味があるのですが、また別の機会に触れていきます)、R&D機能を日本にて充実させていくことなど様々な意義があります。

 このようなポイントをご理解頂き、動画を視聴いただくとさらに今回の提携の意味がご理解頂けるかと思います。

 日本の産業復興のために、今日という日が何かのきっかけになるように、これから取組みを開始していきます。
 
2023年7月5日 小田玄紀


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