見出し画像

世界経済フォーラムの取組みに見るメタバースの可能性

 小田玄紀です
 
 8月31日~9月2日まで世界経済フォーラム Young Global Leaders(以下YGL)の年次総会がジュネーヴの世界経済フォーラム本部で開催されたので参加してきました。

 コロナの影響もあり3年振りの開催となったYGL年次総会でしたが、120カ国から400名近いYGLが集まるイベントとなりました。

参加者で記念撮影

 年次総会のイベントとしては、「Responsible Leadershipとは何か」といったテーマや「環境問題」や「人権問題」などグローバルで認識するべき社会問題について、世界中から集まるYGLがそれぞれの立場で議論をし、『Trusted Community』の中でお互いに尊重しあい意見交換をしていくことが趣旨なのですが、個人的には今回のイベントで「世界経済フォーラムとしてのメタバース」について共有されると聞いていたので、これが非常に楽しみで参加をしました。

 実は世界経済フォーラムはデジタル技術を活用し、非常にシステマティックにそれぞれのYGLの活動を確認しています。私の場合は2019年にYGLに選ばれたのですが、そこからどのようなYGLまたは世界経済フォーラムのイベントに参加したか、どのような貢献(発信やYGL候補の紹介など)をしたかなどを細かくフォローしています。

 今年の6月に世界経済フォーラムの本部に呼ばれて、WEB3.0に関するGlobal Consensusについて提言をしたのですが、この時のことも非常によく覚えていてくれていました。

2022年6月。世界経済フォーラム本部にて。
提言書。これは1枚目です。
この時は参加者は世界から15名程度のCEOが呼ばれました。ダボス会議の振り返りなどの話もありました。

 こうした経緯もあり、今回の年次総会の前に世界経済フォーラムの創設者であるクラウス・シュワブ会長から連絡を頂き、メタバースについて会話をしたいと言われてシュワブ会長のオフィスに呼んで頂くことになりました。

クラウスシュワブ会長と記念撮影

 今回、シュワブ会長とも話しをして、また、YGL年次総会に参加をして驚いたこととして、世界経済フォーラムとしてメタバースに関して相当に力を入れていこうとしているということを感じました。
 元々、5年ほど前に『第4次産業革命』という概念をシュワブ会長が発表した際に、その当時からもブロックチェーン技術についての高い可能性を提唱はしていたのですが、今回改めてメタバースに積極的なことを表明していました。
 何よりもそのことを感じられるのが次の写真です。

メイン会場でメタバースの構想を話すシュワブ会長

 こちら年次総会の一コマなのですが、シュワブ会長が世界経済フォーラムのメタバース構想について語っている写真です。写真からもやる気が伝わってくると思うのですが(笑)、今回のYGL年次総会で細かいセッションも含めると全てで50~60位のセッションがあった中で、シュワブ会長自身が登壇するセッションは最初の「リーダーシップ」についてのセッションとこの「メタバース」のセッションの2つだけでした。この事実からもメタバースについての思い入れの強さが分かるのではないでしょうか。

 なお、シュワブ会長の発言および他の世界経済フォーラムのメタバースプロジェクトの関係者の話をまとめると、主に以下のような内容になります。

・世界経済フォーラムとしてメタバースは力を入れていく。来年1月のダボス会議にて第1弾をお披露目したいと考えている

・メタバースはVRゴーグル(Oculus2のような)だけでなく、PCブラウザや現地で専用スペースで体験できるような取組みをしていく。離れているところから参加をした方でも、よりリアルなコミュニケーションができるようにしていきたい

最初はコミュニケーション手法の1つとして取り組んでいくが、徐々に社会問題をよりリアルに実感するため、また、教育などにも活用をしていきたいと考えている

・メタバースについて否定的な意見もあった。メタバースを世界経済フォーラムが行うことについて、ブランドの毀損になるという意見もあったが、その意見は間違っていると強く確信している。メタバースに否定的な人は、ただメタバースがまだ日常的でなく、よく分からないからだ。インターネットも最初はそうだった。ブロックチェーンもそうだ。人は知らないことや分からないことを否定しがちだが、時代が変わればそういう人達は過去の発言を反省する。世界経済フォーラムが取り組もうが、取り組まいが、メタバースは社会に浸透していく。だから、我々も取組みをして学びを得ていく必要がある

・また、Cryptoやブロックチェーンが環境に悪いということを言う人達もいるが、これは既に時代が変わっている。マイニングも再エネでカバーされているし、また、エネルギー消費の極めて少ないやり方に移行しつつある。既にデメリットよりもメリットの方が大きくなっていると認識をしている

 要約すると上記のような見解でした。特にメタバースについて否定的な見解を持っている人達に対する主張の潔さが凄いなと思いました。ここでは非公開にさせて頂きますが、世界経済フォーラムのメタバースプロジェクトは多くのグローバル企業が協力を表明しています(日本企業もありました)。今はまだメタバースについて懐疑的・否定的な人達も、来年1月のダボス会議以降で流れが変わっていくことを感じ始めるのではないでしょうか。ダボス会議以降に、様々なグローバル企業が自社のメタバースについて発表・発信をしていくことが想定されます。

 なお、今回YGL年次総会に参加をして、改めてメタバースについて様々な人と意見交換をしたのですが、未だ多くの人がメタバースについて誤解または正確な認識が出来ていないということを感じました。

 それは「メタバース=新しいSNSのようなもの」という誤解です。旧FacebookのMETA社がメタバースというイメージから、メタバースというとSNSのようなコミュニケーションツールというイメージを想起してしまい、プラットフォームは1つになるのか集約されるのかという議論をしている人もいますが、これはメタバースの価値の中で全体の1~3%程度の価値に過ぎません。

 他方で「メタバース=新しいインターネットのようなもの」という意見もありますが、これはこれでやや過大な幻想をメタバースに抱いてしまっているのかもしれません。

 これから定義が変わってくるかもしれませんが、「メタバース=WEBコンテンツの1つ」というよりカジュアルな使われ方を当面の間はされてくると思いますし、その先ではBtoCでの使われ方よりもBtoBでの使われ方がされてくると考えています。

 前者のWEBコンテンツの1つというところでは2002年頃にWEBサイトも静的なものからFlashなどを活用した動的なWEBサイトになっていきました(これ、この時にビジネスしていなかった人は何言っているか分からないかもしれませんが、2002年頃より前はWEBサイトで動画が動くって考えられなかったんです)。

 その意味で、よりリッチコンテンツとしてメタバースが活用されていく可能性があります。その場合は別にそれぞれの会社や組織が独自のメタバースコンテンツを作っていけばいい訳であり、現在一部の人で議論されているような「メタバース空間は統一的なものになるべきか」という議論は当てはまらなくなります。それぞれの会社や組織でホームページがあるように、それぞれのメタバースが出来ていく可能性があります。なお、もちろんそれぞれのメタバース空間での情報連携やサインインの効率化のために統一的なブロックチェーンが活用されることにはなると思います。ただし、これらはあくまでも裏側の技術的要素としてブロックチェーンが活用されることになり、表面的には気付かないでブロックチェーン技術が活用されていくことになるかもしれません。

 なお、上記はメタバースの価値のごく一部であり、個人的にはメタバースの価値はBtoBにこそあると考えています。技術的な進歩や人の慣れなどで5~10年程度は先になるかもしれませんが、メタバースの最大の価値はコミュニケーション革命にあると考えています。これは、ただ遠く離れている人とのコミュニケーションが出来るという意味ではなく、実社会だと相手の顔を見ることで言葉を選んでしまったり、また、お互いの意見がどうしても伝えきれないことが多くあります。たとえばメタバース空間で脳波を通じたコミュニケーションが出来るようになれば、今よりも格段にコミュニケーションの質は高まります。また、企業のR&D(研究開発)も現実社会で行うよりもメタバース空間で行った方がコストも安くなり、メタバース空間で設計したものを3Dプリンタで現実世界で実現していくようになっていくのではないでしょうか。

 比喩的な話をすると、古代のエジプトのピラミッドやナスカの地上絵も実はメタバース空間で設計をしたものを現実社会で創っていったのかもしれません(比喩的と敢えて言いましたが、これは比喩的ではないと思っています)

 以上が今回、YGL年次総会に参加して感じた世界経済フォーラムのメタバースの取組みになります。2018年のサマーダボスから、定期的に世界経済フォーラムのイベントには参加をして、Cryptoやブロックチェーンについての認識をキャッチアップしてきましたが、これが来年1月のダボス会議でメタバースとしてお披露目されるのは非常に感慨深いです。

 日本国内でも、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)理事や日本暗号資産取引業協会(JVCEA)副会長理事、そしてデジタル空間経済連盟理事として日本国内のWEB3.0やメタバースについてのルールメイキングの提言をしてきていますが、世界はそれを超えるスピードで実現に向けて動いています。

 WEB3.0領域は日本が世界に貢献できる数少ない成長分野です。世界における日本のプレゼンスを高めていき、また、実際に世界で挑戦できるプロジェクトの支援を現在与えて頂いている様々な立場を活用して貢献していきたいと改めて決意しました。

 なお、余談になりますがYGLは非常にボランタリーかつ相互支援の精神が強いコミュニティです。2019年にYGLに選んで頂いて以降、2020年からコロナの影響もあり、中々リアルなイベントが開催されてきませんでしたが、やはりリアルでの出会いの価値は非常に大きいと思っています。

 今年の3月末~4月に10日間かけてYGL向けの研修プログラムがハーバード・ケネディ・スクールで開催され、ここに参加をしてきました。

ハーバードケネディスクールキャンパス

 YGLとしても2年ぶりに開催したリアルで集まるプログラムで世界から65人のYGLが選抜されたプログラムでした。

YGLのハーバードプログラム

 これも非常に学びの深いプログラムでした。10日間、世界から集まったメンバーで朝食・昼食・夕食を共に食べ、お互いの夢やチャレンジを共有します。参加者のバックグラウンドは多種多様で、某G7の大臣もいれば、人権問題のNPOセクターの人もいれば、経営者もいればジャーナリストもいればと様々なメンバーが集い、自らの感じている問題意識を話し合います。

 10日間を共に過ごすことで、強い信頼関係が生まれ、お互いのために何か貢献出来ることがないか、また、社会のために何ができるかを改めて考えさせられる機会になりました。今回のYGL年次総会でも50名以上のハーバードプログラムのメンバーが参加をしており、改めて結束の強さを感じることができました。

YGL年次総会で。ハーバードプログラムのメンバーと。

 なお、海外の研修では自己紹介の際に『履歴書に書いていない特技』を発表させられることがあります。何も考えておらず、急にあてられたので咄嗟に「剣道をしていたから人を斬ることが出来るからみんな注意して」と言ったところ、一瞬の沈黙があり「あれ、これ言っちゃいけないこと言ったかな」と思ったのですが、その後、教室が大爆笑になり、その瞬間から人気者になりました。

 ↑動画で見えないかもしれませんが、ハーバード最後の日にTalent Showがあり、居合い切りをやって欲しいといわれてやったのですが、これも好評でした。

居合い切りしたカン

 英語はネイティブではないので、10日間しかもハーバードということにためらいはありましたが、そんなことはどうでも良くなるくらいに有意義な日々であり、また、学びがありました。

最終日の卒業証書授与式

 何事も自ら動き、発信することで、それ以上のことが返ってくると感じられた日々でした。

 また、余談ついでですがYGL年次総会後に有志のメンバーでハイキングプログラムがあり、せっかくなのでこれも参加してきました。ハイキングというよりも登山だったのですが、改めて自然の雄大さを感じることができました。また、こうしたプログラムを通じて改めてYGL同士の結束を深めることが出来たのも、有意義でした。

シャモニーマウンテン
シャモニーの下にあるIceCave

 リアル世界でもメタバース世界でも、まだまだ可能性は多々あります。1つ1つ、自分がやれることを取り組んでいこうと決意を新たにしました。

 2022年9月4日 小田玄紀

*ここで書かれているメタバースに関する考えはあくまでも個人の見解です。所属する会社・組織の考えとは異なる場合もありますのでご了承ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?