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【短編連載】精と血:5

 〈8月1日〉
 父親の部屋に行った。
 アパートの1階の角部屋だった。
 3畳ぐらいの小さな台所、6畳の寝室、風呂、トイレの小さな部屋だった。
 特に荷物らしい荷物はなかった。一組の布団と少しの衣服。その他は必要最小限の日用品だけしかなかった。一人で暮らしていたようだ。

 部屋の中には、僕や母の写真なんかは置いてなかった。


 押し入れの中から黒いカバンを見つけた。
 カバンの中には数十冊ほどのノートがあった。何冊か開いてみた。詳しく内容までは読まなかったが、几帳面な字で書かれていた。
 これからノートを1冊ずつ読んでいこうと思う。父親の日記だろうか?それとも他の何か?
 いずれにしろ、父親のことが、何か分かるかもしれない。
 僕は未だに父親に自分がどんな感情を持っているのか、よくわからないし、父親のことを何か知りたいのかも分からない。でも、きっと、知るべきなのだろう。


 黒いカバンとノートだけ持ち帰り、残りの荷物はすべて処分した。


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