見出し画像

【農業小説】第14話 レバレッジ

前回の話はコチラ!

農業は産業として尊敬されているのだろうか憐れみを持たれているのだろうか。あるいはその両方か。

一方で農業している僕たちはそのどちらでもない。作物を育てるのは楽しいことだし、狭い部屋の中で忖度しなければならない組織の中で自分を殺して生きている隣人の方がよっぽど哀れだ。

確かに豊かさの指標として「収入」の低さは挙げられるのかもしれない。

令和3年に公表された農業経営統計調査「令和元年 農業経営体の経営収支」によると全営農類型平均でみた全農業経営体のうち1経営体当たりの農業経営収支は、農業粗収益が948.9万円、農業経営費が827.9万円だったようだ。

つまり、農業所得は121.0万円ということになる。

一方で 個人経営体の場合は、全営農類型平均でみた個人経営体1経営体当たりの農業経営収支は、農業粗収益が666.4万円、農業経営費が551.7万円となったようだ。したがい農業所得は114.7万円となっている。

僕たちのような法人経営体の場合は、全営農類型平均でみた法人経営体1経営体当たりの農業経営収支は、農業粗収益が1億1,719.2万円、農業経営費が1億1,391.7万円となったようだ。

この結果、農業所得は327.5万円となっている。

これらは兼業農家の収入、いわゆる副業というか税金対策でやっている農業も含んでいるのでこんな数字なのだ。これが業界の数字を正確につかめないでいる大きな要因だろう。

実は農業というのは坊主丸儲けと言っても過言ではない。一粒万倍って言葉を知っているだろうか?たった一粒の籾(もみ)が万倍にも実り、米を沢山蓄えた素晴らしい稲穂になることを表している。

つまり1円が1万円になる。こんなレバレッジの効く商売が他にあるだろうか?

たとえば事業会社が1万円の自己資本を持っている場合、総資産は1万円だ。総資産1万円から1万円の売り上げと1千円の利益を生む期待ができるのなら、1万円の自己資本に対して利益率は10%となるわけだ。

ここで市場が非常に有望な事業だねと見たならば4万円の他人資本、つまり借り入れをして総資産を5万円にしたとしよう。その場合、総資産5万円からは5万円の売り上げと、5千円の営業利益がもたらされるわけだ。

4万円の借り入れに対する利払いが、5%の2千円だとすると経常利益は3千円となるので自己資本に対する利益率は30%となるのだ。

けして農業のように1円が1万円になったりしない。ただし、ここには経費が含まれていない。この経費をどうシュリンクさせるかが農業経営者としての腕の見せ所だろう。

金に金を稼がせるのがもっとも効率が良いのは事実だ。しかし農業だってなかなか稼げるものだ。参入当初は全ての人に「儲からないから辞めておけ」と否定されたものだが、「どうだ!」と言ってやりたい気分だった。

最初の頃は先陣を見習って、化学肥料や農薬を使っていたので想像以上の収穫が実現した。

会社が成長するにつれて雇用は増えていく。収穫量も増える一方だった。収穫された穀物の山を見て、 農協の担当者は呆気にとられていた。

何しろ収穫量はたった一年で十倍以上に膨らんで、地域のライスセンターをパンクさせた。なんとかやりくりして事なきを得たが、とんでもない利益を僕たちにもたらした。

まさに魔法のようだった。 何もかもがあっという間の出来事で、みんな豊作に酔いしれてしまった。でもアル中と同じだ。最初はちびちび飲んでいい気分に浸れても次第にアルコールの量も度数もあがっていく。

一年目、化学肥料や農薬には信じられないほどの効果があった。しかし、生産高をこのまま維持するためには量を増やさなくちゃいけないなんて、投資家の求めに応じてさらなる売り上げを望むのであれば売るくらいの剤を仕入れなければならない。

それで結果的に農薬・資材の販売業にも手を出すことになろうとは夢にも思わなかった。

さておき雑草にはすぐに抵抗力がつくから、ここでも農薬の量を増やさなければならない。そうすると雑草はさらに抵抗力を強めていくのだ。イタチごっこというやつだ。

数年もすると見たこともなければ存在さえ知らなかった雑草を除去するために様々な除草剤を組み合わせて散布するハメになったんだ。

次回の話はコチラ!

よろしければサポートお願いします! いただいたサポートはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!