派遣社員ですが、それがなにか?
63歳で定年退職をした会社に入社する前の15年間、私は派遣社員として働いていた。それまで7年間働いていた大企業からの転職だった。
私は派遣社員に誇りを持ってた。そして、今も尊敬している。それは職業人の中で、技術という武器を手に世間を渡り歩く「侍」だと思っているからである。
そんな私が経験した、派遣社員だから?、派遣なのに?、というちょっとしたエピソードである。
■何しにきたんや!
最初に派遣されたのは、製造から建設まで手広く手がける大手総合企業だった。
その企業は、新たに建設される空港施設関連のプロジェクトを受注していた。そして私は、空港島内の貨物ターミナルに設置される荷役システムの電気担当として派遣された。派遣中滞在するアパートの準備が整って、現場事務所に挨拶に行った時のことである。
私 「電気担当になりました。派遣社員の〇〇です。
どうか、よろしくお願いします。」
副所長「何にしにきたんや!」
事前に電話連絡をしているし、前もって派遣先からは、その日から現場に入ることは連絡がいっているはずである。「何しにきたんや、はないやろ!」 驚きと戸惑いで、返す言葉がなかった。きっと私が派遣社員だから、馬鹿にしているのだろうと思ったのだった。
副所長は現場事務所を完全に仕切っており、その後、しばらくは事務所での居場所がない状態が続いた。ところが、事務所の掃除機の調子が悪いというので、私が修理してから、副所長の雰囲気が少し変わった。さらに、一緒に釣りに行く機会があり、その後は一気に距離が縮まった。
後の宴会の席で、初日の話をすると、彼は
「最初が肝心やからなぁ」
と笑顔で教えてくれた。彼は誰であれ、新参者にはいつも厳しく接して様子を見るらしい。私の後にも新たに現場に入った者は皆、彼の洗礼を受けていたのだった。
◾️ということで頼みますわ・・・
次に派遣されたのは、関西にある老舗の計測器メーカだった。
関東の某所に中規模の自動計測ラインを設置する案件を受注していた。私の担当は、当該案件の制御システムの取りまとめだった。機械を含めた全体の担当は派遣先の主任が担当していた。
ある日、関係者が会議室に集められた。
主任「実は、お客様との打ち合わせの中で、重要な仕様の
行き違いがあったんや。」
A 「それは大変ですね。」
主任「そうやねん。大変やねん。お客様もご立腹やしなぁ。
誰かがお客様を説得に行かなあかんねん。」
B 「そうですか・・・」
主任「ということで頼みますわ・・・、〇〇さん(私)」
私 「はぁ〜、俺っすか?!」
というわけで関東まで出張し、お客様に頭を下げることになった。幸いお客様は、事前に聞いていたような分からず屋ではなく、丁寧に話せばこちらの事情をご理解いただくことができた。
この一件があってから、その派遣先での私の立場が優位になったのはいうまでもない。
◾️〇〇(私)ちゅうやつは、どいつやねん!
同じく、関西の老舗計測器メーカのでエピソードである。
ある日、主任が慌てた様子で私のところにやってきた。言うには、
主任「さっき会議室で打ち合わせ中に、製造課のC課長が、いきなりやって
きて、派遣社員の〇〇(私)ちゅうやつはどいつやねん!って言って
いたで、なんかやらかしたんかいな。」
とのことである。
C課長はヤクザの親分のような強面でとても厳しい人だと言うのは人伝いに聞いていた。いったい私の何が気にいらなかったのだろうと、考えてみるがなんの心当たりもない。
後から製造課の人から聞いたところでは、彼は怒っていたわけでもなんでもなく、少し前に私が製造課と一緒に手がけた工事が思いのほかうまく行ったので、一度私の顔を見にきただけだったとのことだった。
全く人騒がせな親分だった。しかし、その後も彼にはとても可愛がってもらった。
◾️ええ加減、帰らせてもらいますわ!
次に派遣されたのは、大手製造企業だった。
そこでの私のミッションは、製造ラインの効率化プロジェクトの一員として無事にプロジェクト完遂することである。今までに私が扱ったことのない制御システムで、まずはその理解から始めないといけないという、非常に難易度の高い案件だった。日々、頭から煙が出そうなくらい資料にかじりついていた。
ほとんど案件の打ち合わせにも、現場にも顔を出さない課長補佐クラスのD氏から案件の進捗のための会議招集がかかった。時間は定時後だった。可能な限り定時内に仕事を終えて、特別な理由がなければ残業はしないと言うのが私の基本的な考えだった。したがって、最初からその会議には不満があった。
ろくに現場も知らない、そして積極的に情報を集めようともしないD氏の質問が延々と続く会議だった。私の我慢は限界を超えた。
私 「もうすでに定時を回っています。こんな会議は時間の無駄です。
ええ加減、帰らせてもらいますわ!」
と言って、席を立って会議室を出て行った。これで派遣契約が終了するなら、それもでいいと思っていた。その後のD氏の反応は知る由もないが、翌日にこの件に関する叱責はどこからもなかった。
ちなみに、制御システムのネックを握っている私を外すとプロジェクトの納期内完遂は不可能であることは自明だった。
■というわけで
少々、いや相当な自慢話で全く恐縮だが、結局は、いかに派遣先で認めてもらえるかということに全力を注いでいた結果としてのエピソードである。ご笑納いただけると幸いである。
ところで、失敗もたくさんして派遣先に迷惑をかけたことも、もちろん多々ある。しかし、15年間の派遣社員経験において、途中契約終了になることが一度もなかったことは、ある意味当たり前のことではあるのだが、私としてはささやかな誇りである。
続編は「やっちまった編」はこちらから↓
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