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異形者達の備忘録-8

お兄ちゃんのお願い

蕎麦屋のアルバイトは、家には内緒のつもりでいたが、近所だし、後から問題になっても、困るだろうと、蕎麦屋の店主が、私の家に挨拶に行ってくれたらしい、人手不足でぇ、とか、たまたま手伝ってもらったら大変助かったのでぇ、とか奥さんと2人で、色々考えてくれたシナリオ、それなのに、婦人(親戚のおばさん)と来たら、「あらそうですか、こちらに迷惑さえかけなければ、どうでもいいです。」とだけ 言ったらしいのだ。今日バイトに行ったら、奥さんが、悔し泣きをしていた。(いや、本人がケロッとしているのに、あんたが泣く? と心で突っ込む)が、私までチョット涙目になったさ、お二人に、ありがとうとお礼を言ったら、なぜが時給が跳ね上がり、バイト帰りにルンルンでペダルを漕いでいた。そしたら、路肩の植え込み1メートルぐらいに上に、正座したまま浮かぶ異形の何かを見てしまった。知らんぷりで走り抜け、部屋に戻ってパソコンを開いた。

いつものマップが自然に開き、ズームして、場面は、広い和室だ。

床の間の前には、先ほど見た若い女性が正座している。まだ10代だろうか、私は、あぁ!さっきの人だ。と思った。

和室の中央には、大きな介護用ベットがあり、正座し俯いている女性の兄が、介護用の機器に繋がれてグッタリとしている。ベット近くでは母親が、狂った様に叫びまわっている。慌ただしく救急隊員が駆け込んで来た。彼らに向かって母親が叫ぶ、この女が維持装置を切ったのよ! 兄の面倒も見られないなんて、ああもう!こんな娘なら、産むんじゃなかったぁー! 光一!光一、目を開けてぇー、バタバタと彼らが去ったあと、すぐに1人の救急隊員が駆け足で、戻って来た。彼は女を細かく見ると、すぐに電話をした。「至急1台よこしてください、外傷性ショックで意識がありません。首も重傷です。急いでください。

誰もいなくなった部屋に、気付けば、彼女が半透明になって正座している。

彼女から言葉が流れてきた。私、病院まで待たなかったの、お母さんが怒って、凄く怒って、首まで締めて来るんだもの、

お兄ちゃんには、障害があって私とは15歳も歳が離れているの、お母さんは、お腹の子が女の子だと分かって、嬉しかったんだって、将来お母さんが亡くなっても、私がいるから安心だって、私も一生懸命お手伝いをしたの、でも痰を取る時とか、チューブで食べ物を入れる時とか、お兄ちゃんはいつも、目と口パクで、生命維持装置を止めろと言って来る。少しなら声も出るのに、私にだけわかる様に、無音で言って来る。ダメだと言うと、泣くんだ。

泣いている兄をみて、痰の取り方が下手だと、父さんに殴られた。

あの時、とうとうお願いを聞いて、維持装置を切ったんだ。

ピーーと警戒音が鳴り響き、父親と母親がすっ飛んで来た。父親は救急車を呼び、母親は私を殴り、蹴り、金切声を挙げて首を絞めにかかった。薄れてゆく意識の中、鬼の形相の母の後ろに、ベッドの上でこちらに顔を向ける兄の口が、一緒に行こうと動いた。自分でも驚くほどの大声で、「嫌アー!と叫び、母の手を振り解いて、部屋の隅に座り込み、私は永遠に、意識を手放した。


私は、ずっと言えなかったけど、お兄ちゃんが大嫌いでした。


画面がマップに戻ったので、何かあったかいものを飲もうと立ったら、チョットフラついた。疲れたぁ!


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