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泣き虫裕二の大冒険-1

ナミダ君さよなら

チョット寂しい田舎の駅前で、スワンという喫茶店をやっています。
そこの常連客の1人に、山田源太という80代の老人がいる。通称、源さんだ。体格のいい元警察官である。源さんは今とても悩んでいるのだ。源さんの所には、裕二と言う中学生の息子がいる。源さんと裕二には血の繋がりはない、養子だ(詳しくは、返せない釣り銭への思い、を読んで頂けたらありがたいです。)裕二は13歳、源さんは矍鑠(かくしゃく)としているが83歳である。凄まじいほどのジェネレーションギャップを抱えながら、男二人で暮らしている。

その上、裕二は中学生だが、2年ほど入院していたので、勉強等は頑張って追いついているが、とても寡黙で、精神的にいつも緊張しているらしく、極端に涙腺がゆるい、学校で友達と口喧嘩になったりすると、負けてないのに、勝っているのに、涙ぐんでしまうのだ。そう、裕二は、いじめられっ子になりつつあった。

例えば源さんに、明日から弁当が必要だ。と言うだけで涙ぐむ。源さんが「弁当ぐらい、幾らでも作ってやるぞ、その位で泣くな!」と言ったら「だっで、俺また、べいわくがげるじゃん(めいわくかけるじゃん)」と言ってワンワン泣く、と いつもこんな風だと言うのだ。

また学校でのことを、それとなく友達に聞いてみたら、例えば、先生がプリントを回す時に、裕二の前の席の奴が、ふざけてプリントを、ヒョイヒョイと受け取りにくく動かすと、ちゃんと渡せよバカ!と、引ったくりながら怒鳴るが、涙がチョット流れてしまう、それをまた揶揄われて、アレまた泣いちゃったぜ!なんて笑われるのだ。でもね、とクラスの紀子ちゃんは、源さんに言うんだって、裕二は泣いてたって一番強いんだよ! デブって言われて、いつも泣いている子を庇って、いじめ組を何人かまとめてぶっ飛ばすのよ、まあ 泣きながらだけどね。でも本当なんだよおじさん、裕二くんすごく強いよ。と話してくれた。

ある夜、源さんは裕二に聞いてみた「裕二、お前、クラブ活動はしないのか?」 「うん、やらないよ」 「やりたいこと、やってみたいこと、無いのか?」裕二は少し考えて、天袋の上、ズラリと並んだ表彰状を指差した。それは源さんの剣道有段者の賞状だ。源さんは、剣道か、うんなるほどなあ、 裕二、御茶入れてくれよ、うんと言って裕二が熱いお茶を二つ持って来ると、それを一口啜り、源さんは「旨いなあ、なあ裕二、もしかしたらだけど、間違ったらゴメンよ、剣道やって見たいって理由はさ、面が、顔を隠すから、だからなのかな?」裕二は俯いていたが、コクリと頷いた。「面の中で泣くと、涙と鼻水を拭けないぞ、」と言ったら、「いいもん、垂れ流しっぱなしにする!」「なるほど、それはまた男らしい決断だ、よし分かった、今度の週末、俺の知っている道場に一緒に行こうか、どうだ?」「うん、行って見たい!」 そんな分けで、土曜日、スワンで朝食が済んだ3人は、3人と言うのは、源さん、裕二、そして運転手役の剛君です。剛君もスワンの常連で、裕二とウチの唯一の店員,康子の家庭教師(無料)をしている、本業は会計事務所勤務の青年です。まあ、私としては、剛君が一緒に行ったので、夜食に、おでんの準備でもして待つ事にしようと思う。

その日の夜、剛君は口角泡飛ばす勢いで、絶好調でした。先ず驚いた事に、源さんは引退したとはいえ、大きくて立派な道場の師範代でした。どうりで背筋がピシッとしているよね、さて道場に着くと、稽古をしている人達の気迫が凄い!兎に角凄かった。裕二を見ると、固まっている。無理もないが、源さんに別室に連れられて、防具一式を着けて出て来た。なんかブカブカで可愛かったが、大人しく指導員の言う通り、テキパキとこなしている。源さんが首に掛けてあげた手ぬぐいで、鼻水と涙を拭き拭きだけど、道場でそれを見咎める者は1人もいなかった。そして裕二は3時間頑張り、最後に、見学生の希望者のみ実施されるテスト手合わせになった。面付け、カマエ、の声に、裕二は面を付け、立ち上がって竹刀を構えた。初めー、の声に裕二は飛び出した。エィー! エィー!裕二は、教えられた様に、大声で何度も立ち向かう、気合いの声のあまりの大きさに、道場は静まりかえって、皆が、裕二と指導者の立ち合いに注目している。直後に、パーン! 指導者の竹刀が吹っ飛んだ。拍手が起きましたよ、止めー! の声に、サッと裕二は自分の位置に戻り、そして倒れてしまった。俺と源さんが駆けつけて、源さんは急いで裕二の面を外したのです。すると彼の防具の前は涙と鼻水でグッショリ、面からはドロリと流れ落ちたのです。源さんが裕二の鼻と口を覆っていた手拭いを、グイッと引き剥がすと、背中をドンッと叩きました。裕二は、ゲホゲホ! ヒューと息を吹き返しました。源さんに促され、正座して、ありがとうございました。元気よく言って、頭を下げた。2人が着替えに行った後、この僕が全部綺麗に掃除しました。ほんとに綺麗にしたんですよ。僕が1人でね

でね!話はこれからですよ!戻って来た源さんが、これから近くの整体師に寄るって言うんです。隣なので同行しました。待合室に入ると、すぐに名前が呼ばれ、源さんが裕二を連れて入って行きます。裕二を先に行かせた源さんが、チョット振り向いて、眴(めくばせ)を送って来たのです。ん!?と思っていると、源さんの声が聞こえて来る。「先生、この子は数年前に交通事故に遭いまして、退院してからは普通に過ごしているのですが、どうも涙腺に異常があるようで、見ていただきたいと思いまして、よろしくお願いします」と言っている。先生が、なるほど、どれどれなんて言っている。それから2時間も待たされた。うたた寝していたらしく、ニッコニコの裕二君に起こされた。「先生すみません、お待たせしました」だって、源さんが、もう一回トライだと言って、我々は再び道場へ向かった。裕二がね、1人で手合わせテストを申し込んで、着替えて来るから、2人は見学していてくれって言うのさ、もうビックリしたよ。源さんと並んで見学させてもらった間に、今度のことは親友の整骨院の先生と結託して企てた、裕二への暗示作戦だったと聞いたのです。

けど、裕二ったらまた。指導員に勝っちゃったんだ。立派なもんさ、裕二は全く泣かなかったし、余裕かましていたんだ。アッ源さんは泣いちゃっていたよ、帰りは、裕二君も源さんもご機嫌で、源さんが何処か酒の飲める処で、美味いもの食っていこうって言うから、親子水入らずで行ってもらって、帰りはタクシーでってお願いして、運転手はお役御免になり、軽くラーメン食って帰って来ました。「ご苦労さんでした。剛君ご褒美に。鯖の塩焼き食べる?」食べると言うので、ビールの追加を用意し、焼き魚と他のオツマミを準備しつつ、昔よく聞いた、なみだ君さよなら♪ さよなら涙くん♪なんて、鼻歌うたいながらテーブルに並べていくと、アッそれ知ってる。と剛君も歌う、しかも上手い! しかも原語。俺は構わず音痴で日本語で歌う。なみだ君に別れを告げるおっさん2人の土曜の夜のことでした。

続く

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