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ショート ゼロの消滅

その星には、ゼロという名前が付けられた、地球と同程度の大きさがあり、衛星も二つ存在している。ゼロは、数日前には何も無かった位置に、突然出現して大騒ぎとなった。世界中が観測する中、ゼロは異常な早さで、銀河中心に向かっていることが判明し、さらに大騒ぎとなった。その頃のゼロの位置は土星の辺りで、非常に土星に近かっために、学者・観測者の多くは、土星を取り巻く多くの衛星に衝突するのではないかと考えた。しかし、タイタンに近付いたゼロは左側面から赤い光を発していた、反射による光では無く、恒星のように、自分で光を発していた。しかも部分的にだ。

そして、ゼロはゆっくりとタイタンを避けると、土星の輪を回り込み。ピタリと太陽へ進路を向けた。世界中で、観察し、記録し、とても恐ろしい予測が出された。

ゼロは意思を持って動いている。つまり何者かに操縦されている。ゼロはその推進力に、自身の核を使っている。つまりゼロは、コアをエネルギーとして使うだけの化学力がある。

ゼロの目指す方向は太陽ではない、目標は地球・テラである。理由は、ゼロのコアに問題が生じ、多分コアの減少により磁場に狂いが出てしまい、そのために2機の衛星を作り、安定した衛星からゼロ本体とコアを操縦し、同じ規模と構造を持つ地球を見つけた。

世界中が、真剣に考えた。我々に何が出来るかを

地球の場合、コアまでは2900キロしかない、でもそこには誰も到達できない! その圧力と熱に耐えうる装備などまだ発明されていないのだ。マントルでさえ、我々は自由に扱えないのだから。電磁波の屈折で内部構造を調べるぐらいが精一杯だ。

世界は、ゼロの観測と、足下の研究で一丸となった。目覚ましいスピードで地球内部の研究は進み、コアの周りの、水を含有する鉱物の存在にまでたどり着いていた。

ゼロが土星の周辺にいた頃、人類のほんの一部が、何らかの手段を講じて、圧倒的優勢なゼロとの和平を唱えたが、ゼロが火星周辺に到達した頃、人類は大いなる絶望の中で、嘗てない平和に、押し黙るのだ。

そんな時、太陽系銀河のバランスの崩れから、月が地球から凄い勢いで離れ出した。火星にいや、ゼロに引き寄せられていた。

火星と地球の中間から、火星よりの位置で、月は、同じくゼロの軌道から外れ、飛んできていた2機の衛星に衝突した。衛星を失ったゼロは、爆発し、粉々となり、長い時を経て、地球からかなり遠くで、環状列石として地球を周遊している。当初地球の磁場はズレ、極端な暴風雨、地震に見舞われたが、それもやがて落ち着いた。朝に晩に空は茜色の霞の様な、グラデーションの帯に彩られ、人類は月を失った消失感を味わうことは、無くなっていた。

そして元気になった人類は、新しく発見されたケイ素や、水を含む鉱物の利用権や所有権をめぐって、新たな紛争を起こしたのだった。

おしまい

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