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山高/海深(やまたか/うみふか)第二章

青いゴムの浮き板

リュウイチ・サトシ・エミコの3人が揃って6歳になり、来年は小学生になる、そんな夏休みのことだ。

園長先生が、お寺にあった古いカルタ、『チロリン村とくるみの木』と書かれた箱を持って来た。それなあに?と騒ぐチビ達に、床にカルタを広げて、お話をしてくれた。古いけどキレイな絵のカルタだ。

これはクラスのお姉さんで、ピーナッツのぴー子、この可愛い子が、クルミのクル子ちゃん、これは悪戯小僧で、コン吉、叱られるとコンキリプー!と言って逃げるカッパの妖怪なんだよ、そのままカルタをやって昼まで遊んだ。お寺でお焼きと冷たい麦茶をいただいて、参堂の階段を走って降りる。大人は「危ないから走るな」と声をかけるが、はーいと返事はするが、踵は浮き、つま先は大地を蹴っている。

山門からキラキラと光って見えた田んぼに着くと、生い茂る笹の葉を幾つも捥いで、茎の側をくるっと丸めて突き刺し、笹舟を作る。川に浮かべて競走するのだ。笹舟をポケットに入れて、また駆け出す。

やってきたのは河川敷! 子供だけでは行ってはいけないと、キツく言われている場所だ。分かってる! だからいつも「はーい」と答えていた。だってその河川敷にはいつだって大人が居るんだ。

近藤佐吉(こんどうさきち)と言う名前だ。おじさんはいつも緑の軽トラにいて、お魚釣ったり、時々お仕事に行ったりしている。いつも一緒に遊んでいるから、絶対に子供達だけじゃないからね! 今日も作った笹舟を、沢山置いてもらって、お焼き三つあげて、明日の約束をして帰ってきた。帰り道、エミコが、おじさんは近藤佐吉だから、コン吉だねと言った。

翌日、今日はお寺に行かないと言うと、おにぎりを持たされた。昼間は農作業や林業の人が多くて、大人達は家に居ないからだ。でもお腹が空いたら、両親の働いている場所へ行けば、何でも食べられるけどね、おにぎり持って出かけるのは、何だか楽しかった。

河川敷に着くと、コン吉におにぎりを渡した、まだ暖かいおにぎりに感動していた、エミコが、コン吉と言う仇名の由来を話すと、カルタで遊んだ子供のことを思い出して、少し泣いていた。でもコン吉の子供はもう大きくて働いているそうだ。

軽トラの荷台にあった青い板マットに笹舟を並べて、一斉にスタートさせようと決めた。子供達は其々の舟に船頭を乗せると言って、リュウイチは緑のアブラムシ、サトシはセミの抜け殻、エミコはてんとう虫。そっと笹舟に乗せたところで、てんとう虫が、ビビッと羽を出し、ヒュッと飛んでオデコにパンとぶつかって飛んで行った。エミコはてんとう虫にパンチされたと言って泣いた。コン吉が、虫さんが嫌だと言ってるよ、可哀想だから船頭を乗せるのは止めようね、というのでそうした。

青いゴム板に沢山並べた笹舟は一斉に流れて行く、歓声をあげて飛び回る子供達、岸側にいたサトシが躓いて、板は一回転してしまい、綱がきれて、淵の深い方へ流れてしまった。板を捕まえようとした3人は辛うじて捕まったまま浮いていた。コン吉が「両手で板に掴まれー」と言うと、3人は同じ方向を向き、腹を乗せて捕まった。コン吉は、左手に綱を握り、右手を力一杯伸ばすが、後1メートル届かない、「いいかーバタ足だ! 初めー!」3人はバシャバシャやったが、中々進まない、「もっと、もっとバタ足、頑張れー!」3人はワンワン泣きながら、必死にバシャバシャやった。すると少しづつ進み、コン吉の右手が届いた。指2本、だが指も折れよとばかりに引っ掴んだ。そのままグイーッと引っ張り寄せ、安全な河原に登って大泣きした。コン吉の爪は剥がれ、ポタポタと血が滴った。3人にワンワン泣かれたが、水で洗って止血して、もう大丈夫だよと言って安心してもらった。エミコがこれでもかってほど絆創膏を貼り、さらに包帯を巻くのにはびっくりした。こんなもの持ち歩いているんだねと、感心したよ、ユルユルなのは、後で直すとしよう、おにぎりを食べながら、「実はね、コン吉は泳げないんだ」と言うとリュウイチが「エッ!カッパの妖怪なのにぃ」と言って、みんなで大笑いした。疲れ切ったので、午後は河原の日陰でお昼寝をした。コン吉は1人で考え事をしていたが、子供達が起きて来ると、「あのね、コン吉からお話があるんだけど、聞いて」と言った。そして、コン吉が実は家出をしていたこと、でも 一生懸命謝って、お家に帰ろうと思うこと、だから明日から、もうコン吉はここに居ないこと、を話した。子供達は、ウンウンと頷いていたが、サトシが、じゃあ、さよならってこと?と聞いてきた。コン吉は大きく頷いて、そうだよと言った。エミコが泣きながら、お家は遠いの? と聞いてきた。また大きく頷くコン吉。それでね、約束してほしいんだ。3人揃って、なに?と言う顔をする。「コン吉は此処にいなくなるから、大人と一緒じゃない時は、もう此処に来ちゃダメだってことさ」知ってるよとリュウイチが膨れっ面をする。ハハハと笑って。コン吉は軽トラに乗った。3人とも帰る準備をした。コン吉は窓から「早く帰れよ」と言った。サトシが「バイバイ、泳げる様になれよー」と言った。青い軽トラは遠ざかって行った。リュウイチは風呂敷を首に巻いてヒラヒラさせて、大人が居ないから帰るぞ!と言い、子供達は走り出した。


次回三章 キングギドラのいる洞窟につづく


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