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異形者達の備忘録-26

パパ起きてー

私は宮内ユリ、女子高生です。放課後には、ワンゲル(ワンダーフォーゲル)部の遠征場所調べを図書室でやる。日帰りなら、一泊ならと、いくつかの候補を出しあって、コピーを取った。私の役目は、それを持ち帰りパソコンでいろいろ調べることだ。大変だけど、楽しい。

教室でワイワイと帰り支度をしていると、また来た! 宿敵オカルト同好会の連中だ。足早に近付いて来ると「さっき図書館で、○○峠に行くって言ってたよな? あそこは止めろ、●▲キャンプ場もダメだ」なんて言い出す。京子が「いちゃもん付けないでよ、そう言のも全部ユリがパソコンで調べるから、大丈夫なの、放っておいて」と言い返す。京子も強いが、オカルト同好会の兎和鉄郎(とわてつお)は、もっと強い「霊感の無いお前達に、わざわざ忠告してやってる。良いから聞け」と高飛車だ。でも私はもっと強い、「心配なら、付いておいでよ、腰抜け!」と突き放して帰宅する。

その夜、資料を取り出し、パソコンを開くと、あれ!この街のマップになっている。近くの中央病院に赤いポインタが立ち、画面は病室になった。中年の男性がチューブに繋がれて寝ている。ドア付近に男性の妻と、姉弟がいる。あれっ、あの子はオカルト同好会のテツオ君だ。担当の医師に促されて別室へ入って行く。話し声に耳を澄ますと

母親「もう2年になるから、先生が延命は無駄だって、言うのよ」
医師「無駄と言う事では無く、2年以上の昏睡からの覚醒は、大変稀で、維持装置を外してもご本人様は苦しむことなどありません」
姉「決断出来ない、でもママが金銭的に無理なら、仕方ないです。」
テツオ「ダメだ! 脳波は少し動いているじゃない、パパは俺を庇ってこうなったんだ。ママお願い!俺も働くから、装置を止めないでぇー」
彼は声を殺して泣いたが、結局1ヶ月後には装置を止めることになってしまった。父親が1人で眠るのを見ていたら、何となく深く眠っている、それだけの様に見える。テツオは病院を飛び出し、誰もいない公園でベンチを殴り、血を流し、彼は壊れていた。

夜だったけど、京子にメールを送った。知り合いの見舞いに行ったら、見てしまったと嘘をつき、ある作戦を持ちかけた。

翌日、テツオをワンゲル部の部室に呼び出した。本当は、嫌がるテツオを私が拉致して来た。そして、説得した。私の考えた作戦は、

パパ呼び戻し大作戦!!だ。内容は単純で、父親の耳元で、テツオがデッカイ声で「パパ起きて!」と、何度も叫ぶと言うものだ。パソコンで調べたら、昏睡状態でも聴覚は大丈夫らしい、だから耳元で鼓膜が敗れそうなほどの声量で叩き起こす!と言うものだ。

但し、病院内だし、騒ぐなんて言う生やさしいものじゃ無いから、許可が出ないかもしれない、その場合、ワンゲル部の皆んなで、大人達を押さえるから、テツオは飛んでいって、耳元で大声をあげ続けろ、いくらでも押さえといてやるから、叫べ!と言うものだ。

午後4時、テツオのママに私が話した。ダメかも知れないけど、このままで終わったら。テツオ君が壊れてしまうと言って、酷い傷が残るテツオの拳を見せた。驚いたことに私たちは説得に成功した。皆で手伝って病室を移動した。テツオの姉も駆けつけて来た。

パパ起きてー! テツオの声が響く、パパ起きてー! パパ起きてー! 10分 パパ起きてー! 20分 姉が飛び出して反対側の耳元で叫ぶ、パパ起きてー! パパ起きてー!

アッ指が動いた。医師がすっ飛んで来る。呼吸用の透明マスクを取ると、掠れた声でパパは「コラ鉄、うるさいぞ」そう言った。

テキパキと動く病院スタッフと、抱き合う家族4人を見て、看護師の人に挨拶をして帰って来た。

結局、夏休みのワンゲル部の活動は、山でキャンプすることに決まった。キレイな小川があって、少し登山も楽しめる場所である。

今年は、オカルト同好会から5名ワンゲル部に来たので、顧問も2人になった。楽しみだ。

おしまい


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