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異形者達の備忘録-1

暗黒微笑(あんこくびしょう)

私はユリ、中学一年生です。変な物が見えてしまう事から、自分の脳と精神に疑いを持ち、沢山調べて見たけれど書物では限界があり、どうしてもパソコンが欲しくて、家族や学校に内緒で、お蕎麦屋さんでアルバイトをした。やっと手にしたノートパソコンで、調べ物は一気に進み、病気、障害と言う疑いは殆どなくなった。そして、同時に治る見込みのない、厄介な個性なんだと絶望した。

ある夜のことです、あれこれネットで遊んでいたら、操作していないのに、画面いっぱいに地図が現れた。同時に足先に違和感を覚え、見ると私の前に足だけの異形のものが居た。一方画面は、ギューンと拡大していき、やがて、ある場面になった。それは、その人の心残りを、私に知らせる物だった。みた通りを、全部文章にしてネットに載せた。(お時間のある方は、手がかりは 自分だけという しらべ物 続編−2 を読んでみてください)はっきりしないが、何かぼんやりした光が当たった気がしたのです。錯覚かもしれないが、私に出来る事があるかもしれない、そう思った。


その日、お蕎麦屋さんは大変盛況で、ヘトヘトになって帰って来た。机に向かい、PCを開くと、もう画面は地図だった。ギューンと拡大されていき、ある場面になる。同時に、はっきりと声が聞こえた。

『絶対!押し出されたのよ私!殺されたのよ! 弾みなんかじゃ無い』

場面は、コミックマーケット会場だ。初めて見る、とても楽しそうな風景。また声が聞こえる。

もう30歳だよ、ソロソロこの会場では、浮いた存在だなあ、でも同級生の、のり子がいるので、気持ちよく参加出来ている。

15年前友達は1人も居なくて、漫画ばっかり描いていた。18歳の頃、コミケにブースを出して、初めて自分の漫画を並べた。その時、コスプレーヤーの、のり子と知り合った。私は、進学も就職もせず、ひたすら漫画を描いていたが、懸賞は全て落ちてしまい、出版社への持ち込みも採用されることは無かった。15年間で売れた漫画は6冊だけ、内3冊はのり子が買ってくれた。年に2回のコミックマーケットだけを楽しみに生きていた。

のり子は、本当に面白い人で、出会った当初から、いつも漫画のキャラクターになりきっているのです。衣装もですが、歩く時は、わざと幼児の様に歩き、口で「てちてちてちてち」と言っていたり、ちょっとしたハプニングに「はわわ、はわわ」と言って驚きを表現したり。私が何か食べていると、睨んできて、「ジトー」って言うので、「食べる?」と聞いたら。笑顔になって「ニパッ」って言う、私の食べ物を独り占めして、口角を半分引き上げ「暗黒微笑(あんこくびしょう)」って言うのだ。どうも、しめしめって言う事らしいのだ。

それが楽しくて、コミケ会場では、ずっとのり子の真似をして過ごした。周りの人が、引いているのも気がついていたが、コミック成り切りごっこは、やめられない、2人ではしゃぎ回っていた。

コミケが終了すると、帰りのホームは人で溢れかえる。後ろから、のり子がアニメ声で「降臨!成敗!エエエエーイッ!」と言うと、私の肩と腰をホームから押し出した。足場を失った私の目の前には、入って来た電車が迫る。咄嗟に振り返った背後には、こちらを睨むのり子、スローモーションの様に、口角を片側上げた唇が、あんこくびしょう、と動いた。

母さんは、今日もホームに来ている。大好きだった豆ご飯のおにぎりを持って、

母さん、どうして謝るの? 謝りたいのは私の方なのに、ごめんね、大好きだよ、母さん、母さんの手提げの中には、三冊の薄っぺらな漫画本が入ってる。母さんが買ってくれた 私の描いたコミックスだ。

テキストを送信したら、いつの間にか泣いてた。これでいいの?
ここでおしまい? 小さな声を出していて、自分の声に驚いた。

『うん、これでいいの』はっきりと、そう、聞こえた。



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