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異形者達の備忘録-18

歌うよ、下手でも俺は歌うよ

私はユリ、中学生です。駅ビルのお蕎麦屋さんでアルバイトしてます。

両親は居ません、親戚の離れに住まわせてもらっています。高校には行かせてくれるというので、その間になるべくお金を貯めて。独立しようと思っています。

その日も、お蕎麦屋さんは盛況で、賄いの夜食用弁当を前カゴに放り込み、自転車を飛ばした。 近くで、子供の下手くそな歌が聞こえる。自転車はハイスピードで走っているのに、同じ距離感で、ずっと聞こえている。おかしい!

それでも部屋に着くと。無理矢理、ホットカルピスを入れて。暖かい賄い弁当に集中する。 だってノートパソコンはとっくに起動して、唸っているんだもの、先に腹ごしらえするよ、絶対だ。

さて、カルピスを飲み干して、椅子に座り、パソコンをパカーッと開く、千葉県と東京の境あたり、グーッと拡大して、大きな寺と広い墓地だ。

小学3年生ぐらいの男の子が、リュックを背負い、山門に向かってピョコッと頭を下げると、裏の墓地に向かって行った。真新しい墓に着くと、リュックを下ろし、うまい棒を何本か取り出し、「姉ちゃん、遅くなってごめんな、明るくなるまで、ずっと居てやるからな、ママが姉ちゃんは、もう何でも食べれるって言ってたから、これ持って来たぞ、姉ちゃんはサラダ味だよね、俺はなっとう味な、これ食べたら、歌ってやるからな、怖くないだろ? 俺は怖くなんかないぞ」

男2人、女2人の四人組が、ライトとスマホをかざして、墓地を歩いている。「本当に出るのか?」「うん、足音や呻き声もするらしいよ」「ねえ、もう帰ろうよ、」直後! 彼らは、一瞬黙り込みました。全員が聞いたのです。遠くでボソボソと何か言っている、子供の声だ。「帰りましょうよ、お願い!」「ちょっと行ってみようぜ」「うん、そっとだぜ」男2人に仕方なく付いていく女子達、その時、歌が聞こえたのです。

「♪秋の夕日にー 照る山もみいじー♪」

ワー! ギャー! 「足挫いたよー!キャー」「助けてー」

宿坊に灯りがつき、お坊さんが2人飛んできた。

本堂では。男女4人のYOUTUBERとミノル君とご両親が、座っていた。

ミノル君とご両親の話

ミノル君とお姉さんは年子の兄弟で、2年前に、元気だったお姉さんのカエデさんに、突然小児癌が発見された。悪性で、進行はとても早かった。余命3ヶ月と宣告され、ご両親は、緩和ケアと自宅療養に切り替えた。

ご両親には、何も言わなかったカエデさんは、弟のミノル君に、暗いと怖い! 病院も怖い! と訴え続けて泣いていた。夜お手洗いに行きたくなると、隣の部屋のミノル君を小声で起こし、肩を借りてトイレに行く、個室にいる間も怖いから、戸の前で歌っていてくれと言うのて、歌っていた。すると、「ミノルは音痴だね、下手くそ!」と言って笑うのだ。そんな毎日を過ごすうち、カエデさんはどんどん痩せていった。もうトイレにも行けなくなった。ある夜、ミノル君に、「私死んじゃうのかな、暗いところに1人で行くのは怖いの、怖いよう、ミノル」と言ってシクシク泣いた。「大丈夫だよ、暗くても一緒にいてやるから、約束するから、怖かったら歌ってやるから」と、細くなった姉とユビキリゲンマンしたのだ。 その翌朝、カエデさんは逝ってしまったのだ。

お寺の本堂は、朝の光が差し始めた、お坊さんが「亡くなった方は、暗いところに居ることは無いです。お墓はただの印です。決して暗く寂しい所には居ません。安心なさい」と言ったのだ。

画面越しに、つい私も、ウンウンと頷いた。でも画面の中からミノル君が言うのだ。「もう、お墓には行かないよ、でも歌うよ下手くそでも、歌うよ 夜になると、姉ちゃんが部屋に来て泣くから、歌うんだよ、下手くそって笑うまで、歌うよ」

気がつくとパソコンは、グーグルマップになっていた。


おしまい


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