見出し画像

インサイドエリア/形状記憶粒子-4

第4章 下界からの訪問者

親方と川上さんが、キャンピングカーに興奮して目を輝かせている。得意げに説明する山田さんと、男3人がワイワイと大型車をいじり回す中、有川さんと私は、付近を探索して回った。樹木、植物に異変は無かったが、突き出した崖から麓を見た時、見下ろす風景の中に3人ほどの登山客が登って来るのが見えた。「双眼鏡が欲しいわね」と有川さんが言うので、取りに行って、3人にも声をかけ、5人で崖から豆粒の様な人影が上って来るのを見た。女性2人と男性1人のグループである。夕方まで3時間ほどだから、今日の夜、山小屋一泊の予定だろう。川上さんは、予約は一件も入っていないというが、彼等側からは普通に予約したとも考えられる。彼らに逢って、こちらのことは伏せて、色々聞いてみようということになった。情報がほしい!親方と山田くんは、山小屋から、さらに上った工事現場に向かい、巨大なキャンピングカーを置いて来ると言った。私と有川さんと川上さんの3人で、彼らを迎え撃つことになった。穏やかに、ごく自然に、色々聞き出すのだ。

夕食やもてなしの準備万端! 親方たちが、車を置いて帰って来て数時間経つが、誰も訪ねてこない、山中キャンプの人もたまにいる。と川上さんが言うが、テントらしき物も担いでいなかった。夜の9時を過ぎた。自分たちの食事を済ませ、私達は崖まで来て、双眼鏡で下界を見ていた。駐車場の上まで、霧で真っ白だ。山田が「駐車場は無事だったのに、暗くなってあの霧が発生したんだ」と言うと、親方は「確実にあの現象は、高度が上がって来ているな」と言うのだ。これは怖い、近い将来、ここも霧に包まれるということだ。川上さんが「例の3人ですが、どちらの世界の人にせよ、霧で立ち往生しているかもしれない、俺ちょっと行って来ます。なあに慣れた道です。すぐ戻りますので、心配しないで」と言って、出かけていった。4人は同じ思いでいた。多分見つからないだろうと。だが 10分もしないうちに、川上さんは、3人の登山客を伴って帰って来た。3人は沢に落ちたらしくずぶ濡れだった。川上さんが慣れた手つきで、髪を吹いてやり、乾いたタオルを渡して着替えもさせた。食事を済ませると、だいぶ落ち着いた。川上さんが、疲れているところ申し訳ないのですが、決まりなので、これに住所とお名前を書いていただけますか、と紙を差し出すと。「スミマセン 何もおぼえてないんです。どうしてだか分からないのですが」と言うのだ。続いて残りの2人も「本当に、なんで、何にも思い出せないんだろう」と涙ぐんでいる。一旦休んでもらうことにした。沢の水辺で何時間も這い回っていたのだから仕方ない、全ては明日の朝だ。

私達は夜は寝ないと決めていたので、5人でテーブルを囲んでいると。川上さんが居眠りを始めた。疲れたのだろう彼は一番年長なのだ。有川さんが毛布を持って来て掛けようとすると、ガバッと起きて「手の中に手が有る 感触があるんだ。何だこれ!」と上ずった声を上げた。彼が右手を上げるとその下に別の服を着た右手が残像の様に残った。それと共に今上げた川上さんの右手が一瞬で粒子となってサーッと消えてしまった。一瞬で知らない人がうつ伏せて寝ている。4人はそっと外へ出た。親方の軽トラでさらに上の工事現場に来た。運転しながら親方は、話した「日が登って、霧が晴れたら積めるものは積んで出かけましょう。少しの間は、車で行かれるもっと高い山を目指します。木々の幹の変化に注意しながら、原則として昼間移動し、物資の調達をする。夜は高い山へ、最終的に樹木のない場所へ落ち着いてから手段を探しましょう。

私が「樹木のないところ、高層ビルの上とか?」というと、山田さんが「砂漠もありですよね」と言う。有川さんが「大型船とか、潜水艦とか、宇宙船とか」やっぱり私、有川さん大好きだ。まだ 絶望なんかしない! 太陽が上り、私達は定位置に座っていた。ハンドルを握る山田が「地球号ヤマト出発」と声をあげた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?