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SEO対策なしでバズった動画を見てみた

インターネットにふれたことのある人間ならだれしもが一度は見る夢、それが「バズり」。
恥ずかしながら私も、おじさんになっても……否、おじさんになったからこそ「死ぬまでに一回くらいはバズりてえなあ」と、とみに感じる。

たわむれにTwitterをひらけば、洗濯機で白菜の玉を洗ってしまった人や、コピー用紙の上で立体的に見える写真みたいな絵を撮影してアップした人、答えの数字は合っているのに計算の順序が異なるためにバツをつけられた生徒の親による怒りの訴えが、膨大な数のいいね数やリツイート数を獲得して脚光を浴びている。
そういったツイートにはかねてからの知り合いと思われるアカウントから「ちょwwwお前RT伸びすぎwwwwww有名人じゃんwwwwwwwwwwww」というリプライが送られるのが様式美となっており、そのツイートにも180くらいのいいねがついていたりする。また、バズりツイートに送ったリプライに大量のいいねがついた人が、「いいねいっぱいついてる!こんなの初めて!」とさらにリプライをかさねてみずからのツイートを強調し、他人のバズりのおこぼれを米ひとつぶたりとも取りのがさんとするみっともないさまを、マジで1万回は見てきた。

そこまでいくと承認欲求が免疫暴走を起こしていると思われるが、ともかく、「バズり」はわれわれ陰の者が陽の者たちに下剋上を起こすための唯一の手段であり、0と1が構成する広大な仮想現実世界のモブの目のまえに舞いおりたインターネットの神さまからの天禄なのだ。

とは言え、「ごはん、おいしかった」とツイートしたところで、たんなるおっさんである私がバズることなどない。仮にあなたが女性だったとしても、「ヤッホー😄お疲れサマ😁ミカちゃんは何を食べたのカナ❓🖐❓🤔小生はお昼ラーメンを食べたヨ❗」というおじさん構文ど真ん中のDMを受けとるのが関の山である。
バズりたければ、時代の風を読んで発想の裏の裏まで吟味し、ニッチの穴をかいくぐって、かならず「バズり」を狙い撃つのだという気概と根性、そしてなにより卓越した戦略が問われるのである。

TwitterからYouTubeに視点をうつそう。
YouTubeはTwitterよりもさらにあからさまである。「バズりたい欲」がほとんど丸裸な形で表現されていると言ってよいだろう。

大物ユーチューバーの動画を見てみよう。

まずは、チャンネル登録者1030万人のはじめしゃちょーである。

1.2億回再生という日本人口とほぼ同等の再生数をたたき出しているこの動画のタイトルは「世界最大級のグミを1人で食う!(多分)」というものだ。

つぎは、チャンネル登録者489万人のヒカル(Hikaru)である。

再生数4900万回のこの動画のタイトルは「当たりはなかった?祭りくじで悪事を働く一部始終をban覚悟で完全公開します」というもの。

これらふたつの動画タイトルからは、まず以てSEO対策が読みとれる。前者であれば、「世界最大級」、「1人で食う!」。後者であれば、「祭りくじ」、「悪事」、「ban覚悟」といった具合に、目を引くワードをちりばめて視聴者を地引網にかけている。なんなら、これらパワーワードから逆算して動画を撮っている気さえする。デューク東郷も真っ青の的確な狙い撃ちである(ちなみに、SEO対策の観点からするとここのたとえは「デューク東郷」よりも「ゴルゴ30」の方が絶対に良い)。

とは言え上記の二名はプロである。そもそも平生から見てくれるひとが多いのだろうという指摘は当然あるだろう。なるほど、有名人はバズりのチートである。仲居くんのまえをキスマイが通るだけの動画が1000万再生とか行くわけで、それこそAdo氏ならごはんを食べるだけですさまじい再生数をたたき出すだろう。顔を見せるだけでもよいかもしれない。

そこで、ユーチューバーや芸能人以外の一般人による「バズり」動画に注目したい。


投稿者「音匠」。再生回数は1900万回以上である。タイトルは「中学3年間歌える事をひた隠しにしていた卒業生徒が初めて生徒の前で歌った アイノカタチ で号泣 卒業生絶叫 ザワザワから沈黙 そして大歓声へ 岩口和暖」。……とまあ、文字数制限におさまっていない。

ここで使われているワードを抜き出してみよう。「中学3年間歌える事をひた隠しにしていた」、「卒業生徒」、「初めて」、「歌った」、「アイノカタチ」、「卒業生」、「絶叫」、「ザワザワから沈黙」、「大歓声へ」……なるほど、ほとんどバズりワードだけで構成されていることが分かる。これではもはや「バズり」のハイエナであり、パワーワードを主食としている先住民族である。なんならタイトルで起承転結の動画構成及び裏話までふくむ動画の内容をぜんぶ言っちゃってる。
ちなみに、ここで歌っている女子生徒はその後プロのミュージシャンになったらしく、該当の動画にはたくさんの人に見てもらえて驚いたという女生徒本人からのコメントがある。なんかそういう策略なんじゃないかと勘繰りたくなる。

しかるにわれわれは「音匠」氏をとがめることなどできない。認知度のない人間がYouTubeという大海原でだれの目にもとまるフラグをおおきく掲げるためには、こうするよりしかたないのだ。美しく生きていたのでは、バズりはおとずれない。せっかくクラッシュから感動的な回答をもらっても、タイトルの工夫がなければすべからくバズりはのがす。タートルトークを録画してバズれるかどうかは投稿者がどれだけプライドを捨てられるかにかかっている。そう、つまり、「音匠」氏は、私であり、あなたなのだ。

……だが、ほんとうにそうか?

この動画を見てほしい。再生数は600万回以上。動画内容は自転車でドブに落ちるというだけのもので、タイトルは内容そのままの「自転車でドブ落ちて死ぬ」。「死ぬ」がちょっと面白いが(じっさいは死んでない)、SEO対策としては不十分である。動画投稿者は保坂涼介で、Googleアカウント名のまま投稿しているらしい。

良いよね、この素人感。タイトルの簡素さもアングラ感があってしびれる。仲間内で笑うためだけに投稿したのだということがビンビン伝わってくる、古き良き時代のYouTubeって感じ。

そう。YouTubeではまれにこういうバズりマジックが起こるのである。ラプラスの悪魔がきまぐれを起こしたのか、あるいは何らかの陰謀によるものなのかは皆目分からないが、おおよそ多くの視聴者が動画をクリックすることなどないだろうと思われる動画が、規格外のとんでもない再生数をたたき出していることがままあるのだ。

以下、そういう動画を探してみた。


再生回数390万回以上。文化祭のオープニングムービーとして作成されたものであり、ストップモーション技術によって生徒が箒で飛んだりしている。やたらやさしい美術部の顧問が監修して作ってそうな感じである。
コメントには「高校時代に戻りたいな~」とか「なんか、青春って感じでうらやましくて泣ける。」というコメントがならんでいることから、青春のきらめきを瞬間冷凍したエモさでバズっていることがわかるが……、それにしてもこのタイトルよ! 「田川高校文化祭2013 オープニングムービー」と言われて、田川高校の生徒以外が見ることがあるだろうか。

投稿者名にいたっては「これ以外考えられない」という意味不明さで、とりわけ重要なのは投稿動画がこれ一本だということである。投稿者名の狙ってない感とタイトルの簡素さ、ノー編集撮って出しスタイル、そして投稿動画が一本のみというSEOなしバズりの理想形である。これでタイトルに【おもしろ高校生】とか【おもしろオープニング】とか【青春!!】とかがついてるとダメなんだな。見つけられちゃうから。

お次はこれ。再生回数608万回以上部活勧誘でちょけてる系動画は素人バズりのメインストリームであることを考慮に入れても「おもしろすぎたwwwwwww」とか「センスありすぎおもしろコント」とかのパワーワードがタイトルにないのは大きい。6年後とかに急におススメに出てくる謎動画として今後も皆の目にとまりつづけるであろう。

そして、体育祭での選手宣誓を3本つづけてどうぞ。ノー編集撮って出しスタイルだが、いずれも中堅youtuberたちの平均再生数よりも遥かに高い数字を記録している。

最後はこれ。再生回数183万回以上。ゲーム音楽風の楽曲であり、概要欄にもあるように海底を想起させる曲調である。ちょっと再生数が心許ないのと、チャンネル登録者が5万人以上いるということで、今回のコンセプトからちょっとズレている気がするが、

これである

で、これである
動画のタイトルさえない。何をどうしたらこのサムネを見て再生してみようと思うのか頭をかかえてしまう。アーティストここに極まるといったふぜいだ。

以上、みなさんには私が調べてきた謎バズり動画につきあっていただいた。意外とあんまなかったな、と思うし、よくよく考えれば上記の動画たちのバズりはちっとも謎ではない

これを見てほしい。

うえでご紹介した「呉高専体育祭 開会式」の関連動画一覧である。見てのとおり「放送部の対応がすごすぎて最高の思い出になったww」や「【おもしろ高校生】卒業生代表の言葉がひどすぎるwwww」といった、同ジャンルの鬼バズり動画がずらりとならんでいる。要は、SEO対策の申し子たちの動画たちがアルゴリズムと一緒にガッツリとスクラムを組んで、これらバズり無関心顔の動画たちを表舞台へと引き上げていただけなのである。おそらく自転車のやつもゲーム音楽もそんな感じだろう。

……困った

この企画を思いついたときは、「謎だったね」という感想を適当に述べて、私みずからなぜバズっているのか分からない動画風の動画を作成して、結局バズらず終わる、というオチを予定していたのだが、バズりのメカニズムが露呈してしまった以上、ここからその世界線につなげるのはどうしたって無理がある。そもそもそのオチぜんぜんおもんないし

どうしたものか……。

ってか、この画像のキャラの名前なんだっけ。そもそも名前あったっけ。それはまあ良いか。

あー。

いやー、まいったまいった。

どうしたもんかなあ……。けっこう書いたし、原稿料が出るわけでもないものをボツにするのはちょっと……。

うーん……。

そうだ!


とりあえずTwitterはじめました。バズるまでがんばります。





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