たまに有名人からメールがくる。
新垣結衣、土屋太鳳、吉沢亮、羽生結弦……そうそうたるメンツであるが、じつは私はかれらと知り合いではない。きまってかれらはだれかとまちがって私にメールを寄こすのである。あるときは映画監督とまちがって。あるときは福山雅治とまちがって。羽生結弦にいたってはどういうつもりだか私を中居正広だとおもってメールをおくってきた。どういう関係なんだよ。
で、かれらに共通しているのは、本文の最後にあやしげなURLを記載していることである。こわくてリンクを踏んだことはないのだが、もしかすると芸能人たちが交流するための特別なサイトがあるのかもしれない。

また、稀によくわからない団体からもメールがくる。さいきんになっておおいのは「Trust田原」である。かれはTrustの代表理事らしく、件名には「2000万円あります。必要なければ断っ」とある。本文は以下のようなものだ。

文章がぶつぎれでおわっているが、どうやらこの団体は私に2000万円を譲渡したいらしい。ちなみにこの文章のあとにはどこかで見たことのあるあやしげなURLが記載されている。

が、そんなことより気になることがある。

なぜか掃除のライフハックが書かれているのである。なるほど参考にはなるが、私としては2000万円のうけとり方についての詳細がもっとほしい。というか、なぜ掃除のライフハックを書く必要があるのだろうか。あるいは、これはなにかの暗号なのかもしれない。

そうおもって任意の文章をコピーしてみた。

で、ググってみる。何やらそれらしいページが出てきた。

どうやらこのページからコピペしてきたようである。
そうおもってもういちどメールに目をやる。

あれ？　ちょっとちがう。
サイトでは「最初にご紹介するのは、キッチンスポンジの効果的な使い方についてです。キッチンスポンジは切り込みを入れることで、洗いやすくすることができます。（改行）縦に2本切り込みを入れると、箸やスプーン、フォークなどが洗いやすくなります。」となっているところが、メールでは「キッチンスポンジは縦に2本切り込みを入れると、箸やスプーン、フォークなどが洗いやすくなります。」となっている。意味はおなじだが、メールの方が文章がみじかくなっている。

そのほかにも、サイトとメールの文章をつぶさに見くらべると、文章がけずられていたり、改行がふえていたりすることがわかった。けずられているのは、「最初にご紹介するのは」とか、「次にご紹介するのは」といった、主にサイトの“文脈”にかかる箇所であり、要はひとつの文章として読むに際してノイズとなる部分を削除しているわけだ。

つまり、Trust田原氏はこの「掃除のライフハック」をきちんと私に読んでもらいたいのだ。

そうおもってメールの文章を読むと、キッチンスポンジに切り込みを入れる、靴下やストッキングを雑巾につかう、水切りネットでシンクを磨く、ドライヤーをスチームクリーナー代わりにする、しぼったあとのレモンで電子レンジ内を掃除する、塩で茶渋を落とす、乳液でフローリングを拭く、アイロンでフローリングのへこみを補修する、柔軟剤を家電の埃予防に使う等、どれも金言である。

ということで今回は、しぼったあとのレモンをつかって十年以上掃除していない電子レンジ内を掃除してみることにする。

どうだろうか。十年もののしつこい油よごれがわずか十分たらずできれいにおちた。これにはさすがの私もおどろいた。そもそもレンジの中がこんなによごれていたことに引いた。これからは定期的に掃除していきたいとおもう。
ありがとうTrust。ありがとう田原。