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地上波だからこそ、コンプラ的にアウトの曲をかけている #2 HIPHOPとラジオ

ラッパー・R-指定と、ターンテーブリスト・DJ松永による人気ヒップホップユニット、Creepy Nuts。彼らがパーソナリティをつとめる『Creepy Nutsのオールナイトニッポン』が、多くのリスナーに惜しまれつつ、3月をもって終了することが発表されました。

HIPHOPとラジオ Creepy Nutsのオールナイトニッポン読本』は、同番組のすべてを詰め込んだオフィシャルブック。リスナーなら絶対見逃せない本書から、内容の一部を公開します。

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DJ松永、トラックを語る


――「Creepy Nutsのオールナイトニッポン」では、1曲目にかける曲は松永さんが決めているそうですね。

DJ松永(以下D) あそこは基本的には俺の選曲ですね。その時にふと思い出した曲や、最近ハマってる曲、オープニングトークの話題を回収するようなパターンもありますね。たまに便宜上かけなきゃいけない曲もありますが(笑)。

――言い方(笑)!

D ハハハ。あとオードリーの若林(正恭)さんがご結婚されたときには、WOLF PACKの「よろしく宣言」でお祝いしたり。でも基本的にはシンプルにその時かけたい曲を感覚的にかけてますね。

――感覚的な選曲すぎて、韻踏合組合「バッツだぜ!!! feat. SHIBA YANKEE」が流れたときは震え上がりました。民放だぞ、これ……と(笑)。

D サブスクにもないし、CDショップにも基本的においてない、ストリート流通の曲なんですが、SHIBA YANKEEさんと親しい、新潟の寺嶋さんって先輩から回してもらって(笑)。

――「先輩から回してもらったストリート流通の『バッツだぜ』」というパワーワード(笑)。

D 音楽の話で良かった(笑)。

――その意味でも、コンプライアンスからは逸脱した選曲も多いですね。

D (選曲リストを見ながら)確かに番組が始まって2ヶ月目ぐらいでもうT.O.P.さんやTHUG FAMILYをかけてますね。むしろ初期は、コンプラ的にアウトの曲をかけて、スタジオで僕とRが爆笑してるという感じでもあった(笑)。

――タチ悪いな~。世の中と夜中の治安を悪くする曲がかかりがちですね。

D SATORU「アナル舐めろmotherfucker」は、聴いた瞬間「こんなのANNでかけるしかない!」と思いましたよ。

――「しかない!」じゃあないんだよ。

D 「地上波の放送だからこそ!」って(笑)。

――放送免許剥奪させる気か(笑)。

D でも意外と放送NGがないんですよね。だから今までラジオでかかったことがない曲をかけようというチャレンジですよ。「史上初を目指そう!」と。

――史上初の方向性が歪んでいる!

D でも実際、世の中に伝わってないヒップホップ、リスナーの多くの人が聴いたことのないラップをかけようという気持ちはありましたね。番組の開始当初は、スタッフにも「ヒップホップ独特の感覚」はぜんぜん共有できていなかったし、リスナーもそうなんじゃないかと。だから曲をかけて作家の福田(卓也)さんに「こんな曲あるんだ、面白い」と言わせたら手応えあり、みたいな。やっぱりKOHH「タトゥー入れたい」とか、他のジャンルではありえない曲だと思うんですよね。しかも「Tatoo入れたいII」もあるし(笑)。

――リスナーやスタッフにも「カマす」というか。1時台に上がってからは、最近のリリースだったり、ニューカマーが多いですね。

D 確かに。番組開始当初にNITRO MICROPHONE UNDERGROUND「Still Shinin’」とか、MURO「ALL★STAR feat. LUNCH TIME SPEAX, KASHI DA HANDSOME」をかけてたのは、やっぱり自分のベーシックを知って欲しかったのかな。それを経て、最近はリアルタイムで聴いてる曲に移行したのかも知れない。CHOUJI、TORAUMA、ZENDAMANと沖縄勢が連続したのは、沖縄のアーティストの歌詞がすごすぎたんですよね。CHICO CARLITOくんやAwichさんはもちろんのこと。

――ZENDAMANはレゲエのアーティストですね。その意味でもレゲエの再生率が比較的高い。

D サウンド的に満遍なくかけたいんですよね。レゲエだとTERRY THE AKI-06、NANJAMAN、J-REXXX、笑連隊……。

――サンコンさんの息子、ヨンコンがいた笑連隊。

D そこ(笑)? レゲエはオーセンティックな方向が強いかも。ZENDAMANの歌の節回しには、すごく王道を感じるんですよね。若いし、見た目も今っぽくてカッコいいんだけど、古き良きダンスホール的なスタイルが大好き。Youth of RootsもボーカルのKON RYUが息子、サウンドのKON KENが父親で。

――親子二代でレゲエグループをやってるんですね。

D 歌う内容もルーツレゲエから流れる伝統的なテーマ性だったりするし、若いアーティストが原点回帰するのも面白くてよく聴いてます。一方で、KARAMUSHIはベテランのレゲエアーティストなんですけど、昔から超好きで、新潟に住んでる時に先輩から教えてもらいましたね。歌もそうだけど、歌詞がとにかく面白い。

――新潟といえば、USUやHilcrhyme、NITE FULL MAKERSなど、新潟出身のアーティストの選曲も松永さんならではですね。

D 新潟を代表するアーティストがHilcrhymeだとしたら、ヒップホップクラブシーンの顔役はUSUさん。その二人が所属してたNITE FULL MAKERSは、新潟のどのクラブでライブしても、客がパンパンになるぐらい人気があって。TOCさん(Hilcrhyme)がNITEを抜けて、Hilcrhymeでブレイクしたあとも、USUさんは新潟のアンダーグラウンドヒップホップを牽引する役割、フッドスターだったんだけど、「そういう存在であり続ける大変さ」は当然あったと思うんですね。それで異常な量のリリースを展開したあとに、ぷつっと引退してしまって。でも昨年復活を果たしてリリースした「GHOST feat. DJ TAGA」は、本当に響いたし、番組でも俺が珍しくかなりガッツリ曲の解説をしたんですね。USUさんの歴史やリアルさが詰まったこの曲を、新潟で育った僕がかけられたのは嬉しかった。それから年下で新潟出身のKick a Showもかけましたね。

――竹原ピストルの「狼煙」はバージョン違いでかけていますね。

D この曲は「トップの背中が見えてきたけど、それでもまだカマすぞ!」っていう、所信表明のような曲なんですね。それは僕らの現状とも重なるような部分が強かったし、その時の自分たちとリンクさせながら、等身大の気持ちを、竹原さんの曲で表現させてもらおうと思って、2020年と2022年の年始にかけました。竹原ピストルさんの曲はすごく染みるし、「マイメン」をかけた時もそうでしたけど、自分の気持ちを伝えたい時、代弁してほしい時にかける場合が多いですね。

――Rさんとの選曲の違いは感じますか?

D 「胸に響くような歌詞」「ナンセンスだけど詩がすごい」「言葉遊びが秀逸」みたいな、リリックを重視してる部分は似てると思いますね。でもRの方がより理屈っぽいというか、ライミングや構成にこだわった曲が多いような気がしますね。Rはコーナーで曲を言葉でも解説する必要があるから、そういう曲を選んでいるのかも知れないけど。やっぱり僕がかけた徳利の「チャリ」とか、分析するような曲ではないと思うんですよ。

――ナンセンスの極みのような曲ですからね。

D でも展開の作り方が最高なんですよね。ストーリーテリングかと思ったら、めっちゃ手前でオチがついて、さっさと終わるという。

――ラップ表現の情報量を考えさせられる一曲(笑)。

D 「ここが着地点!? うそでしょ!?」と思ったもんな~(笑)。あとMETEORさんの「バカばっか」みたいな、暴論でめちゃくちゃなんだけど、なんか真理を感じてしまう曲とか。METEORさんの曲はほのぼの暴論ですけど、ハードコア勢のバイオレンス暴論も最高ですよね。そういう先輩に振り回されてるんだろうなっていうB RAND「クソ怖い先輩(feat. Kenny The Dead Tooth)」を聴くと、より話が立体化するなって(笑)。

――サウンドの幅としても、ヒップホップの伝統的な手法であるサンプリングで構築された楽曲から、今の時代に即した打ち込みで作られたものまで、幅広くチョイスされていますね。その流れで伺うと、松永さんのサウンド制作も、サンプリングから打ち込みに方向性が変わりましたね。

D 根本的な話としては、メジャーに進出して、サンプリングのクリアランスのルールが明確になったのが一つ。それからサンプリングという手法が、今の自分のサウンドクリエイトにはちょっと合わないようになって。フレーズサンプリング、チョップ&フリップ、逆再生、ピッチの上げ下げ、エフェクト……それぐらいがサンプリングでトラックを作る手法の基本になる。その絞られた手法の中で構築する楽しさもあるんだけど、今の自分にとっては、ビートも音色もゼロから作った方がより自分のイメージするサウンドに近づけるし、新鮮。だから今は全部「弾き」ですね。そういった曲に刺激を受けることも多いし。

――状況の変化、音楽シーンの変化、自分のクリエイティビティの変化がリンクしたというか。

D あと、もともとメロディメイクもしてたんですよ。サンプリングに聴こえる「朝焼け」のギターリフも、実は自分が考えたリフをギタリストに弾き直してもらったものだったり。だからその変化に違和感はなくて。それにヒップホップシーンの中だけで活動してるなら別だけど、国内チャートの中でも戦うとなると、コード進行だったり、Aメロ/Bメロ/サビみたいな構成も意識して設計しないといけない。特にアルバム「アンサンブル・プレイ」は、そういったドメスティックな作曲方法を自分なりに一旦吸収して、超意識的に再解釈して、その上でヒップホップをやろうという意識で作ったトラックが中心になって。あと、Rはメロディも作るから、それを邪魔しないトラック作りとか、逆に僕がメロディや構成を指示する曲もあるし、そのバラエティのためにも、打ち込みでゼロイチから作る必要があったんですよね。でもサンプリングの技法は今の制作にも活きてるんですよ。「フロント9番」はドラムを生で叩いてもらってるんですけど、一通り叩いてもらったドラムに、更に多重録音でドラムを重ねたり。

――DTM以降により広まった考え方ですね。

D そういう方向性も試したり。そうやって一人なのに何十人のトラックメイカーが参加してると思わせるような、全てのバリエーションのトラックを作りたいと思ってますね。


※この続きは本書をご覧ください!

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HIPHOPとラジオ Creepy Nutsのオールナイトニッポン読本 Creepy Nuts

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