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エルソナシンドローム制作記(後編)

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【11.初掲載&初連載スタート】

公式サイトを立ち上げた2か月後の2015年10月、いよいよWeb雑誌『マンガ on ウェブ 3号』でエルソナシンドロームの連載が始まりました。僕にとっては雑誌初掲載&初連載です。僕は紙媒体への強いこだわりは特になかったので、電子書籍で「自分の作品が初めて世に出た」ことがうれしくてうれしくて、天にも上る気持ちでした。苦節ウン十年、やっと連載が持てた、漫画でお金を頂ける、これでそろそろ「漫画家」と名乗ってもいいんじゃない?なんて、そんな気持ちにもなっていました。

しかし、プロと名乗る以上ちゃんとそれに見合った仕事もしていかねばなりません。特に初連載ですから、不安は常に感じていました。季刊誌でゆっくりしたペースの雑誌ではあるものの、途中で話作りに詰まっちゃたらどうしよう。連載には連載用のスキルみたいなものがいるんじゃないか?物語の前後で矛盾が起きないようにとか、伏線回収とか、読者に毎回飽きずに読んでもらうための工夫とか・・・・etc.

不安は主に話作りに関することが多かった気がします。この時もまだ話作りには多少苦手意識というか苦しんだ記憶があったせいでしょう。

でも考えたところで結局、トライ&エラーでやりながら学び修正していくしかありません。「他の多くの連載作家さんだって、はじめはきっと皆不安だったに違いない」そう思って自分も歩を進めていきました。

Web雑誌最新刊『マンガ on ウェブ 21号』

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この制作記を書いている現在(第21話制作中)、正直「この回はあまりうまくいかなかったな・・・」という回もありました(ナイショです)。しかし概ねイメージ通りの作品に仕上がっていると思います。もちろん、連載開始前に物語全体の展開と着地点をなんとなーく考えておいたことも大きいですが、その場で気付いた問題にその都度対応して切り抜けてきた面も多々あります。以下に連載をやってみて学んだことを、備忘録としていくつか列挙しておきたいと思います。

◆回想シーンは短めに。
ページ数の限られた読み切りでは回想シーンなんて大概短かいから考えたことがなかったのですが、連載で改めて考えさせられました。メインの物語(現在進行中の物語)に感情移入している読者にとって、回想シーンは改めて状況理解と感情移入をしなおさないとなりません。回想シーンが長すぎると、その間メインの物語への感情移入が途切れてしまいます。感情移入は物語を読み進める推進力なので、回想シーンを入れる場所や長さ、切り替えは上手にやらないと、気持ちが途切れる原因になりかねない気がします。

◆ページ数は極力1話40ページ以内に。
自分で読んでみて、連載物で1話が40ページ以上だと、一回で読むのがちょっとツライ気がします。読み切りならまだいいんだろうけど。

◆ナレーションの多用は慎重に。
ナレーションは大概物語を俯瞰した説明であって、物語内の感情から離れていることが多いです。そのためか、多用すると読者が物語から冷めてしまう気がします。そもそもがナレーションで進行する作品などは別として、補助的に入れるナレーションは使いすぎに注意が必要かも。

◆複雑で作るのが難しい展開の時は、3話分くらい先まで(一区切りつく所まで)まとめて考えてみる。
全体を俯瞰して大きな流れ確認し、前後で矛盾が起きないように細かな点を微調整したりしてから、適度な箇所で1話ずつに分割すると比較的作りやすい(コツとして)。

【12.広告作戦】

さて、連載スタートと同時に、僕は作品の広告方法についても考えました。先述した通り、近年はSNS等で作家自身が宣伝するのも珍しくありません。SNSを主に活動している漫画家さんも沢山いらっしゃいます。作品を作るだけでなく、広告もまた作品を読者に届ける一環として作者が行うことが増えています。

『エルソナシンドローム』の場合、完全な自主企画作品であり、大手出版社から受注して描く出版社商品ではないので、なおさら自分で売り込まねばなりません。元々僕の中では、漫画家は町の自営業(例えばラーメン屋さんとか)となんら変わりません。連載開始はラーメン屋さんが商店街(雑誌)の中に店を開いたようなものです。自分で広告費をかけて店や商品を宣伝するのは当然のことです。

そこで、既に立ち上げた作品公式サイトを広告作戦の第1弾として、第2弾は紙のチラシを作って1件1件ポスト投函することにしました。まさに町のラーメン屋スタイルです。でも何でチラシ?かというと、お金があまりかからず、情報がお客さんの手元に残り、他の同業者がほぼやっておらず(目立つ)、ある程度配布先ターゲットをしぼれそうな方法を考えたら、チラシだったわけです。

僕はネット印刷屋さんでチラシを作り、下北沢を皮切りに漫画を読む人が多そうな街に配りました。自分の漫画に興味がありそうな人を想像して、主に一人暮らしのアパートを中心に配りました。2015年秋に1万枚、2016年夏に5000枚以上、計15000~2万枚程度配ったと思います。他人の仕事でなく、自分が描いた漫画のために「お願いします」という気持ちで1件1件投函するのは、精神的には全く苦にはなりませんでした。むしろ普段家にこもって描いているので、宣伝と運動不足解消とストレス解消の一石三鳥くらいの感じでした。ただ真夏の炎天下はやめた方がいいかも・・・笑

2015年に配った第1弾チラシ(表面/裏面)

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今、当時のチラシ作戦を振り返って、チラシの効果はあったか?と考えてみると、正直よくわかりません。効果は見えにくかったです。

ですが、佐藤漫画製作所さん、漫画空間高円寺店さん、立川まんがぱーくさんがチラシの束を置いて下さったり、WebサイトのNewsACTさんがたまたま投函されたチラシに興味を持って記事にして下さいました。きっと15000枚の中に何十人かは、チラシで作品を知って下さった方、興味を持って作品を読んでくださった方がいると思います。

ですがまぁ、そこそこの枚数配って満足したこともあって、その後はチラシからツイッターで個人広告を出す宣伝方法に切り替えていきました。ツイッター広告は、個人で少額から即日出すことができます。しかも何人が広告を見て、リンクをクリックしたか等の反応が、リアルタイムで分かります。今でも電子単行本が出る度、ツイッター広告は出しています。何度かやってみての感想ですが、広告効果は期待ほど高くはないかも?笑。でも宣伝は大事なので今後も続けてみようと思っています。

その他、広告活動として、第1話・第2話をnote他のサイトで無料公開したり、英語版を作って無料公開や各国のAmazonで販売したりしています。英訳はそれなりにお金がかかりましたが、それ以外はなるべくお金のかからない方法を選ぶようにしています。とにかくどこかで知ってもらえればチャンスにつながると考えています。

【13.電子単行本について】

現在、本作品の電子単行本は、第1巻(2016年5月)、第2巻(2017年9月)、第3巻(2019年2月)と、着実ではありますが非常にゆっくりとしたペースで発売されています。そしてまもなく(2020年7月)第4巻が発売される予定です。
1冊は大体200ページ前後、4冊で800ページ近くでしょうか。我ながら初連載で結構描いたなぁと思います。まだ描きますけど。

発売当初は、すぐに人気が出てドーンと売れるかも!なんて甘い夢も無きにしもあらず(笑)でしたが、まぁ現実はそう簡単ではありません。そもそも作品の存在を知ってもらえなければ買われるわけがないし、読んでもらえても面白いと感じるかどうかは人によって違います。作品にも読者にも個性があり、作者のイメージ通りに描けたとしても個性がマッチしなければ良い反応は得られないと思っています。

僕が電子単行本の取次をお願いしている佐藤漫画製作所の「電書バト」という取次サービスでは、50前後の有名電書店・アプリに作品を取り次いでくれます。配信してもらっていくつか気が付いたことがあるので、以下にメモしておきたいと思います。

1.セールやキャンペーンは重要
電子書籍には絶版がありません。そのため、過去の完結作も含めて膨大な量のタイトルが作品一覧に並びます。その中で読者に見つけてもらい読んでもらうには、何らかの目につくキッカケが必要です。
各書店では一部の商品を対象に常時なんらかのセールやキャンペーンが行われています。セールは大概「1巻無料」「50%OFF」とか値段を下げるものです。再販制度で販売価格を固定された紙媒体ではできなかった手法です。電子書籍ではそれが可能なので、このセールで試し読みしてもらうことが多いようです。
しかしセールでは安く売るわけですから、当然収益を上げるのは難しように思えます。「漫画はタダで読めるもの」という間違った認識を読者に与えてしまうという指摘もあります。しかし、どうやらセールの目的はセール自体ではないように思います。
というのも(ここからは私の予想ですが)各書店には「この商品を読んだ人は他にこんな商品も読んでいます」みたいな推奨作品一覧がありますよね。セールで一度作品を読んでもらうと、そこに掲載されやすくなるのではないかと思うのです。何しろ作品数が膨大ですから、次に読む作品を決めるのに多くの読者はそうした推奨欄を参考にしているのではないでしょうか。そのせいか、セール期間が終了して正規価格に戻っても、しばらくはランキングが高いまま持続する、そこで利益が出る、ということがしばしばあります。セールに乗っかって推奨欄に載る、というのが書店で目立つ一つの方法なのではないかと思います。

2.書店によって売れる作品、客層が異なる
電書バトで沢山の電書店・アプリに作品を配信してもらって分かったことですが、書店毎に客層が結構異なるようです。
例えば利用者の男女比がまず違うようです。エルソナシンドロームは恐らく男性がやや多目の電書店で比較的売れる?ような気がします。ただし、SF好きの女子も結構いるようで、読後レビューを書いてくれるのは、女性読者の方が多いような気がします。
各書店の売れ筋ランキングを見ても、上位作品には結構違いがあります。自分の作品がどの性別・年代に好まれるのか、どの書店で売れるのかは、沢山の書店・アプリで配信してもらって初めてわかることでしょう。個人で沢山の書店に配信するのは難しいので、これは電書バトのような取次サービスを利用する大きなメリットだと思います。

【14.制作記の最後に】

以上、いろいろ書いてまいりましたが、だいぶ長くなってしまったので、今回の制作記はそろそろ一旦締めたいと思います。あまり詳しく書けなかった部分もありますが、作品制作はまだ続きますし、また別の機会がありましたらお伝えしたいと思います。

この制作記に書いた内容は、作品制作の記録であるとともに、あくまで僕個人の一意見です。他にもいろいろな考え方があるでしょう。あくまでご参考程度にお考え下さい。僕自身の考えも今後の新情報や経験次第で変化していくかもしれません。

出版不況だ、紙から電子だ、コロナ後の新しい生活様式だのと、何だか混沌としたご時世で、漫画を描いてる皆さんも作品制作や売り方に悩むことも多いと思います。ですが僕の方針は大体決まっていて、作品のクオリティを落とさないこと、読む人が知りやすい買いやすい環境でなるべく広告販売すること、最初から最後までを一つの商品としてキッチリお客さんに届けること、などです。

出来た作品の評価は読んでくれた皆さんが決めて下さること。気に入って読んで下されば上々、ダメでもそれも運命。自主企画作品で、好きなこと描いてるわけですから、それでいいんではないかと。

何はともあれ、
「これからも『エルソナシンドローム』をよろしくお願い致します<(_ _)>」

4巻表紙

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『エルソナシンドローム制作記』<おわり>

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