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eメールを知らない若者たち

現役女子大学生と、20代半ばの社会人男性と食事をする機会があり、ふとこんな質問をした。

「eメール」の「e」って何の略かわかる?

私は昔から、流行語や言語の変遷といったことに多少なりとも興味があり、定期的に上下関係なく自分と離れた世代の人たちへ、言語に関しての質問をしてきた。今回もそのパターンだ。

2人とも鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。それもそのはずだ。“メール”は”メール”だ。質問の意図がわからないのだ。少しヒントを出した。

「メールは英語。日本語で“手紙”の意味ですよね。紙に書いて、封筒に入れて出すやつ。それがメール。」

私の言ったことは分かっている。しかも「eメール」という言葉も知っている。しかし「e」が何かを知らないのだ。2人は一生懸命に思いつく限りの「e」を回答したが、結局答えはでなかった。

*   *   *

「eメール」は日本語で「電子メール」。eは「electronic」の略だ。今ほどインターネットが当たり前じゃなかった時代から生きている人たちなら、即答してもおかしくないが、Z世代には生まれたときから存在していた当たり前すぎる言葉なので、逆にわからないのだ。

20台半ばの彼から「じゃあCCってどういう意味なんですか?」と逆質問があった。そこはオッサンとして「Carbon Copyの略だよ」とドヤ顔しておいたが、回答した瞬間にまたも2人の顔が固まった。

「カーボン紙ってわかる?」と質問すると、当然のように知らなかった。カーボン紙は、紙と紙の間に挟んで使うことで、上から文字を書いた時に下の紙に書いた文字が転写されるもの。今でも宅配便の伝票や、手書きの領収書で使われている。

なぜ電子メールで「カーボンコピー」といった言葉が使われるようになったのか。かつて、公的な文章を印刷するのに使われた機械のひとつがタイプライター。紙のメールを作成する際にも頻繁に使われたが、このタイプライターで、同じ文章を複製するために、紙と紙の間にカーボン紙を入れて使っていたからだそう。

日本語は平仮名だけで50音、漢字もあり、タイプライターに向かない言語だ。そのため、日本人にはあまり馴染みがないかもしれないが、26文字で表現できる英語圏ではタイプライターは馴染み深い機械だったのだろう。

ちなみに「ワープロ」という言葉についても2人に聞いたが、聞いたことはあるし、それがなんとなく「Word」的ななにかだとはわかっていたが、まったくもってどういった存在かは知らなかった。ワープロは、ワードプロセッサーの略で、文章を作成するためだけのパソコンといった感じの機械。記憶媒体の「フロッピー」も当然のように知らなかった。

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おそらく40代以上の人にとってみれば「eメール」は新しい言葉だが、わずか20年くらいの年齢差でも、こんなにも当たり前が当たり前じゃなくなっている。ついつい新語・流行語やギャル語といった、ちょっと変わった若者言葉ばかりに目が行きがちだが、実は当たり前に使っている平易な言葉だと思っているものでも、こうした世代間のギャップが生まれているのだ。

私は言語を使うことを仕事にしている。そのため、自分が当たり前だと思っている言葉が、自分以外にとっても当たり前であるかどうかを考えることがよくある。何も、書き手が読み手のことばかり考えて、言語のレベルを合わせていく必要もないが、例えば10代の子を相手に書く文章なら、当然のようにこの差は知る必要があるだろう。

自分が書き、話す言葉を、”若者”が分からなくなってきたら、もう初老だ。初老とは40代に差し掛かり、人生の折り返し地点を回ったあたり。素晴らしいではないか。私ももう初老である。



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