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ハッピーマニアは文学の夢を見るか〜全恋狂騒曲


突然のメッセージ


突然に、Facebook Messengerの通知が鳴った。
僕が少額投資している、出版会社の関西人社長からの連絡だ。

突然に、と書いたものの、連絡というのはそもそも突然にくるものだ。仮に「1時間後に連絡するね」という事前連絡があるとしたら、その事前連絡も突然にくることに間違いない。

連絡は突然に

「永田はん、今度出す本『全部を賭けない恋がはじまれば』のPVにオリジナル曲つけてくれへんか?」
「おお、喜んで!ギャラはー」
お金ないんでそこは無料で頼みますわ、出版まじ儲からへん
「…いらないですが本はー」
「もちろん買うて下さい、ええ発売日に本屋で。発売前重版だけど全然儲からへんねん、もうほんま一冊でも二十冊でも好きなだけこうてください」
「…買いますので読んー」
「読んだら書評も書いてもろてな、初速の口コミほんま大事なので10月31日締め切りで
「...買ったその日に読んでその日に急ぎで書評も書いてー」
「もあげられるもん、なんもないけど儲からへんから、そこは株主優待だと思って是非ね!」
「…ああなるほど株主優待ね。って株主を優待するんじゃなくて、株主が優待するのかよ!」
「…」
「いやノーコメントかい!腹立つわ!もう株主やめさせてもらうわ!
 ひろのぶと株式会社ってのはー」
「この小説を世に出すために、出版社をひとつ、作りました。田中泰延」
いや全部を賭けすぎやろ…もーしゃあないわ、ワイも株主の端くれやし、潰れたら悲しいのでやりまひょ」

関西人の血が1ミリリットルも入ってないのに、いつしか彼のペースに巻き込まれる。きっと、みんなそうなんだ。

情熱大陸ではなく、情陸大熱(縦書)もしくは大情熱陸(横書)

そこから先は目まぐるしく、ドラマチックな展開となる。

(あ、自己紹介が遅れました。わたくし、ピアニストの永田ジョージです。
僕の主な仕事はピアノ演奏、子育て、レコーディング、そしてたまに作曲です。)

ジャズとハッピーマニアと藤原紀香

遡ること26年前、大学のジャズサークルの部室で、仲間内で話題になっていた安野モヨコさんの漫画「ハッピーマニア」に興味を持った。

北関東の田舎に通う大学生だった僕とは1ミクロンも重ならないストーリーとキャラクター。悲喜こもごも、もとい、ほぼ悲劇なドタバタ展開に「そんな奴おるかい!」と突っ込みつつも、気づいたらその世界観に引き込まれてピアノの練習そっちのけで部室で読みふけった。

大ヒット作となったハッピーマニアは稲森いずみと藤原紀香出演でドラマ化され、エヴァンゲリオンは社会現象となり、安野モヨコと庵野秀明が結婚し、藤原紀香は陣内智則と結婚し、世界で綾波レイのコスプレが流行り、震災が日本を襲い、藤原紀香が片岡愛之助と再婚し、ハッピーマニアはシリーズ累計330万部も売れ、そして世界でコ口ナが流行った。

展開、急すぎる。

第18使徒 新型コロナウィルス

病禍が世の中を覆ったここ数年、とあるアカウントが国内のツイッターを賑わす。ツイッター名は「コスモ・オナン」。名前からしてちょっとフォローしづらいが、ハッピーマニアに輪をかけたような、キツめのエロも含まれる呟きの内容は若干イイねも押しづらい。

コスモオナンとピンクネオン

すごく面白いのに、イイねが押しづらい。
なぜか。

ツイッターの中級ユーザーなら当然知っていることだが、誰かが押した「イイね」は全世界にダダ漏れだし、その人となりを知りたければその人の「イイね」欄を見れば大体のことはわかる。

ク○リプを飛ばしている人は、大概ク○みたいな呟きや怪しさ200%な画像にイイねを押してるし、インテリな人は学術論文や政治経済ネタにイイねを押している。

そこにきて、これだ。
もうアイコンからしてヤバみに満ちている。

情報過多

それゆえに、コスモ氏の投稿にイイねを押すのは一定の勇気が必要だったし、日本中が寝静まった深夜にこっそりと(誰も見てませんように…)と人目を憚りながらイイねを押していた。

ある意味独特なポジションを築いたコスモ氏は、昨年からNoteで「日曜興奮更新」という、タイトルからピンクネオンみを感じさせつつ、ハッピーの呪いに取り憑かれたような連載を始めた。

そこから先は目まぐるしく、ドラマチックな展開となる。

文学青年、青年失業家から万バズ起業家になる

ほぼ時を同じくして、夜間大学生から電通マンから万バズツイ廃青年失業家から大ヒット作家という、異色すぎる経歴の田中泰延(ひろのぶ)氏という一風変わった関西人が、ツイッターの中だけでなく外の世間を騒がせ始める。

大ヒットを飛ばして本が何万部も売れても電通時代の年収くらいしか印税が入らないことに業を煮やし、初版から印税2割〜累進で最高5割という、業界の慣例をぶっこわす出版社「ひろのぶと株式会社」を立ち上げ、個人投資家から募集開始27分で4000万円、総額1億円超えの出資金を得て、順風満帆な船出を切ったのだ。

そこから先は目まぐるしく、ドラスティックな変革となる。

辞めITピアニスト、ひろのぶと株主になる

同じ世界線上で、部室でハッピーマニアを読了した僕はプロのピアニストになることを一時保留にし、安定したIT企業に就職し、藤原紀香と離婚することもなく、入社12年後に退社をし、IBMのキーボードをヤマハの鍵盤に持ち替え、「好きなことで、生きていく」とYoutuberさながら、夢に全部を賭けるピアニストとして独立した。無謀か。

地道に演奏活動を続けた結果、少しずつツアーに出かけることも増え、大阪でもちょくちょくライブをするようになった。友人のシンガーが電通時代の田中泰延氏の後輩だったご縁で、泰延氏も何度か僕のライブに来てくれていた。お返しの気持ちも少しはあったけど、純粋にひろのぶと株式会社の理念に共感し、僕もちょっとだけ出資をした。

初の株主総会に参加し、出版第一号のタイトル「全部を賭けない恋がはじまれば」が発表され、盛大な拍手、そして初のQ&Aタイムにシャイな日本人、誰も手を挙げなくて気まずさが流れ(0.1秒)、その空気を読み(0.05秒)、手を上げ(0.08秒)、「今後のプロモーションはなにか考えていますか?」「もしPVなどを作る計画があるなら、音楽面で僕もお手伝いします」などと言ってしまったが最後ーーー。

突然鳴らない通知なんてない

突然に、Facebook Messengerの通知が鳴った。
僕が少額投資している、ひろのぶと会社の田中社長からの連絡だ。

突然に、と書いたものの、連絡というのはそもそも突然にくるものだ。仮に「1時間後に連絡するね」という事前連絡があるとしたら、その事前連絡も突然にくることは間違いない。ラブストーリーと連絡は突然にくるものだ。

そして、日がなTwitterでミニカーを落札してるばかりかと思えば、ちゃんと社長らしい仕事もするのだ。

「永田くん、今度出す本『全部を賭けない恋がはじまれば』のPVにオリジナル曲つけてくれへんか?(中略)この小説を世に出すために、出版社をひとつ、作りました。田中泰延
いや全部賭けすぎ

そこから先は耳心地よく、アコースティックな展開となる。

Jazzyな文体と、文学を感じるJazz

本が発売されるひと月ほど前、「日曜興奮更新」を久々に読み、コスモオナン改め稲田万里氏のJazzyな文体をモチーフにした即興演奏を撮っていた。

それを大元の方向性として、5秒、10秒、20秒のジングルとBGMとの中間的なものを20パターンほど田中ひろのぶさんに送りつける。

一瞬で返事が来る。

「ホンマありがとうございます!確認します!」

その後しばらく反応がなかったが、ツイッターでは日夜せっせとミニカーを落札している様子は伺えたので「生きてるな…はてさてどれかは採用されるかな」と思ってたら「いやあ最高です!こちらで!」と動画にナレーションとBGMがついた完成PVが送られてきて、本のリリース直前に各種SNS媒体に怒涛のごとく公開された。

Wind Beneath Her Wings

ネットの外ではほぼ無名な作家の処女作を、たった数人の社員と仲間達で回しているベンチャー出版社が手掛けた。しかも、発売前に重版がかかり、各種SNSを賑わせ、発売後も一種の「祭り」と言えるくらいの話題になった。

華やかでセクシーな表紙を生かした 「#全恋ポーズ」なる写真をSNSに投稿する読者たちも続出した。せっかくなので僕もポーズしようと思ったが、46歳のおじさんがやっても可愛くも面白くないので、息子にバトンを託す。

目元に照れを感じる

SNSやNoteに「早速読んだ!」「面白かった!」「いつまでたっても吹き溢れない湯を沸かしているようなエネルギー」「自分の中の愛とか恋とかを引っ張り出して採点したくなるようなそういう本だ」などと感想を投稿する人達が続出した。

オンライン上でひろのぶと (Hironobu & Co.) 、みんなと、稲田万里氏がゆるく交流してきたおかげでもあるし、純粋に応援したくなるエネルギーに満ちた本だからでもある。

いずれにしても、作家として飛び立ったばかりの稲田万里氏の翼の下には上昇気流が発生している。そして、貯めてきた怒りが書くことの原動力だと言っている彼女にとって、逆風も吹くほどに揚力か増すのだ。

なぜ私が書いてるのか、そこには私の中の怒りがあるからです。

https://note.com/hironobuto/n/ndc388adf7bec

余談だが、全恋は稲田氏の日曜興奮更新Noteを元に加筆・修正・再構成されていて、それを全面的に手掛けた方は廣瀬翼さん。初フライトの編集者名が翼とは、ベット・ミドラーも歌い出すドラマチックな展開ではないか。エンディング曲はThe Roseで頼むよ。

と、ここまで本の内容についてはほとんど触れずに長々と綴ってきたが、内容の感想については46歳のおじさんが語っても少しもセクシーでないので、他の方々の投稿を見てほしい。

あなたは説明して下さい

稲田氏の怒り、この一作だけではまだまだ放出し足りないようので、次回作以降もパンパン、じゃなかったバンバン書いてくれることを期待している。今後増えていくファンのためにも、常時スマホの中に、作品のドラフトを10冊分くらいストックしてほしい。

Slow Shutter and Sudden Messages

こうして稲田氏の作品が華々しく世に出たわけだが、ほとぼりが少し冷めるであろう12月には、ひろのぶと株式会社が送り出す新人作品の第二弾が発売される。

田所敦嗣さんの「スローシャッター」は、「全恋」と同じく、数年に渡って書き溜められた彼のNoteが元となって構成されている。僕自身、もともと彼の木訥とした人柄、そして素朴な文章の大ファンだったので、出来上がりもとっても楽しみだ。

それはさておき、僕の仕事は本の批評でもなく、原稿用紙12枚分のNoteを書くことでもなく、ピアノを弾くことなのだ。

なので、今回も期待している。「ラブ・ストーリーは突然に」のギターイントロばりに、またもや突然にFacebook Messengerの通知が鳴ることを。

「永田くん、今度出す本『スローシャッター』にオリジナルー」
「曲はもうおぼろげに作曲してあー」
「るならそれをPVにー」
「勿論提供させてください。そしてー」
「ギャラは今回はー」
「要らないのでまたライブ来てくださいー」
「美人すぎるマリアナさんー」
「ともまた来年1月24日に渋谷セルリアンタワーJZ Bratでやろうと計画してます。まだ詳細決まってないけど、予約は https://www.jzbrat.com/ でー」
「株主優待ー」
「株主優待。」

ついマリアナさんの素晴らしさをCMをしてしまったが、それは置いておいて二作目にしてまたもや無名の新人に全部を賭けるひろのぶと株式会社、田所氏の本がどんなもんだろうと気になる方は、彼のNoteを見てファンになってほしい。

ファンなってほしいというか、ファンになると思うんだ。
文章にはジャンルはないし、優しさにも国境はないから。

田中氏&ひろのぶとチームに心地よい刺激を貰って、
僕もピアノを弾く人生に全部を賭けていきます。

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