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ジオパーク・オンライン&ガイド勉強会 #008 箱根GPの報告

この報告レポートは無料で読めます。
オンラインツアーの動画は最下部にあります(有料)。日本ジオツーリズム協会メンバーの方は無料で見られます(※2022年4月以前にご入会の方のみ)。

第8回「箱根GP&富士山編」オンラインツアーについての報告をします。ガイド : 津田和英氏(ホールアース自然学校)

<期待値を高める導入部分>
ツアータイトルは「皆が知っている絶景の秘密、ジオから解き明かすと?」でした。
案内人は、その笑顔で誰をも楽しい気分にさせてしまう“ジミー”こと津田和英さん。
またの名を「小道具の魔術師」と呼ばれています。オフラインでもオンラインでも、ツアーに参加されたことがある方ならば、きっと納得のこの異名。本当に色々な小道具と技で楽しませてくれます。

「僕は日本人とアイルランド人のダブルです!」
普通なら「ハーフ」と表現するところをあえて「ダブル」と表現。「若い頃よりも体重も倍になりました!」と早速笑いをとって自己紹介は始まりました。
「ん? なになに? この人面白い〜!」 初めからしっかりと視聴者の心を掴みました。さらに続く面白自己紹介。バルト(関取)始め似ている人シリーズでは、すべてで笑いを取ります。どうやったらお客様に笑っていただき、笑顔が見られるか? そんなことばかり考えているというジミーさん。
自己紹介の後に立ち上がったジミーさんは、大きな体で富士山体操を始めました。
さすが、ホールアース自然学校の方です。アイスブレイクはもうばっちり!
参加者の皆様の、オンラインツアーへの期待が最高潮に高まったタイミングで本編は始まったのでした。

<起>
初めに登場した画像は、「皆様に絶対に見てほしい絶景」と、ジミーさんが強く推すものでした。
それは、箱根芦ノ湖の奥には雪に覆われた富士山が聳え、湖の中には朱色の鳥居が立つという、日本人ならばリアルであるいはカレンダーなどで一度は目にしたことのある絵でした。
「最後にこの画像をもう一度お見せします。その時、最初に見た時と印象が変わることを期待しながらツアーを進めていきます。印象の変化を楽しんでください。」とジミーさん。

この台詞、ガイドなら誰もが目指すところです。見える景色の背景をいかにして伝え、お客さまにとって対象の見方に変化があり、対象への思いさえも変わるということを期待しているからです。

さてここで対象者理解タイムが入りました。
問いは「富士山に登ったことはありますか?」
結果は、途中までの方も合わせて約5割の方が富士山登山経験者でしたが、なんと面白いことに静岡県の人は「富士山は拝むもの」だと思っているのだそうです。

間に箱根GPの位置説明があり、2つ目のアンケートが用意されていました。
問いは「箱根の温泉を訪れたことはありますか?」
結果は、5%のヘビートラベラーを含み73%の参加者が「訪れたことあり」でした。
これら二つのアンケートにより、参加者の傾向と、箱根GPや富士山はやはり人気の目的地なのだということがわかりました。

<承>
ツアー行程は次のとおりでした。

① 最初の目的地は大観山(たいかんざん)
ここでは周辺の山をカタチのちがいの何故?を交えながらお話をしてくれました。
もちろん、ここでも話に引き付ける小道具が登場! 
比較的サラサラマグマの山は、中濃ソースで山の生成を解説。
ドロドロマグマの山は、マヨネーズで山の生成を解説。
とてもわかりやすく、自分の身近な山はどちらのタイプかな?と考えてみたくなる時間でした。

次に形からわかる山の古さの違い。
これは、長年の雨とプレートの動きにより削れたり縮んだりしたというお話をしてくれました。

これらの説明から、これらの山々がどんな風にできたのか?どんな風に形を変えていったのか?がよくわかりました。

② 次の目的地は芦ノ湖湖畔
最初に見た画像にあった朱色の鳥居は、実は1952年のサンフランシスコ条約締結の際の、平和の証だそうです。ここでは、芦ノ湖に棲むと言われる龍神様のお話から地形の成り立ちを知りました。
九頭竜神社の「九頭竜」という名は、全国で聞かれるものですが、「九頭」の由来となっているのは「崩」とも言われているそうです。つまり、カルデラの壁が崩れたことを意味するのではないかということ。それが証拠に、なんと芦ノ湖の湖底には壁から崩れ落ちたと思われる杉の木が立っているそうです。そして、山の斜面にあるといわれる龍の引っ掻き傷は、地震によって木がずり落ちた痕だということ。
さあ、ここでもお得意の小道具使いです。レゴブロックが登場しました。とにかく楽しく知ることができるツアーに、皆様が身を乗り出して視聴している様子を感じました。
九頭竜神社の名前の由来から、地形の成り立ちもわかりガッテンでした。

③ 三番目の目的地は山伏峠
ここで小休止的に「中川一政 美術館」のご案内がありました。
力強いタッチ、独特の色使いで全国の火山を表現している画家だそうです。特に箱根GP内にある駒ヶ岳を愛していたとも言われているそう。ジミーさんのお気に入りの画家さんとのことでした。
美術の世界でもやはり火山がお好きのようです。

④ 四番目の目的地は姥子(船見岩)
ここでお話をしてくれたのは大きな山崩れによって出来上がった「流れ山」のこと。
ここのお話のテーマは「なぜこんなところに大きい石が!〜岩と石って何がちがうの?〜」でした。
この場所ではクイズが2問。
第1問目は、箱根大涌谷の上の方に聳える冠ヶ岳クイズ。
「この山にはキャラクターが隠れています。それはなんでしょう?」
答えは、1.金太郎 2.プーさん 3.ムーミン 3つから選びます。 答えはムーミンでしたが、答えよりも金太郎が雷様と山姥の子だという方に「へ〜!へ〜!」でした。
第2問目は、流れ山クイズ。
「山の斜面に並んだ岩のうち、どれが一番 山の上の方から流れて来たでしょうか?」いうもの。
答えは一番下にある岩でしたが、それをけん玉を使って運動エネルギーの法則から説明してくれました。 「ほ〜! なるほど〜!」と、とてもわかりやすく、今後流れ山を見たときに岩の見方が変わるお話でした。
動くのが石で、動かないのが岩という話にも「なるほど〜!」でした。

⑤ 最後の目的地は大涌谷
いよいよ最終目的地に到着しました。大涌谷です。
ここでは、ジミーさんが大涌谷で作られている黒たまごから地球を語ってくれました。大涌谷には「くろたまご館」があります。くろたまごは、温泉の中で卵の殻に鉄イオンがつき、それが温泉中の硫化水素と反応して「黒い殻のゆで卵」が出来るそう。「くろたまご館」は、そんな「くろたまご」ストーリーを科学的に紹介するところだそうです。

ところで、黒たまごから地球ってどういうこと?
ジミーさんは「地球とたまごは似ている」と言います。何故ならば殻は固いが薄くて割れやすいからということでした。
富士・箱根は動き続けている3つのプレートが重なるところです。つまり大地が変化しやすいところ。だからこそ、火山が誕生しやすく、地震も多く、山の形が変わりやすいということなのですね。

⑥ まとめ
ここで最初の「芦ノ湖 富士山 鳥居」の画像がもう一度共有されました。
「いかがでしょう? この景色の印象は変わりましたか?」
景色の背景としてのストーリーを知った大多数の参加者にとって、その印象は変わっていたのはいうまでもありません。


第二部報告
第1部のオンラインツアーを視聴後、それをもとにガイドにとって大切な4つの要素(TORE)について考える第二部 勉強会について、グループワーク時に参加者から出た意見を中心にまとめて報告をいたします。

1. このツアーのテーマは何か?
「見えている景色には意味がある」 これがジミーさんがオンラインツアーを通して伝えたかったことでした。

2.O(構成)について
・最初と最後に同じ画像を共有することで、各自で振り返りができてよかった。
・情報量がちょうど良い。
・起承転結が自然に流れていてよかった。
・シンプルな構成、シンプルな説明でわかりやすかった。
・地図が効果的に使われていた。
・アンケートがあることで参加している気持ちになった。
・ツアー行程の説明もあり、「出発」感があってよかった。

*これらの意見をまとめると、どんな目的でどんな行程でツアーが行われるかを初めに伝えた上で、起承転結で構成し、情報量が多すぎることなく説明もシンプルであると、流れが分かりやすく付いていきやすいことがわかります。 最後に、テーマを振り返ることも参加者の整理のためにも必要であると感じます。

3.R(関連性)について
・アンケートをとることで富士山に行ったことがなくても関連性があるという流れを作っていた。
・箱根の大きさと姫島の大きさは同じなので関連性を感じた。
・自分の地域の山はマヨネーズタイプか?ソースタイプか?を考えた。またそのネタは使える。
・九頭竜は自分の地域にもある。
・流れ山は自分の地域にもあるが、けん玉を使った運動エネルギーの手法に感動した。
・富士山は身近な山。60年前に登った。
・温泉で作るゆでたまごは自分のところにもある。
・自己紹介の「似ている人」シリーズは、その中の誰かは自分の知っている人だった。
・アンケートは置いてきぼりにならなくてよい。

*これらの意見をまとめると、参加者はツアーの中で紹介されたところについて、背景の説明を聴きながら、自分の地域の何かと照らし合わせることでその情景を理解している様子が分かります。
ツアーの中で、自分ごとにして体験していただくための工夫の大切さに気づきます。

4.E(楽しさ)について
・自己紹介最高!
・いろんな道具を使ってわかりやすく楽しませてくれた。次は何が出てくるのだろう?とワクワクした。Ex.ドローン・マヨネーズ・ソース・レゴブロック・けん玉・ピンポンの音etc.
・アイスブレイクに富士山体操というのは今までになかった試みで楽しかった。
・話術だけで片付けられないジミーさんの人間味がよい。
・薄い楽しさではなく、ジミーさんの人生経験をもとにした深みのあるツアーだった。
・アコーディオンのひだや、ムーミンなど、一発でイメージできる比喩が楽しかった。
・ジミーさんの笑顔につられて楽しくなった。
・ジミーさんの人柄に惹かれ、箱根に行ってみたくなった。

*これらの意見をまとめると、リアルなツアーとは違う参加者の惹きつけ方が必要だということがよくわかります。オンラインツアーの場合は、いかにして参加者に臨場感や没入感を持たせ、いかにして最後まで飽きさせないようにするかがKEYになることに気づきます。

5.ここはちょっと…というところ、こうだったら良かった…という意見と、全体を通してかんじたことなど
・知っている前提で話をされていることがあった。
・画像、地図、書き物が多く、ポインターも小さくてどこを見たらいいのかわからなかった。
・ジミーさんが先生だったらきっと地理や地学を好きになっていた。
・黒たまごを食べて欲しかった。
・リアルでガイドを受けてみたい。
・時間が押した理由を知りたい。
・パワポのカンペはイマイチ。ない方が良かった。

*これらの意見をまとめると、大半の意見は「とにかく楽しかった」「参加して心から良かったと思った」など肯定的なものが多かったですが、最後の二つについてはガイドとしては反省すべき点として謙虚に受け止めたいところです。
TOREを意識してツアー造成をすることはリアルでもオンラインでも共通するものですが、オンラインではそれに加えなければいけないスキルが要ることを学ぶことができます。その大きな気づきの一つは、お客さま目線で想像力をフルに働かせるということ。このことについては、ジミーさん自身かなり苦心・工夫されたようです。
また、このスキルは、リアルツアーの瞬発的想像力とは違い、じっくりと画面越しの参加者の気持ちを想像して伝わる戦略を考えるというスキルを要求されているということに、筆者自身が気づきました。

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