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ジオパーク・オンライン&ガイド勉強会 #009 三笠GPの報告

この報告レポートは無料で読めます。
オンラインツアーの動画は最下部にあります(有料)。日本ジオツーリズム協会メンバーの方は無料で見られます(※2022年4月以前にご入会の方のみ)。

2022年3月13日に開催された、ジオパーク・オンライン第9回、三笠ジオパーク回のご報告です。
第1部のツアーの内容と、第2部のTORE勉強会の内容にそれぞれ触れていきます。
 
第1部
北海道の三笠ジオパークより、下村圭さんが「1億年かけてできた三笠・北海道の宝とは?」というテーマでお話しくださいました。
タイトル画像は、ジオパーク・オンラインシリーズを通して共通のものを使っているのですが、なんと下村さん、のっけから驚かせてくれました。自分の写真の部分が、元気に動き回るアバター!!
(テニス、マラソンなど、体を動かすことが趣味だそうです)
 
現地で行うツアーでは、ガイドは必ず注意事項をお客様と共有します。今回、下村さんは、「オンラインツアーの注意事項」として、適度なまばたき、水分補給などを呼びかけていました。
続く自己紹介でも、ユーモアたっぷりに楽しませてくれます。
お客様への心遣いが行き届いたオープニングでした。
 
今日から北海道シリーズ、ということで、北海道のジオパーク紹介をしてくれました。1月に仲間に入った十勝岳ジオパークも含めて6か所になった北海道のジオパーク。ひとつひとつの違いと北海道の多様さを知ることで、改めて、この後の他の北海道のツアーが楽しみになってきます。
地球が隠した”なぜ”を巡る、北海道のジオ旅いかがでしょうか、との魅力的な提案が続いて、「皆さんの地域にはどんなテーマがあるか、を考えながら参加してください」と下村さんから参加者へ呼びかけられました。
 

 
まずは、三笠の位置を確認していきます。
北海道のほぼ中央にあり、羽田からは2時間半、札幌から40分という、アクセスがとてもいい場所にあります。
 
「じおぱーく」って何ッスか?という問いを、下村さんはツアーで必ず問いかけるそうです。色んな答えがあり、正解もひとつではなさそうなクエスチョンですが、下村さんは、
「大地がくれた地域のお宝」
がジオパーク、と考えているそうです。
地域の「宝」を再発見すること、「宝」を上手に活用することがジオパークなのだ、ということを共有して、1億年の時間旅行へと進んでいきます。
 
ここから、三笠ジオパークの特徴をみていきます。
豪雪地帯では、豊かな水に恵まれます。もともとひとつの山だったところを、雪解け水が川となって切り開いて、現在の三笠の谷ができました。川が作る階段状の地形、河岸段丘もよくわかりましたし、川の先には石狩平野が広がっていて、めりはりのある地形です。
 
そして三笠の大地の中身を覗いてみると、なんだか不思議な光景が。通常、平行に重なっていくはずの地層が、斜めになったり縦になったりしているのです。
なぜ斜めや垂直なの? という謎を解き明かすためには、1億年の時間旅行が必要です。ここは昔、どんな場所だったのでしょうか?
 
三笠の大地、北海道は、1億年前は海でした。(この海に生息していたのが、アンモナイトやモササウルスです。)
その後、大地が衝突を起こし、海の中から立ち上がって、今の北海道の大地ができました。
この様子は、説明だけでは想像しにくいですが、カラースポンジの実験動画で分かりやすく表現されていました。
両側から押されて変形した部分が、三笠で斜めや縦の地層として見られるのです。大地の活動によって北海道が誕生した、その証です。
改めて地図で確認すると、確かに、かつてのプレート衝突の最前線が、北海道の真ん中に高い山々を形作っています。
 
プレート衝突による隆起によって、一億年分の地層が立ち上がったため、東の山側の地層は古く、西に行くにつれて新しい地層になっていきます。
そして古い地層が露出していることで、通常は地下深くから出てくるはずのアンモナイトや石炭が、三笠では「じゃんじゃん!」出てくるようになりました。
貴重な化石が気軽に見られ手に入る、大地のいたずらの面白いところではあるのですが、基本的にはジオパークの中のものはお持ち帰り厳禁。「心の中で持って帰ってください」と、の一言も添えられました。
 
東側(富良野側)、古い地層のエリアにある三笠市立博物館では、1億年前の海の景色を物語るアンモナイトの化石が、たくさん展示されています。
「このアンモナイトに触れるんですか?」という質問に、アンモナイトおさわりし放題、という刺激的なフレーズも飛び交い、参加者の興味を誘いました。
また、アンモナイトのそばに下村さんが立っている画像から、思った以上にアンモナイトが大きいこともわかりました。
中も外も楽しい博物館。その裏には1.2キロほどの散策路があります。
この1.2キロの中に、1億年前、5000万年前、そして150年前~現代の3つの時代がぎゅっと詰まっており、多くの学生の学びの場ともなっています。
 
ここからは、野外博物館で時間を一気に5000万年、ひとまたぎします。
約5000万年前の北海道は、アマゾンやジャングルのような湿地でした。雨風に流された木が水の中へ沈み、そこへ土砂が重なって植物が地層の中に埋まっていきます。これらが圧力と高温によって、石炭になっていく、というメカニズム。三笠の石炭は、5000万年の年月をかけて作られている、といえます。
石炭紀、といえば3億年前。ずいぶん時間の差があるような……?
なぜ、三笠の石炭は、こんなに短時間でできるのでしょうか。
 
日本は、北米プレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレート、太平洋海プレートの4枚のプレートが、おすもうさんのように押し合いへし合いしている場所で、「圧力、ハンパないっス」状態。
そしてプレート境界あるところ火山あり。火山から供給される地熱の影響も、とても大きいのです。
こうして、圧力と地熱によって、三笠では石炭が早くできたのでは、と考えられています。
プレート境界が生み出した石炭が、北海道の開拓の原点となり、変動帯である日本の恵みに気付かせてくれるのです。

 それでは、地形、地質を利用した現在の暮らしはどうでしょう。
ここからまた時間旅行。5000万年の時を越えて、現代の暮らしが営まれている、西側(札幌側)へやってきます。
このエリアで営まれているのは、農業。主なメロンやりんごなどが作られていますが、三笠の今を知るには、何と言ってもワインです。
山﨑ワイナリーでは、様々な特徴を持った三笠の地層に合わせて、また日の光の当たり方に合わせてブドウの品種を植えわけています。
更には収穫や醸造の時期も繊細に変えているとのことでした。
三笠のワインは、三笠の1年間と、三笠を作った地球の活動が詰め込まれた、まさにジオの恵みと言えるでしょう。
「食」と「大地」の関わり、地域の名産品を生み出しているのが、足元のジオである、ということがよくわかりました。
 
1億年の時が生み出した、三笠のお宝。その魅力を知って楽しむことが、足元の大地と『私』とのかかわり、つながりを知ることに繋がっていきます。
ツアーの参加者へ、「皆さんにとってのジオパークって?」を問いかけ、振り返らせてくれながら、最後までとびっきりの笑顔で時間旅行をコーディネートしてくれた、下村さんでした。
さあ、皆さま。
「旅の準備はできましたか?」

第2部
 
毎回のツアーを、インタープリテーションにとって大切な4つの要素
「Tテーマ(メッセージ)がある、O構成されている、R参加者と関連がある、E楽しめる)」に分けて考え、ガイドにとって大切なことを学び合おう! というのが第2部の勉強会です。
 
T……テーマがあるか
今回のテーマは、「『私の』身近なジオ(地球)を、今より100倍楽しむ入り口に…」でした。
北海道シリーズの入り口でもあり、旅の入り口でもあり、お宝探しの入り口でもありました。
三笠のお宝を通して、自分の身近なお宝、大地の恵みに気付いていく「マナビ旅」だった今回のツアー。参加者の感想にも、様々な形で自分の足元のジオの恵みに気付いた、ということが出ていました。
 
O……構成
三笠の持つテーマが、1億年の時間経過の中で、総合的・俯瞰的にみられた今回のツアー。参加者のほとんどに、まとまっていてわかりやすい、と感じられました。
大地の動きがを表現したカラースポンジの実験は、説明画像のなかの地層の時間軸と色が揃えてあり、動画によって動き方が見せてもらえたので、印象が強かったようです。
また、多くの方がフォントへのこだわりを多く感じ取りました。ガイドが主張したいこと、場面の移り変わり、説明で、それぞれ異なるフォントが活用され、異なる使い方をされており、メリハリがついていました。
内容が多かったかも、という意見もありましたが、ガイドはそこもあえて詰め込んだ、ということで、この反応も意図のうちだったそうです。
あくまでツアーの内容は旅の準備、というスタンスだった今回、参加者が現地に行く、あるいは現地のものを取り寄せて楽しむことで完成する、意欲的な構成と言えるでしょう。
 
R……関連性
最初に、「自分の地域のテーマを考えながら、参加してみてください」とガイドが声掛けをしていたため、参加者が
「自分の地域にもこんなお宝があるんじゃないかな?」
と探し、自分事にしながら聞いていました。
化石や石炭など、自分の地域にも同じ素材がある人にとっては、共感できることも多かったし、自分の地域との違いもよくわかって興味深かったようです。
また、共通する要素のない火山地域の人にとっても、最初に「ウチは火山地域ではないですが」と触れられたことで、ちゃんと気持ちが向いている、と受け止めることができました。
最後まで、三笠の素材を通して参加者の地域の素材を考えさせる内容だったため、具体的な要素がなくても、関連を感じた参加者が多かったです。
 
E……楽しさ
まず驚かれたのが、自己紹介ページの下村ガイドのアバターが、激しく動き続けたこと。
「体を動かすのが好き」という下村ガイドらしい表現で、とても印象に残りました。これから始まる「入り口」の先が、どれほど楽しいところか、ワクワクさせてくれる仕掛けでした。
表示される写真の中の下村さんがとてもいい笑顔で写っていたことも、楽しさ、ワクワクにつながっていました。
また、軽妙なトークも好評でした。声も話し方も心地よく、楽しく聞けた、という意見が多く出ています。
日本列島に関わる4つのプレートを、お相撲さんに例えたり、行政職員ならではの話が出てきたりと、硬軟緩急を織り交ぜた展開も楽しさを感じた部分でした。
 
その他
化石、石炭、ワイン、という3つの要素についてのお話から、1億年の時間旅行へ連れ出してくれた、三笠ジオパークのオンラインツアー。
北海道の他のジオパークの紹介もあり、1時間があっという間に感じるほど、内容が盛りだくさんでした。
三笠の魅力が、このツアーの中に納まらないほどたくさんあるんだよ、ということも、ちゃんと参加者には伝わっていて、
「三笠に行きたくなった!」
というコメントも飛び出しています。
 
 
北海道は、これからゆっくりと春を迎えるところ。1億年の時間旅行にうってつけの日和が増えてきます。
でっかいどう! な大地を踏みしめに行きたい、という情熱を、三笠のジオが更に熱く燃え上がらせてくれることでしょう。


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