私が勤める街中の駅前ビルには、色々な店舗が入っている。1階はコンビニや飲食店。2階以上は、会社や病院や塾。

ビルの中に、受験塾が2つある。幼稚園・小学受験の塾と、中学受験の塾。私はこのビルで働くまで、お受験の為にベビーカーに乗って塾に通う幼児がいることを知らなかった。

私はそのビルで会社員をしている。よくある会社の、よくある制服。どこにでもいるようなお姉さん。

最近、思うことがある。この会社で働いている人の中で、この業務をするために生まれてきた人は、きっといないだろうなァと。私が働くのは、そんな会社。

そんな会社のそんな私は、受験塾に通う子どもと同じエレベータに乗り合わせることがある。荷物を運ぶときや、仕事終わり。私の仕事が終わる頃、遅い時間に子どもたちや保護者は上階にある塾に向かう。

同じエレベーターに乗り合わせる度、子どもたちや保護者に、私はどんな風に見られているのだろうと考える。

ベビーカーに乗る頃から受験勉強をして、きっと良い学校に入って、その子にしかできないような職業に就くであろう子ども。かたや、よくある制服を着て、誰にでも務まるような業務を行うお姉さん。

この子たちは、きっとこんな安月給で働くお姉さんにならないように小さい頃からお勉強をしている。保護者の方々も、こんなお姉さんにさせないように勉強をさせている。同じエレベーターに乗り合わせる度、そんなことを思っていた。

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何も持っていない。

30歳という節目の年齢に差し掛かり、ふと思う。仕事面でいえば、人に伝えられるような成功。お金や形になる何か。

特別な何かを持っている人と何も持っていない自分を比べると、落ち込むことがある。

かろうじて勤めている会社ですら、ままならない自分。最近は業務量が増え、キャパもなければ心も弱い私はめげていた。今日だって、仕事の心労が理由で、心待ちにしていた“友達のプロポーズ報告会”に行けていない。

本当に、ポンコツだ。

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だけど、最近ある人に出会って少しずつ考えが変わっている。スーパーお姉さん。本社から異動してきた、パワフルな女性の上司。

私と10ほど歳の違うスーパーお姉さん(パワフル上司)は、仕事に対してとてもやる気がある。先ほど書いた、どこにでもある何でもないような我が社の業務。そんな業務に対して、ハツラツとした姿勢で全力コミットする。

最近行われた送別会で、スーパーお姉さんは、一人で歌って、ハモって、踊って、合いの手を入れていた。それはそれは天晴れなパフォーマンスで、なんだか宝塚歌劇に行ったくらいの感動を得た。よくあるジャンカラというステージで。

退職者に花を添えたかったらしい。その想いで、カラオケの一室を劇団四季級の感動に包むお姉さんに出会って思った。自分の持てる全てを捧げて、退職者を送り出すお姉さんを見て思った。

大切なのは持ち物ではない。生き方だと。

スーパーお姉さんだって、言ってしまえば特筆すべきことがない会社員。でも、お姉さんは輝いている。特筆すべきものを持っている。

やる気を持って行う仕事。見つめられると勇気が出るようなイキイキとした目。周りの人を楽しませる振る舞い。隣の席の私をもシャンとさせる程の、良い姿勢。

とても大切なものたち。塾に通う子どもたちが、これから得るかもしれない素晴らしい肩書きとはまた別のフィールドの。

お姉さんに出会って、私もたまたま辿り着いたこの場所で輝きたいと思った。何も持っていないけれど。大したステージでもないけれど。仕事の要領も悪ければ、心も弱いけれど、それでもお姉さんのように輝いてみたいと思った。

冴えない会社に勤める私が想いを持っていたら、輝いていたら、楽しそうに生きていたら、エレベーターに乗り合わせた子どもの未来も照らせるかもしれない。

私と違って、賢くなれ！夢を叶えてくれ！でもそうなれなくったって、どんな場所でどんな仕事に就いたって、きっと大丈夫だよって。誰でも着られる制服を着たお姉さん、とても幸せだよって。心持ちを変えれば、たまたま乗り合わせたエレベーターで、子どもたちの未来に小さな花を添えられるお姉さんになれるかもしれない。

今日、たまたま古いノートを見ていたら就活生の頃に訪ねた“手帳のことば”展のスタンプが出てきた。

今、仕事量と自分の能力の低さに悲しくなる自分にピッタリなことばも見つけた。

昔の私、良い言葉に巡り合ってくれてありがとう。じょうずにさぼりながら、笑っていよう。誰かが私の存在を必要としてくれていることを信じてみよう。頑張れエレベータのお姉さん！(自分を励ます)