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2023年、日記より

2023年が終わろうとしています。お正月休みの、はじめの日に、近所のミスタードーナツに行って、一年間の日記を読み返しました。今年いちねんを思い出してみると、記憶の上では、なんだかぽっかりとしているものです。けれど、日記にしるした一日ずつには、過ぎ去っていった時間が、きちんと存在しているようでした。

日記は、ごく短いものばかりです。書かない日も、ままあります。あまりにも眠くって、面倒くさくって、書くことをさぼって眠ってしまう。それでいて、書きしるしたことはすべて、ささやかなことです。書きつけなければ、きっと忘れ去っていたことでしょう。

そもそも、ひとは、大きく感情が揺さぶられたことほど、鮮明に覚えているものです。二泊三日の旅や、お祝い事のブーケ。寝込んだ日の、ふとんのにおい。歯科検診。カウンター席での、ほのかに緊張する食事。大雨の日の美術館。お葬式。

いっぽう、日記にはこんなことが書いてありました。1月。「自転車にのっていたら、茂みからすずめが三羽とびたっていった。」3月。「お弁当につめてきたこんにゃくが、箸からすべり落ち、遠くまでとんでいった。」4月。「さんぽ。たんぽぽの綿毛がとても丸かった。」7月。「七夕の短冊に”むしはかせになりたい”とあった。かわいい。」9月。「お昼休みにうっかりウトウトして夢をみてしまった。ばかでかいカステラにかぶりついていた。」10月。「さつまいもをふかしてハチミツをかけて食べた。」11月。「カボチャのスープを飲んだ。」

ああ、思い出した。すっかり忘れていたけれど。わたしの脳みそはこれらのことを、生物としての生命維持のためには必要ないと判断して、記憶から消してしまったのでしょう。けれど、書いておいて良かった。今年も一年、なんだかんだ楽しそうにしているな、と思えたから。

ごはんとアパートは、そんな、日々の記憶から消えゆくようなことを、書きたいと思っています。それらは、そこにあろうがなかろうが、どちらでもいいようなことかもしれません。そこに意義を見いだしたいというものでもなく、ただ好きなのです。目の前で起こった事象を、観察していることが。雨が降る。絆創膏を貼る。じゃがいもをチンする。つばめがとんでゆく。ひとつひとつ、とてもおもしろいと思います。

今年も一年、ありがとうございました。日々のエッセイや、ネットプリントでの旅の記録。「ひつじとやさしいごはん」の連載や、季節のもろもろの企画ごと。夏のものがたりや、以前つくった本たちも、さまざまな偶然が重なって、多くの方のもとへお届けすることが出来ました。すべては、いただいたご縁のお陰です。作品を読んでくださった方、いつも気にかけ、見守ってくださる方々、みなさまへ感謝を申し上げますとともに、新しい年を穏やかに迎えられますことを、お祈りしております。

ちなみに、年越しそばは、にしんそばを食べました。来年も、食べものと暮らしのあれやこれやに「しるしをつけるあそび」に、夢中になりたいです。2024年もごはんとアパートを、どうぞどうぞ、よろしくお願いします。

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