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医者の離れ業

医者は僕の顔を見ながらとてつもない速さでキーボードを打った。時間にして6秒ほどだろうか。僕に話しかけながら何かを打っていた。おそらく僕の症状を打ち込んでいたのだろう。

僕の顔を見ながら何かを話し、キーボードで何かを打ち込んでいる。僕は彼の誰にも褒められないであろう離れ業に驚愕した。

彼の姿を見てすぐに頭に浮かんだのはドラムだった。僕は学生時代、軽音楽部に入りバンドを組みベースを担当していた。その時にドラムを軽く叩いてみたことがあるのだが、とても難しい。

なぜなら四枝すべてが違う動きをするからだ。ここではを細かく説明しないが、人間が本能的に出来る動きではない。右腕、左腕、右足、左足。この4つ全てに脳を振り分けないといけない。

いや、離れ業を披露した医者と似ているようで、やはり似ていない。ドラムは1つのリズムに四枝が割り振られているだけだからだ。分かりやすく言うと、1台のドラムで1曲しか演奏していない。

その一方で医者は、それぞれの器官で全く違う曲を演奏している。いままで何万人もの患者を診てきたのだろう。彼の目は自信に満ち溢れていた。

それと彼はとても患者との距離が近かった。僕の心に寄り添ってくれるとかではなく、物理的な距離だ。単純に顔と顔とが近かった。

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