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続.カーテン越しの小さな命


 冬の間もともと心臓が弱い妻の紗英が体調をくずしていたけれど、春風が吹く頃になって少しだけ体調が良くなり、小さな庭を望む窓のカーテンを開け「遥斗、あれ見て…」と、小声で言った。
 紗英に呼ばれ「あれ…!」と言ったのは、去年出産後の少しの間だけ世話をして見放してしまった、母猫のマーだった…。

 僕等はマーとマーの子供達を、見放した事に後ろめたさと罪悪感を感じていた…。
 そんな苦い思い出とは、裏腹にマーは素知らぬ顔をしている。


 マーは紗英の方へ惑わずにやって来て少し頭を傾げて「身体、大丈夫?」と言う様に、“ニャ”と短く心配そうに窓のそばから離れない…。
 紗英が窓越しに「身体、大丈夫だよ…」と話すと、優しげな眼差しを紗英に向ける“ほんわか”とした時間が漂う…。
 そんな紗英とマーのほんの少しの窓越しの時間は繰り返されて…。
 ある時、鈍感な僕はマーに“食べ物”を差し出しけれど、見向きもせずにいて…、紗英のそばにガラス一枚だけ挟んだ場所で凛として座り見つめる、マーは紗英を心配してくれいる…。
“ニャ”と話す言葉はわからないけれど、優しさは伝わる。
 ツンデレなマーが満月の月光を浴び、時折紗英を振り向きながら離れ行く…。

 マーが窓越しの紗英を見守っていた場所から離れていても、紗英は小さなマーの優しさに包まれて…。
 月の青白い光さえ、優しげに…。
 

…………………… おしまい ……………………

 
 

 
 
 
 

 

 


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