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優しさの基準

 目を開くとゴツゴツした顔と、つるんとした顔が見えた。
 たぶんこれが僕や兄弟が見た初めての顔なのだと思う。
 僕達がしがみつくオッパイは、もちろん母のオッパイだけれど母はすごく弱りきっていて、食事も出来ずに歩く事さえできないでいる。
 そんな母の口元へ“つるんとした顔"が「がんばって!」と話しかけながら、ミルクを差し出して少しずつ母は元気を取り戻したと母が話してくれた。
 まだ目が開かない僕と兄弟達は、その“つるんとした顔"が母を介護してくれ生き延びたらしい…。
 もしも母につるんとした顔が手を差し伸べなかったら…、生きてなかったのだと思ったりする。

 頼る処が無く体の弱い母と、僕等兄弟はつるんとした顔とゴツゴツした顔が差し出してくれた食事を食べて戯れながら過ごしていた。
 ゴツゴツした顔は顔はゴツゴツしてるが、意外にも目の炎症を起こしている兄弟に薬をつけてくれたりして…、恐い顔と気持ちは同じだとは限らないとその時思った。


 僕等の幸せを願う様な優しげな顔で保護センターに連絡してくれて、それぞれが新しいおウチの一員になれると思い込んでいた。
 僕等兄弟も母も、電話しているゴツゴツした顔と寄り添うツルンとした顔も、同じ思いと同じ方向…、明るい雰囲気の未来を描いて…。

 2日後に大きな車が見え、優しい顔をした保護センターの職員さんがやって2人来た。
 窓を隔てゴツゴツした顔とツルンとした顔と職員さんが話していてワクワクしている僕等を職員さんが見て優しい顔で凍りつく様に「殺処分…。」と。
 母が耳を澄ますのを見て、僕等兄弟も耳を澄まし聞き耳をたてた。
 職員さんが「無責任なエサやりをしないで下さいね。」と…、もう1人は、「母親は衰弱してないですね。」
 どうやら母と僕等兄弟の未来は思っていたものとは違うらしい……。

 窓越しに見上げて見えたゴツゴツした顔とツルンとした顔の目尻は夕日で光っていて窓のカーテンが静かに閉じられた。
 あの日から、カーテンは開かない。

 職員さんが優しく話していた。
 「ノラネコは自由だから殺処分しませんよ、動物愛護ですから…!」

 弱っている母親にミルクを差し出したのが優しさなのか?
 そんな母親を見ないフリするのが、優しさなのか?

 貴方の優しさは何処に…?
目には見えない優しさは何処にあるのだろう…、今日も彷徨う歩く。

……………………終わり……………………
 
 


 

 

 
 
 


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