小説ハイスクール物語 2 親友はツッパリ高校生 検便で大騒ぎになる

僕のクラスには不良学生がいた。1970年代は
不良の男の子のことをツッパリと呼んでいた。
そのツッパリ高校生は入学した時、僕の隣の席だった。そして同級生から始まり目につく人に片っ端から因縁をつけ、喝上げまですることまであった。
ところが何故か僕にはそういうことを全然しなかった。理由は結局聞かずじまいになってしまったが、寧ろ僕には親切だった。結局そのツッパリ高校生は
僕の親友となった。
藤森鉄男という名前だった。僕はいつも鉄男と呼んでいた。鉄男も僕のことをユウキと呼んでいた。

ある日、僕は鉄男の単車の後ろに乗せてもらって登校した。鉄男はバイクをいつもの隠し場所に停めて
歩き出した。
「ユウキ、男子校にいると世の中の全ての女が美人に見えるよな。これって幸せなことか?」
「どうかな、それより鉄男、検便持って来たか?」
「いけね、忘れちまった。どうするかな? もうクソは出ねえし、あっ、ラッキーだ、あそこで野良犬がクソした。あれでいい。」
「鉄男、犬のクソはマズイだろ。」
「黙ってりゃ分かりゃしねえよ。」

僕たちの担任の杉田先生は体育と保健体育の先生だった。運動系の大学を卒業して教師となり、僕たちのクラスで初めて担任になった26歳の若い先生で新婚だった。
お昼休みは職員室で奥さんが作ってくれたお弁当をニヤけながら食べていると評判だった。
その日の体育の時間はサッカーだった。杉田先生はサッカーゴールの前に立ち、全員シュートしてみろと言ったので
僕たちのクラス40人全員が1度にシュートした。
すると、杉田先生は、
「お前ら今わざとやっただろ。」 
と言って顔を赤くして怒り出し僕たちの方へ走って来た。僕たちは全員逃げた。
結局、その日の体育の時間は杉田先生が鬼の役になった鬼ごっこで終わってしまった。

それから2週間ほどしたある日、学校に行くと鉄男は休んでいた。1時間目の授業が終わると鉄男と反対の隣の席の同級生が、
「鈴原、俺の家は鉄男の家の近くなんだよ。昨日の夜、鉄男の家に救急車が来て、鉄男が運ばれて行ったんだよ。」
「鉄男、怪我でもしたのか?」
「それが、鉄男はスゲー元気だったんだよ。救急車に運ばれて行く時も、俺はどこも悪くねー!って、
大騒ぎして行ったんだよ。」

その時、担任の杉田先生の声が聞こえた。
「鈴原、職員室へ来てくれ。」

僕が職員室に行くと杉田先生は、その椅子に座れ、と言った。僕が座ると杉田先生は話し始めた。
「鈴原が鉄男と1番仲が良いと聞いたから、鈴原にだけ言っておく。昨日の夜、鉄男が救急車で病院へ運ばれた。だいぶ悪いらしい。」
「鉄男はどこが悪いんですか?」
「俺も詳しく聞いていないんだが、検便の結果かなり重症であることが分かったらしい。」
検便?・・あっ・・犬のクソ!・・ヤバい・・
「鈴原、場合によっては、もしものこともあるみたいだ。今日、学校の帰りに病院へ行って、鉄男が元気な内に会っておけ。」

僕は授業が終わると鉄男が入院している病院へ行った。病室に入ると、当たり前の話しだが、鉄男は元気だった。

「ユウキ、ヤバいことになっちまったよ。今更先生に犬のクソとは言えねえよ。」
「鉄男、先生には話しづらいかもしれないけど、
看護婦さんなら大丈夫なんじゃないか?」
「看護婦か、どうせ看護婦に話すなら、あの1番
可愛い看護婦の姉ちゃんがいいな。ユウキ、呼んで来てくれ。」

鉄男が正直に話すとその看護婦さんは、
「君たちは何をやっているんですかー!先生方は
鉄男くんを助けようと今必死になって治療法を考えいるんですよー!先生に話して来ますから、そこで待っていなさーい!(怒)」

医院長先生が助手の男の先生2人と看護婦さんを
3人連れてやって来た。
僕たちは怒鳴り上げられるのを覚悟した。
ところが医院長先生は微笑みを浮かべながら、穏やかな声でこう仰った。
「君たちのことは、学校の先生方によ〜く話しておきますから、もう帰っていいですよ。」

次の日、担任の杉田先生に呼び出された。
「鉄男、鈴原、俺は多くを語らない。
向こう1ヶ月間放課後ふたりで学校中の全ての便所掃除をしろ!以上だ。」

僕は鉄男と放課後、便所掃除を始めた。
「杉田のヤロウ、こんなことやらせやがって。」
「僕たちが悪いんだから、仕方がないよ。」
「何が俺は多くを語らないだ!カッコつけやがって。ユウキ、杉田は新婚だが年下の男の子(キャンディーズの名曲)で、女房に頭が上がらねえって評判だよな。」
「先輩たちも言ってるよ。」
「俺、いい物持ってんだよ。」 
鉄男は鞄からビニ本(昭和のエッチ本)を取り出した。
「鉄男、見つかったらマズイって。」
「大丈夫だよ。このビニ本、杉田の鞄の中に入れておいてやる。」

次の日の1時間目の授業は保健体育だった。1時間目が保健体育の時は朝のホームルームの時間から、
そのまま授業に入っていた。
杉田先生が教室に入り、起立、礼、着席の後、
杉田先生は、
「ホームルームを始める前に話しがある。」
そう言うと杉田先生はビニ本を右手で持って高く
掲げて、
「俺の鞄に、こんな物を入れた奴は誰だー!」
「ユウキ、しらばっくれてろよ。」
「分かった。」 
「正直に名乗れー!正直に名乗れば許してやる。
罪を憎んで人を憎まずだ。」
「ユウキ、あんなのは嘘八百だ、信じるな。」
「分かった。」
「なぜ黙ってるー!お前ら男らしくないぞー!」

同級生 細川
「先生、左の頬が赤くなってますよ。」
同級生 関
「先生、赤い手の跡に見えますよ。」
同級生 高木
「先生、奥さんに引っ叩たかれたんですか?」

「・・・昨日言い忘れたが、先生は今日、県の教育委員会のセミナーに出席しなくてはいけない。
よって、1時間目の保健体育の授業は自習とする。
全員、真面目に自習するように。」
そう言うと杉田先生は帰って行ってしまった。

放課後、僕たちは便所掃除を済ませ校門を出た。
「ユウキ、軽音楽部に入ってロックバンドでベースを弾くことにしたんだって?ユウキはロックが好きなのか?」
「好きだよ。」
「そうか。バイクでユウキを家まで送ってきてえが
ヤボ用があってな。」
「そんなこと気にするなよ、鉄男。」
「彼女に会いに行くんだ。今度ユウキに紹介する。」
「何処の高校の女の子だ?」 
「高校生じゃない。美容室の先生で29歳だ。」
「えっ?」
「ユウキ、また明日。」

鉄男はそう言うとバイクの隠し場所まで走って行った。そして、少しするとバイクで走って行く鉄男の姿が見えた。








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