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全乙女の恋の教科書 ひかわきょうこ先生『彼方から』レビュー【微ネタバレあり】

みなさんこんにちは。三度の飯より少女漫画が好き、自称漫画ソムリエのめるこです。
理想の恋を求め続け早ウン10年、理想爆高女の私が最高におすすめしたい漫画がこちら。名作『彼方から』。多聞くんレビューでも登場した足向けて寝られねえ白泉社様が刊行しておられる『花とゆめ』コミックスの作品。単行本14巻、文庫本版7巻で完結しているため、ボリューム感もちょうど良い。
この作品の何がいいか?って、やっぱり圧倒的純度。恋の純度が高い。

文庫本版の最終巻表紙 見よ。思い合う2人の表情を。

愛とは何か?

人間は古より、この問題に頭を悩ませてきた。あらゆる学者が考え、定義を起こそうとしてもうまく行かない。
悩み苦しむ哲学者に、私はこの『彼方から』を差し出したいのである。
これが答えだ。

手間暇をかけて作るコンソメスープよりも澄み切った恋。どこまでも相手を想い、自分ももっと強くなれる。恋愛に正誤はないが、敢えて恋を問いにするのであれば、『彼方から』は模範解答として示されると思う。

読めば読むほど「そうそうこれこれ、これでいいんだよ。これだよ恋は」と、と溢れ出るときめきが止まらない。
『彼方から』を読んだ人はきっと、この作品が全ての「乙女の恋の教科書」だと言っても過言ではないことにうなづいてくれると思う。

「影のある寡黙な美青年騎士➕天真爛漫な乙女」は、古代人類から受け継がれてきた王道カップル

いつの時代だって、どんな国だって、影のある美青年と明るい少女の組み合わせは物語に描かれてきた。多分、人類のDNAにそういう性癖が刻み込まれているせいだと思う。
私の祖父は昔の時代の人だったため、よく「油っ紙に火をつけたようにベラベラと喋る男はならん」と言っていた。今の価値観から言ったら「よく喋る男は男らしくない」なんて時代錯誤も甚だしいけれど、でもやっぱり寡黙な男ってとてつもなく惹かれるものがある。
自分のことはあまり語らず、何か思い宿命を背負った人…。そんな男にとって愛の証明は、薄っぺらな口説き文句の数ではなく、彼女を庇って受ける傷の数なのだ。

本作のヒーロー「イザーク」は、そんな不器用な騎士である。彼は恐ろしいほど強い力を持って生まれたが故に、実の家族からも距離を置かれ、戦士として生きていた。
彼の生い立ちから醸し出される悲しい過去の思い出…そこから形成される影のある眼差し。美青年を飾るには、「憂い」が一番良い味を出す。
イザークはそうして1人孤独に生きていたのだが、ある日、平凡な女の子「典子」に出逢う。
典子は日本から異世界にタイムスリップしてきた本当に平凡な女の子。森の中で怪物に襲われそうになったところをイザークに助けてもらう。これが2人の出会いだった。(結婚式で流そう)
しかし実は典子は、イザークの底に眠る「恐ろしい力」を目覚めさせる存在だった。イザークは自分をより凶悪にすると予言された力を封じるために森に来たのに、魔物に襲われそうになった彼女をたすけちゃうんだよね。もうここが運命の分かれ道だったわけです。
この出来事をきっかけに2人は一緒に旅をすることになって、だんだんと温かい気持ちが育ち始める。その気持ちが恋だとはっきり自覚するのには時間がかかるんだけど、だんだんお互いがなくてはならない存在だと感じるようになっていく流れがとてつもなくいい。とてつもなくいい。大事なことなので2回言いました。

本作の中には神シーンしかないが、特に好きなのが典子がイザークのために言葉を覚えるところ。
典子はノリコとして異世界で生きていこうとするんだけど、魔法みたいにすぐ順応するなんてことはなくて、初めはイザークが何を言っているかもわからない。ノリコは少しずつ異世界の言葉を覚えていくんだけれど、その支えとなる動機が「イザークと話がしたい」なのよくないっすか。そうだよね、話、したいよね。
好きな男の話す言葉、知りたいよね。個人的に言葉によって世界が形成されると思うから、やっぱり言葉を知るというのはその人の世界を知る、ということにつながるんだと感じる。
メキメキと言葉が上達するノリコ。カタコトになりながらもイザークに自分のみた世界を伝える。イザークはそれを受け止め、時には危険からノリコを守る。

でもだんだん、イザークがノリコを守るという形から、ノリコがイザークを守っていると気付かされるのだ。
何も力のない乙女だけど、彼を思う力は、何よりも強い。それは戦士の剣よりも強い。
恋は剣より強し。
そうそう恋ってこういうものやんな。

数々のピンチを乗り越え、2人は想い合う心を強くしていく。2人の最大の課題であった、「恐るべき力」にも真摯に向き合って、それを変えていく過程が尊すぎた。

希望の対極は絶望ではない。希望の一つが、絶望なのだと思う。扱い方によって災難にもなるが、まっすぐな心があれば、いつだって正しく力を与えてくれるものになる。あらゆる災いが詰められた「パンドラの匣」の最後には、希望があったように。
イザークとノリコの恋は、それを教えてくれる。

一回は本気で読んでほしい!
『彼方から」。最高の少女漫画でした。


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