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小説 フィリピン“日本兵探し” (5)

タカシたちは、共産ゲリラのリーダー、ジュンがいるカルバヨグに向かう途中で、カトゥバロガンという街に立ち寄った。

カトゥバロガンは、サマール島中部の西海岸にあり人口は10万人。サマール島の商業や物流の拠点となっている。街とはいっても、飛行機や船で、外からアクセスできるわけではないため、他の島からは、閉ざされた場所といえる。

カルバヨグと同様に、近くにはマングローブが林立するジャングルがある。カルバヨグまで数十キロだが、タカシたちは、ジュンと接触後、そのままジャングルに入って日本兵がいるという洞窟に向かう可能性があるため、水と食料を調達した。

昼食は10人ほどの人数が入れる、安宿のレストランを選び、ゆでたエビとライスで空腹を満たした。飲み物は、レイテ島やサマール島に入ってからは、脱水症状に気を配りいつも凍らせた水だった。今回も、ハルミとアキラが、どこで調達したのかリキシャを飛ばして、10本以上のペットボトルの水を手に入れていた。

リキシャは、「人力車」由来の、東南アジアにおける小型の移動手段で、ミニバイクに客用の座席と屋根を取り付けた物。タイでは、トゥクトゥクで知られている。

このカトゥバロガンで、自警団のサミエルは長い箱を入手していた。タカシが箱の中身を尋ねると、中身が金属探知機であることを明かした。
「正直に言うと、俺とお前らはいく場所は同じだが、目的は違う」、サミエルが興味を持っているのは、日本兵の生存ではなく、財宝である。財宝は地中にあるかも知れず、財宝を探すのに、金属探知機が必要と判断したらしい。

さらにサミエルは、日本兵関連の情報も手に入れていた。
「ジュンの話は、この島で農業を営むアウアウという青年からもたらされたもの」ということだった。

アウアウの写真をサミエルがタカシに手渡した。拉致されているような雰囲気がその写真からは伝わってきた。写真の若者の顔には、殴られたような傷が複数あり、地べたに正座させられ、気力なく、下を向いていた。サミエルは、アウアウについての話を聞いていた。

「アウアウは、日本兵をイリミンタンニオ、洞窟のおじいさんと呼んでいるらしい」。サミエルが聞いた話によると、日本兵の居場所はアウアウしか知らず、食料などは彼が届けていて、すでに数年がたち、現在にいたるという。

ただ、その日本兵の名前や、日本語を話していたというような具体的な話はなかった。サミエルの関心がそこにないため、話が出なかっただけかもしれない。

逆に、サミエルが関心を持っている話、財宝については、「洞窟の老人の近くには、箱があって、中身が分からないらしい」という話だった。サミエルは、ジュンたちを財宝探しのライバルと見ていて、自分たちが日本兵を説得できる老人たちを連れていることを、アドバンテージととらえているようだった。タカシは、共産ゲリラのジュン、そして、アウアウに会う必要があると確信した。

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