ジュン

A4用紙1枚に収まるサイズの短いストーリーを投稿。

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最近の記事

A4小説「全国大会」

 「木曜日に始まりました今大会も本日が最終日となりました。解説は昨日に引き続きこの競技の初代チャンピオン・篠塚邦夫さんです。よろしくお願いいたします。」「よろしくお願いします。」  「さあ篠塚さん、いよいよ最終日、個人決勝が行われます。一昨日までの団体戦では各チームそれぞれが素晴らしいパフォーマンスを披露してくれましたね。」「そうですね、音に合わせての息の合った動きはどのチームもお見事でした。」「優勝したチーム・フェイスオフからはパフォーマーの宮崎が個人戦でも決勝に進出してい

    • A4小説「ハーモニー」

       「鮫島さん、今日どこかで5分だけ話を聞いてくれるかしら?」と女性従業員に言われ、(うわぁ、嫌だなぁ)という気持ちが顔に出ないようにすることくらいは、主任に上がった頃からできるようになっていた。「了解。休憩のときか、帰る前にでも。」と、被服チェックの用紙が綴じてあるバインダーを取りながら鮫島は答えた。稼働前の工場はまだ静かで、箒が塵取りに当たる音が聞こえる。各機械の清掃が終わってチャイムが鳴ると朝礼が始まる。  14人の女性従業員たちは朝礼で、前列と後列に7人ずつ並ぶ。前列の

      • A4小説「高級車爆破事件」

         東京をはじめとする複数の都府県で同時多発的に爆発事件が起きたのは午前2時20分だった。それぞれの高級住宅地とされる地域で家の駐車場に停めてあった高級車が爆破されたという。共通点は車庫のない家庭だったことと、車以外には目立った損壊はなかったこと、そして全てのケースで運転席に血痕が残されていたことである。不思議なことに遺体のようなものは無く、血液もその家に住む住人のものではなかった。現場に残された足跡をひとつの手掛かりに、警察は捜査を始めようとしていた。  ひとりの刑事はまず、

        • A4小説「タコ焼き・正ちゃん」

           「嫌ってほどではないんですけど、いろいろ聞いてくるんですよね、堀口さんって。当然仕事の話なんかは普通にするんですけど、手のこの火傷?の話をした頃からプライベートなことも聞かれだして。家賃のことなんか聞かれたときは『ああ、さすが関西人。』って、あ、偏見ですかね、思っちゃって。他には好きな食べ物とか俳優?お菓子とか韓流とか適当に答えてますけど。あ、学生時代どんな感じだったのかとかも聞かれたことあります。休みの日の過ごし方とか?これハラスメントですよね。だんだん気持ち悪くなってき

        A4小説「全国大会」

          A4小説「アームレスラー」

          また、良一は学校へ行くと言って祖父の中華料理店のある隣町に向かっていた。いじめられているわけでも嫌いな授業があるわけでもないが、何故か急に自分に自信が持てなくなり、不安になって登校することができなくなってしまう。そういった日はいつの頃からか、家を出るとそのまま祖父の店に行くようになっていた。  祖父の営む中華料理店「二亭」はよくある町中華で昼時はラーメンセットがよく出るが、空芯菜やトマトと卵の炒め物など一品料理も人気があった。祖父は料理を作ること自体が好きだったため「売上や店

          A4小説「アームレスラー」

          A4小説「競馬日和」

           西宮北口駅に先に到着したのは三ノ宮方面からやってきた関の方だった。関は並んでいるカプセルトイの販売機を一通り見てから宝塚方面行のホームへと下り、待ち合わせ場所だったコンビニの前で待機し行き交う人々を眺めていた。  ほどなくして梅田方面から杉本がやってき、関と合流した。二人の目的は阪神競馬場でのレース観戦で、この日は最終レースが終わるまでそこで過ごす予定だった。  関と杉本は小学校からの同級生で、高校まで同じ学校に通った。中学までは話もあまりしてこなかったが、高校の時に同じゲ

          A4小説「競馬日和」

          A4小説「プレイメイツ」

           谷口と茂田は「グッチ」「しげぽん」と呼び合うほどに非常に仲が良かった。出会ったタイミングは共に40歳を過ぎてからと遅かったが、ほとんど会わなくなった中学・高校時代の同級生や職場の同僚などよりはずっと近しい存在となっていた。  谷口はマッサージ店を経営しており、中でも足ツボマッサージは「痛くない足ツボマッサージ」として評判だった。肩や腰のマッサージも丁寧で、高齢の客にも喜ばれリピーターも多かった。そんな谷口の店に、ゴルフで疲れた足を癒しにやってきたのが茂田だった。  年齢が近

          A4小説「プレイメイツ」

          A4小説「NMW」

           「何番ですか?」「あ、56番です。」智恵理がそう答えるライブハウス前には、開場まで20分とあってぞろぞろと人の列ができ始めていた。オールスタンディングで座席がなく、整理番号の順に入場する場合、客どうしで番号の確認をし合い並んでいく。300人が入るか入らないかといったくらいの会場には「NMWツアー」というポスターが貼ってあった。「ナチュラルミネラルウォーターズ」というバンドのようで、列に並ぶ人の多くは、胸に「NMW」とデザインされたTシャツを着ていた。  ナチュラルミネラルウ

          A4小説「NMW」

          A4小説「神童」

           先輩は「昔は神童と呼ばれていた。」とよく言う。よく言うが本当かどうかは疑わしい。なぜなら結構残念なところがあるからだ。先輩が先輩の先輩に奢ってもらうことはあっても、後輩に奢った話など聞いたことがないし、仕事もけっこうサボる。タバコ休憩・トイレ休憩は多いし、必要かどうかも分からない外回りにもよく出る。デスクワークでもよく貧乏ゆすりをするので、少なからず周りの人の迷惑になっている。  「先輩、今日生臭いっすね。」「なんだよ、失礼すぎるだろいきなり。」「いや、魚臭いっていうか…。

          A4小説「神童」

          A4小説「口癖」

           他人の口癖に気付いて、それがだんだん気になるようになってくると、たまに腹が立ってしまうことがある。古関は職場で向かい側に座る事務員さんの口癖「びっくりした。」が気になり、時折イラっとしていた。なぜなら恐らくびっくりなんてしていないからである。人が本当に驚いたらもっと大きな声で「びっくりした!」と言うはずだ。それ以前に「うわっ!」とか「えっ!」と言うかもしれないし、絶句して声が出ない場合だってあるだろう。それなのにその人はいとも簡単に「びっくりした。」と言う。この間の事務員さ

          A4小説「口癖」

          A4小説「キヨシとヨシキ」

           キヨシとヨシキは一卵性の双子だった。身長や体重、声や視力、成績や運動神経など、どれをとってもほとんど同じだった。両親が「男の子ならキヨシという名前にしよう。」と決めていたところ双子だと分かり、弟の名前をヨシキにした。二人は仲が良く、性格ものんびりとして似ているためにケンカをしたこともなかった。  中学に上がると同じ野球部に入部した。ユニフォームを着てみても顔や背格好はもちろん、ボールの投げ方やバットの振り方まで同じだった。チームメイトたちは同じ人物が二人いるように見えてしま

          A4小説「キヨシとヨシキ」

          A4小説「献血巧者」

           なんやかんやと増えたポイントカードの整理をしていた。ほとんどのカードはアプリになり、スマートフォンで使えるようになっていたからだ。アプリを開くとすぐにポイントカードのバーコードが表示され、それをレジでスキャンすることでポイントが加算される。それぞれのカードを持つ必要が無くなり、スマートフォンひとつで事が足りるようになっていた。使わなくなったカードは捨てるには少し抵抗があったため、100円ショップで買ったカードケースに入れて分けていた。その作業中に、河田は献血手帳を見つけた。

          A4小説「献血巧者」

          A4小説「風の日2024」

           ずいぶんとのどかなところへ引っ越してきた。アパートは田畑に囲まれ、戸を開けるとすぐそこに農機具の置かれた納屋がある。職場に近すぎるのも嫌だったので、歩くには遠いが車だと10分とかからない、少し離れたところに部屋を借りた。静かで、良いところだなと思った。  愛媛県四国中央市はその名の通り、四国の中央に位置する。紙の町として知られ、製紙工場や紙に関わる企業が多い。その中のひとつの工場の、倉庫係として田辺は働いていた。志望動機は「フォークリフトの免許を持っているから」だったが、中

          A4小説「風の日2024」

          A4小説「マークシーター」

           花木は限界を感じていた。ここ最近は成績が伸びず、夜間勉強していても気が散って集中力が続かない。そもそも勉強自体を面白いと思えない。次の試験は全国模試で、マークシート方式で実施されるものだった。いっそのこと一切勉強せずに丸腰で挑んでみようかとも思っていた。マークシートのような選択問題は「鉛筆を転がして」などとよく言うが、全ての問いに鉛筆を転がしていてはうるさくて迷惑だろうな、と試験中のことをイメージしていた。そのとき、すぐ後ろの席の十川のことが頭に浮かんだ。  花木のすぐ後ろ

          A4小説「マークシーター」

          A4小説「ちらし」

           得意先での商談を終え、いったん宿に戻ってきた。香川県への出張は4度目で、うどん・うどん・骨付き鳥と、これまで名物らしいものを食べてきていた寺嶋恭一は、夕飯はもうコンビニでも良いかな、と考えていた。しかし右手が勝手にスマホを取り、指が勝手にグルメサイトを検索し、目は勝手にその画面を覗いていた。  少ししてスクロールが止まり、巻き戻すように親指を滑らせたのは、これまでに見たことのない「評価☆5」を目撃したからである。評価数は地方都市らしく16件と少ないが、その全員が満点をつける

          A4小説「ちらし」

          A4小説「雪の日2024」

           昨日から下がり続けている気温が一向に上がらず、今朝方には雪となり、ついには午後からリモート業務となって、各自帰路につくことになった。 晴天の日が多いことから「晴れの国」と呼ばれる岡山でも、雪が降れば当然寒く、路面電車の走行音でさえ冷たく感じるほどだった。  仕事終わりに駅前のカレーショップで夕食をと考えていた柴田大地は、急にリモート業務になることを告げられ少し残念な気持ちになっていた。というのも、外回りを終えたらすぐにその店・駅前南店に赴き、周年祭のキャンペーンくじでもらえ

          A4小説「雪の日2024」