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【ショートショート】          帰り道に一人思うこと、、、。

「あっ。」
ほんとに声が出たわけではないはずだけど周りを見渡してしまった。
手帳に予定を書き込んでいたら、誕生日が明後日に迫っていることに気が付いた。とは言っても、さして気にするようなことでもなかった。

 誕生日は特別な日、、と誰かが言っていたのを思い出す。
誕生日と聞いてわくわくするわけじゃないけど、当日はなんだかいつもと違って周りが見える。だけど、本人には特別な日であっても、周りはそれにこたえるまでもなく普通に、いつも通りに過ぎていく、、、。

まじかに迫った誕生日を誰かと共有できるはずもなく、僕は家に帰る。
電車に揺られながら思い出す、幼いころの誕生日。
子どもの頃は、両親がお祝いしてくれて、だからその日は特別だったし、曜日の都合が良ければ友達を呼んで誕生日会をしてくれた。だから特別だった。その日はなんだか、友達がわざわざうちに来てくれてることが、くすぐったいような感じだった。

 僕が会社勤めをするようになってからも、家族を持つようになってからも母親は誕生日にメッセージをくれた。絵文字がやたらと多くいけど、とにかく「めでたい!」といったメッセージだ。年寄りはなんでやたらと絵文字が多いのか、、、。なんてひとりゴチてみるけど、電車の窓に映る僕はにやけ面だ。

 いつからだろう、、、一年が過ぎるのが早く感じるようになって、年を重ねることが当たり前で子供の頃に感じていたほど特別でもなくて、、、。母親のメッセージも当たり前になって。何か特別な事といえば、誕生日は我慢していた買い物をする理由ぐらいにしかならなくなっていた。
こんなものかもな、特にさみしくもない、、、かな。
 
 自分に子供ができて、毎年迎える誕生日。小さい頃はにぎやかに、みんなで祝う。少しづつ成長するにつれて、お祝いの気持ちを伝えるけど、、、なんだか本人は気のない素振り、、、。
「なんだか、伝わらないねぇ~、お祝いが、、、。」と僕は妻に言った。
「親のお祝いなんてそんな風にしか感じないでしょ。高校生息子には、、、。」
「そんなもんかなぁ。」
「そんなもんよ。あなただってそうなんじゃない?あなたの息子なんだからそんなに変わらないんじゃない。」

数年前の妻とのやり取りを思い出した、窓の向こうは製油所の夜景が見えていて、ゆっくりと左に景色が流れていく。 

「かあちゃん、もうすぐ誕生日だね。誕生日おめでとう。もっとお祝いしたかった。ごめんね。」

「子供の喜ぶ顔が一番見たいもんだよね、親は、、、。」
孫に向かってそう微笑みながら話す、かあちゃんを思い出す、、、。

もうすぐ電車は最寄り駅に到着する。











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