忘却

子どもの頃 家族揃って車で迎えに行き 
ティッシュの箱に入れて
玄関内で飼うことになった
青と黄色の羽のインコ
その つぶらな瞳や
「おはよう」とさえずる声は
今でも思い起こせるのに

ごく最近のことが
思い出しづらくなり
薄情な自分に気付く

元は泣き虫だった
すぐ泣くもんじゃないと育てられ
ちょっとや そっとのことでは
家でも 人前でも
涙は見せないのが常となり
やがて血も涙もないと言われても
出ないものは出なくなった

きらきらの金米糖が全て出尽くし
空っぽになった「振り出し」に似て

人には それぞれ
見たいもの 聞きたいもの
そして伝えたいことがあって
その逆もまた然り

湧き出る思いを禁じることは
本来 他人には できないのだ

買い物に行き
この日 この時期に
必ずこの食材を調理するものと
長年刻み込まれた習慣で
つい立ち止まる
数日後 別のお店でも
つい目に入り 首を振る

一度なくした心は
取り戻せないのだろうか

今 頬を伝う涙は あたたかく
たしかに わたしは生きている

様々な思いを洗い流し
ただ目の前を過ぎゆく出来事を
素直に見つめる

外から聞こえるのは
しとしとと降り続く春の雨

桜のつぼみは色濃くふくらみ
日が差すときを待っている

今日の思いも いずれは忘れる
そうして 時は流れ
人生は続いてゆくのだろう







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