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珈琲を挽く音がすると

僕は雨の音を思い出す。

珈琲愛好者でもない僕が珈琲を挽くのは、極めて稀で、
それをみた猫は警戒して背筋をキリッと立てて威嚇するほどだ。
(いや猫を飼っているわけではないけれど)

持っているミルも、ごくごくシンプルな、あの、ほら、キャンプでも使えそうな手に持ってぐるぐる回すやつだ。

珈琲豆だって頻繁に買わないし、何かこだわりがあるわけじゃない。

けれど一度、珈琲を挽きはじめると、がりがりという音が耳に届き、かすかに漂う香りは魅力的な朝そのものだ。

雨が降っていた。
いつだっただろう、僕は朝、早く起きて珈琲を飲もうと思い、豆をミルに入れた。
確か春先の、まだ朝夕は冷える頃、霧のような雨だった。
雨の音が聞こえるはずもないほどの。

豆を挽くことに集中し、研ぎ澄まされた僕の聴覚は、
その雨が屋根に当たる微かな音を捉えたのだ。

単に、雨粒が少し大きくなっただけかもしれない。

けれど、僕はその時、静か、の中にいた。

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