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振り返るとそこに、マルタ騎士団

マルタ騎士団が横切ったので、親指を隠す。

そうしないと悪いことが起きるんじゃ、とおばあちゃんは言った。

マルタ騎士団が横切るたびにそうするので、僕もそれに倣った。

マルタ騎士団は嫌な顔ひとつせずに、横切っていく。
そもそも、親指を隠されることなんて眼中にない。
何せ人の家の中を堂々と横切っていくのだから。

不思議とマルタ騎士団の横切った後は何も残っていない。

マルタ騎士団は馬に乗っているから相当汚れそうなものだが、チリひとつ落としていかない。

マルタ騎士団たるもの、後を濁さず、何だろう。

そういえば音も立てない。
マルタ騎士団は静かに、あくまでも静かに横切っていくので、考え事をして下を向いていればきがつかなかったかもしれない。

顔を上げれば堂々と、マルタ騎士団が横切っていて、ほれ親指!と叫ぶおばあちゃんがいて、僕は思わず親指を隠す。

マルタ騎士団はやはり顔色ひとつ変えずに横切っていく。

もしかしかたら、妄想かも知れない。

おばあちゃんが作り出した空想上の生き物で、僕にもはっきり見えているけれどそれは、何か仮想現実的な作用のなせる技で、操られてマルタ騎士団は横切っているのかも知れない。

いやむしろ、その可能性はたかい。

と思ったところで、マルタ騎士団だ。

違うよ、とその口は動いた。
マルタ騎士団は実在する。


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