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ある日突然外国人を日本観光に連れていくことになった。あなたならどうする?

私は数年前に中央アジアの某スタン国で働いておりました。ここではその国をZ国としましょう。Z国は途上国であり、日本の生活とは程遠い文化、生活様式でしたが、なぜか私はZ国での生活が非常に肌にあったようでした。Z国で出会う現地の方々と仲良くなり、一緒に酒を飲むだけでなく、旅行へ行ったり、祝日を祝ったりと現地の方々と多くの時間を共有したのでした。

その中で兄弟のように親密な仲になった友人Aがおりました。彼は10歳以上私より年上で、日本でいう地方の建設会社の社長のような、面倒見が良く、人情深い性格の方でした。色々と一緒に遊ぶ時間も長く、ある時から私を「コイワは俺の弟やねん、面倒見てやってや」と周囲に紹介するようになり、私も兄のように慕っておりました。

ある時、そんな彼が日本へ旅行に行きたいというので、なんやかんや日程を合わせて二人で一緒に日本観光へ行くこととなりました。

さあ、大変。旅行期間は1週間。人生で初めての外国人を日本観光に連れていくという大イベントが始まりました。

彼は兄貴分の友人です。これまでもたくさんお世話になっています。目一杯日本を楽しんでほしい。また日本へ行きたいと思ってもらえるように。

しかし、果たして私におもてなしができるのか。これまでに外国人を日本観光に連れて行った経験などありません。1週間という期間が限られた中、どこへ連れて行って、何を見てもらうのか、何を食べてもらうのか。兄貴は日本のことをよく知らないばかりか、英語も日本語もわかりません。

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さて、一旦落ち着いて整理しましょう。彼はなぜ日本へ旅行に行きたいと思ったのか。彼は日本旅行で何を期待しているのか。彼の要望は?食の好みは?食べれないものはあるのか?ビザは大丈夫か?どんな旅がしたいの?

旅行計画を立てるのに先立ち色々な疑問が出てきます。ここは素直に聞けることは相手に聞きましょう。

ということで整理です。

①なぜ日本へ行きたいの?
→これまで10年以上日本の企業と仕事をしてきて日本に興味を持っていたけれど、仕事も忙しかったし、日本語も英語もわからないから行こうと思えなかった。頼れる人もいなかった。ちょうど少し仕事が落ち着いた。コイワとなら安心して日本へ行ける。(コイワからしたらたまらないセリフです。泣かせます。人たらしです。こういう人なんです。豪快でめっちゃくちゃ仕事できて大酒飲みで面倒見がいいのに、海外へ行くのは臆病になる可愛い人なんです。まあ、要は暇ができて子分みたいな弟みたいなやつができたから日本へ連れて行ってくれよ、って感じです。)

②日本で何がしたい?
→日本食を食べたい。アニメにハマっている息子のためにアニメグッズ(ナルトとワンピースでした)が買いたい。秋葉原と京都に行きたい。皇居も見たい。大阪城も絶対行きたい。コイワの地元も行きたい。(おいおい、滞在は1週間やぞ。わいの地元って岐阜の田舎の山奥ぞ)

③食べれないものはあるの?
→(ここは兄貴に質問する必要もなく、これまで何度も飲みに行っているので嫌というほど知っています。Z国はイスラム教の国であり、兄貴はムスリム(イスラム教を信仰する人のこと)です。なので豚肉は食べれません。ただお酒はめちゃくちゃ飲みます。ウォッカ大好きです。イスラム教をご存知の方は驚くと思います。イスラム教で飲酒は禁止されてます。飲酒は悪魔の所業なのです。その一方で、宗教は土着習慣と歴史で大きく変化します。ここ中央アジアでイスラム教は独特の発展をしました。)

ここで少しだけ簡単な歴史と宗教の豆知識です。興味ない方は読み飛ばしてくださいね。先に断っておきますが、超絶ざっくりとした説明ですので、専門家の方々、ご了承ください。

中央アジアの各地域は、10世紀前後(大体。多分。)にイスラム教の信仰が広まり、ソ連成立後にソ連共産党の勢力下となっていきました。共産主義のもとでは一切の宗教が禁止されます。宗教行為が弾圧されたので表だった信仰はできず、イスラム教を含め国民の間で信仰は衰退しました。その一方で、ソ連統治下でソ連国内で人の往来が活発となり、当時のソビエト・ロシア(ソ連構成要素の最大国)のウォッカ文化がソ連全体に広がります。その後、90年代になりソ連が崩壊し、中央アジアの国々が独立するわけですが、国家のアイデンティティを確保するために彼らはイスラム教を活用しました。古くはローマ帝国のように(もちろんローマ帝国ではキリスト教を活用しました)、宗教で国を一つにまとめようとしたのです。しかし、生活慣習にはすでにウォッカ文化も根付いています。そこで形成されたのが「ウォッカは飲むけどイスラム教を信仰して豚は食べません」という落とし所です。超絶ざっくりとした説明ですがこんな感じです。中央アジアと一括りに言っても、もちろん各国がそれぞれ独自の発展をしているので、他の国について詳しくは分かりませんが、私の知るZ国では、体感として、知り合いの半分はお酒を飲むムスリム、半分はお酒も飲まない”いわゆる”僕らが知っているムスリムという感じです。ちなみにラマダン中(断食期間)は「お酒飲むムスリム」も禁酒します。ラマダンが終わればまた飲みに出かけます。そんな感じです。自由です。特にZ国は、独立後、大統領が国をまとめ上げるためにイスラム教を積極的に活用して国民の信仰心を高めたところ、各地でイスラムテロが発生するようになり、方針一転、宗教に強い制限をかけるようになりました。その影響で、飲酒に寛大な施策が取られるようになったという背景があるので、イスラム教国家でも特に飲酒に抵抗が少ない国となったのでした。ちなみに、ソ連以降に生まれた若い世代ほどイスラム教信仰が強く、さらに、貧困度が高くなる農村地域へ行くほど、信仰心が強くなっていきます。都市部と地方、親世代と子世代とで信仰度が大きく違う宗教分布構造となっていますが、この話題はまた違う時に。

中央アジア特有のイスラム教の話をすると、外部の人が「そんなのイスラムとは言えない」とか「そんなの間違っている」とか言うのを聞きますが、我々がそんなこという必要はありませんし、私には知ったこっちゃありません。

私はただ、望むと望まざるも、この地域で生き残るために取捨選択を繰り返し、積み重なった歴史や土着文化、慣習、そしてその積み重ねの上に生きてきたZ国の人が好きなだけです。

話を観光準備に戻しましょう。

兄貴と日本観光する上で、食事に関しては極めて重要な事実があります。兄貴は日本好きと自分では言いますが、言うほど日本食は好きではありません。私と食事行く時、私に気を遣って日本食レストランや中華料理を候補に上げてくれますが、アジア系レストランではいつも少食です。少しつまむ程度。その反面、自国料理や欧州料理だとバクバク食べます。

つまり、兄貴は日本食は興味あるけどたくさん食べれない。自国料理の方が断然好きということです。ここが実際に日本へ行ってから大切になっていきます。

④ビザは大丈夫?
→(ビザについても本人に聞く必要はありません。日本へ行ったこともないのだから、本人に聞いても何にも知りませんし。むしろここは私の専門分野のひとつといいますか、以前、外国人の日本ビザ取得支援みたいな仕事やっていたので必要な書類から目的のビザの種類まで実務知識はばっちりです。今回の彼の場合は、いわゆる、一般的な”観光ビザ“を取得することとなります。「短期滞在、シングル、15日」のビザですね。)

日本人が外国籍の方のビザ(正式には査証といいますね)を準備するときに注意すべきポイントがあります。

トランジット先のビザが必要かどうかです。

みなさんご存知の通り、日本パスポートは最強です。多くの国にビザなしで短期滞在できますし、ましてやトランジットでビザが必要な場合ほとんどないでしょう。(もちろん一般的な国ではないところへ行く場合は違います)

しかし、Z国籍のような日本に馴染みのない国の場合は、思いもよらないところでビザが必要になったりします。特に格安航空を利用する場合は注意です。格安航空の場合、飛行機がトランジットエリア利用ができずに、入国ゲートに通されることが多く、本人としてはただトランジット利用で空港に降り立った場合でも、実際には入国が必要な場合があるので注意が必要です。

どの国籍にどのようなビザが必要かどうかについては、トランジット先の外務省ホームページをみて調べることとなります。

結論としては、我々は2人のトランジットビザが必要のない国を経由して日本へ行くこととしたので、ビザ問題はクリアです。

以上のとおり、旅行日程を考えるための必要な情報は揃いました。

旅行日程を組むにあたり、1週間という期間で兄貴の要望をできる限り叶えてあげたい。でも一緒に行く私はそれだけでいいのか、という引っ掛かりがあります。兄貴は日本についてよ行く知らない。知らないからこそ私と行くのだ。兄貴の要望だけ叶えていたら、兄貴のイメージの中の日本を確かめに行くだけにしかならない。

初めての日本で訪れる場所。兄貴の要望から他に行くべき場所はないのか。

そこで思いついたのが、靖国神社です。

靖国神社の庭園。(全体像映っていません。実物はぜひ生でみてください)

兄貴が当初から見たいと言っていた、皇居、大阪、京都は日本歴史の潮流の中心です。そして聖地秋葉原。それらを繋ぐのは、靖国神社だろうと。過去から現代までの流れを知るのにぴったりな気がします。イデオロギーを抜きにして、歴史の事実の羅列を話題にいろいろお話できます。庭園も綺麗ですし、庭のベンチに座って池を眺めながら兄貴と戦前戦後の話をするのもありです。

観光する側とされる側の両方の文化や歴史観を知った上で互いの国を観光すると、何も知らない状態よりも想像力を掻き立てることができます。比較して、違いに気づいたり、違いの理由を考えたり、ただ見るだけより違う味わいを楽しめます。

案内する側も、観光にくる人の国の歴史や文化を知っていると知らないとでは、日本文化を見てもらうときに添える言葉が変わります。

個人で日本を見る時と比較して、私と一緒に日本観光することで、少しだけでも、兄貴にとって日本の魅力の理解が深まると嬉しいなと思ったわけであります。

自国と日本の文化や歴史の思考の中で両国を行き来しながら日本の文化を味わってもらうことで、自国の魅力の再発見もできるのかな、と思ったりします。

ということで、旅行日程が決まりました。

我々の観光ルートはこちらです。
入国→東京(皇居、秋葉原、靖国神社)→京都→大阪→岐阜→東京→帰国

旅行日程が決まったら、あとは荷物の確認くらいでしょう。

大人なので手荷物くらい自分で考えます。ただ、服装については助言してあげると相手も喜ぶと思います。

なんせ兄貴は家族・友人から大量のお土産を期待されています。できるだけ自分の荷物を減らして、お土産のスペースを作りたいです。

全く日本を知らない方へは服装の助言は地味に重要です。

ここまできたら、あとは旅行予定先に住む家族・友人に連絡して気候とか街の様子とかを尋ねて案内イメージを鍛えて、観光案内のシュミレーションをして出発の日を待ちます。

そんな感じで準備をした私たちは日本観光するためにZ国を飛び立ちました。

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思った以上にここまでの内容が長くなってしまったので、日本に行ってからの話はまた今度別の記事で書いてみたいと思います。

いかがだったでしょうか。突然の日本観光案内のイベント。一度案内することで気づく反省や改善点がたくさんあります。次はもっと面白く、買いたいお土産を買えるように回れるはずです!

兄貴が今年か来年にまた日本へ行きたいと言っているので、そのうち2回目の案内をできそうです!

最後まで読んでいただきありがとうございます。少しでもこれから外国人のお客様を日本でアテンドする方々に役に立てば嬉しいです。

次回の記事もぜひ読んでください。それではまた。さようなら。


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