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新学期

ほんとうはみんなヤンチャな新学期。
今日、ランドセルを背負って歩く小学生をみていたら思い出したので再掲です。


ヨッさんとサダオ


「……いま説明したように、太陽の光はまっすぐ進んで地球に届きます。
ええな?」

「せんせぇ〜」
「お、なんやサダオ」
「光って曲がらないんですか〜」
「ええ質問やな。光は……まぁ、曲がらんと思ってて下さい。
 向きを変えよう思たら、反射させんねやな。鏡とか、あるやろ」

休み時間にぼくたちはさっそく、筆箱を鏡がわりにして遊びだした。窓からの日光を自在に反射させて、天井や机や…そのうちに人の顔をねらうようになる。でもねらうのはサダオだけだ。

「くらえサダオ! これが反射や! 思い知れ!」
「うっ、まぶしいって! ヨッさん! どつくぞ! おいっ!」

サダオは本気で怒り出した。ぼくは教室を出て逃げ回った。追いかけっこをしているうちに何だかオカシくなってきて、ふたりで笑い始めた。ごめんなサダオ。


家に帰ると、姉ちゃんが国語の教科書を読んでいた。

「不来方の〜 お城の草にぃ 寝転びて〜」
「また始まったわ姉ちゃん。かぶれとんな。何やねんそれ?」
「あんたにわかるかいな。空に吸われし〜 十五のこころぉ〜」

何言うてんねん。
いっつもスマホ見ながら寝転んでるくせに。

「なんやて?」
「何も言うてない」

ぼくはケリを食らった。姉ちゃんは短歌にかぶれている。ヨサノアキコの次はタクボクになった。ぼくにはどっちもわからんかった。


次の日、ぼくはサダオと一緒に下校した。
晴れた空に、飛行機が飛んでいた。

「おいっ、ヨッさん!」
「なんやサダオ」
「飛行機! 飛行機!」

顔を見合わせてニヤリと笑った。
筆箱に日光を反射させて、飛行機にあてるのだ。

「早よせな飛行機行ってまうぞ!」
「おっしゃ! 今当てるから見とけ」

ランドセルから筆箱を出してねらいを定めた。

「どっち向けてんねん! 飛行機に当てたれ!」
「もうちょっとこっちか? あっ、飛行機進んでる!」
「ちゃんと当てろ、アホかっ! ヘタクソッ!」

そうしているうちに、飛行機は向こうへ行ってしまった。
「あ〜あ」
ぼくたちは草っぱらに寝っ転がった。

「ヨッさん、さっきの反射、飛行機に届いたと思う?」
「しらんわ。空港行って聞いてこいや」
「ん〜、……なんか、そんなんええわ。それよりな、
「うん、
「空見てて、…思ってんけどな、
「うん、
「さっきの光、……ほんまは
「なんやねん、早よ言えや
「うん、……ほんまは、空に吸いこまれていったんちゃうやろか」

ぼくはびっくりしてサダオを見た。
サダオは真っ直ぐ空を見ていた。

「なんか、いつも見る空とちょっとちゃうなぁ」
「せやなぁ、寝っ転がって見たら、空って、……広いなぁ」
「うん。……なんかな、

サダオの言いたいことがわかる気がした。
ぼくはだまってサダオの言葉を待った。
「なんか……、心まで吸い込まれそうやなぁ
姉ちゃんが言うてた。空に吸われし、十五の心。

ぼくは思わず
「そうやなァ」
と言った。
ほんとの気持ちだった。

ぼくたちは、少し大人になった気分で空を見ていた。


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