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PSVTの診断と治療 (JAMA, 2024)

JAMA clinical reviewでPSVTが特集されていた。


疫学

・3種類のタイプ_AT, AVNRT, AVRT
・AFL, AFも上室性頻拍の鑑別だがレビューの対象外
・正確な有病率は不明だが、1000人中1-4人程度と推定されている。小児も大人も。
・女性が67.5%, 50%が45-64歳
・高血圧、虚血性心疾患、心不全、心筋症、弁膜症、AF、SSSなどの背景心疾患がないPSVTを "lone PSVT"と呼ぶことがある。lone PSVT 39%を占め、背景疾患のあるPSVTより若年に多く (平均年齢 37歳 vs. 69歳)、発作時の心拍数が高い (平均 186/min vs. 155/min)。lone PSVTのリスク因子はまだ分かっていない。

病態生理

・心房→AV node→ヒス束→分枝→プルキンエ線維→心室の分極
・不整脈を起こす3つのメカニズム
1. enhanced automaticity
2. triggered activity
3. reentry
PSVTでは3. reentryが主要な病態生理

3種類のサブタイプについて(病態生理は本文中のFigureを参照) 

AVNRT

・最も頻度が高く、カテーテルアブレーション症例の56%を占める
・QRS幅は短く、しばしば心電図で同定困難でnon-RP tachycardiaと呼ばれる

AVRT

・2番目に頻度が高く、カテーテルアブレーション症例の26%を占める
・Orthodromic AVRT: 副伝導路から逆行性に心房へリエントリー 房室ブロックがなければ narrow QRSで逆行性P波みえる
・Antidromic AVRT: 副伝導路から順行性に伝導し、心室の分極と収縮後に逆行性にヒス-プルキンエ系とAV nodeの伝導が起こる。ゆえにantidromic AVRTではwide QRSで副伝導路由来のVTのようにみえる
・洞調律のときに副伝導路を介した順行性伝導はPRの短縮、slurred QRS(Δ波)を伴う"WPW pattern"の心電図をとる。WPW patternの心電図をとる患者さんがSVTの発作を起こすとWPW 症候群と診断される。突然死のリスクがあり、循環器内科に紹介すべき。

AT

・focal AT: 3番目に頻度が高く、カテーテルアブレーション症例の17%を占める、P波は単一となる傾向。Ventricular rateが高くなるとP波がQRS, T波と重なって識別が難しくなる。
・Multifocal AT: P波の形がいろいろ, irregularly irregular rhythm

症状・診断

・突然発症でさまざまな症状:動悸 86%, 胸部不快感 47%, 息切れ 38%, syncope 24%, lightheadedness 19%
・診断:12誘導心電図、場合により長時間モニターする
・ウェアラブルデバイスが発達しているが現状ではエビデンスは限定的
・CBC, 生化学パネル, 甲状腺測定することが多い; しかし電解質異常とPSVTの関連はよくわかっていない
・背景心疾患がないか、心エコーする

治療

発作時の急性治療(血行動態が安定しているとき)

vagal manuever (valsalva 手技, carotid sinus massage; videoあり)

修正バルサルバ手技 (REVERT trialで43%が発作停止)
①半座位で10mlのシリンジを口にくわえて15秒間思い切り息を吐いてもらう
(15秒続けられない方もいる)
②すぐにベッドを倒して臥位にして、さらに、医療スタッフが15足を挙上する。15秒間継続する。(venous returnを増やすため)
③半座位に戻す

*患者と家族に伝えて、自分で行ってもらってもよい

Carotid sinus massage
総頚動脈の分岐にある頸動脈洞を刺激する
禁忌:頸動脈狭窄がある人
①気管を触る
②側方にある頸動脈を触知する
③聴診でbruit(頸動脈の狭窄を示唆)がないことを確認する
④優しく5秒間マッサージする

アデノシン (ATP製剤)
AV nodeをブロックすることで、AV nodeを通るリエントリーを止める
6mgを1-2秒間で急速投与、生理食塩水で後押し

アデノシンへの治療反応性がサブタイプの診断にも寄与する
①効果なし
・Fascicular ventricular tachycardia
・inadequate dose/effect
②Supraventricular tachycardia slows
・Sinus tachycardia (SVTはアデノシンで遅くならない, vagal manueverで遅くなる)
・Junctional ectopic tachycardia
・Automatic focal atrical tachycardia
③発作が停止
・AVNRT
・AVRT
・AT
④Atrial rate continues with AAV block
・Atrial Flutter
・Atrial Tachycardia

・WPW症候群では禁忌 (AVブロック→副伝導路からの早い心室伝導からVFを誘発するおそれがあるため)
・気管支攣縮のおそれがあり、気管支喘息患者では慎重投与

カルシウム拮抗薬
非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬が使われるかもしれない
例) ベラパミル 5mg またはジルチアゼム 20mgを2分間で投与

低血圧に注意 (622人中 0.7%で発症)
禁忌: HFrEFでは避けるべき

ベラパミル: 0.075-0.15 mg/kg 
ジルチアゼム: 0.25 mg/kg

β遮断薬
PSVTにおけるβ遮断薬のエビデンスは限定的だが、rate controlに有効なのでガイドラインではアデノシンが有効でないときのCa拮抗薬の代替薬として位置づけられている

禁忌: 急性非代償性心不全では避けるべき

抗不整脈薬

急性期の治療 (血行動態が不安定なとき)

Direct-current Cardioversion
緊急の同期カルディオバージョン
意識がある患者ではsedationが必要
最初は50-100Jで行われる

発作の予防

カテーテルアブレーション: 症状があり頻回に繰り返す場合は1st line.
             詳細は省略
薬物的治療: エビデンスは限定的
 ガイドラインではβ遮断薬, 非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬が1st line
 2nd lineでclass 1c抗不整脈薬, dofetilide
    反復例でアミオダロン, Focal ATの補助的治療でイバブラジン

予後

背景心疾患がなく、カテーテルアブレーションで治療した場合予後良好
薬物治療だけでは50%は少なくとも月に1回症状が出る

特別な考慮が必要な集団

小児、妊娠している女性、アスリート

●感想

・PSVTでの失神の経験がなかったが、24%で失神するデータがあり意外と多かった。
・PSVT→洞調律に戻ったあとにSTが下がっているように見え、循環器内科の先生に相談した際に虚血が関与していなくてもそのような変化が残ることがあると教えていただいたが、reviewではsinus に復帰したあとの心電図については記載がなかった。
・修正バルサルバ手技、頸動脈マッサージのeducational videoがどちらも1分半程度でわかりやすい。実臨床では循環器の先生は診断につながるためか早々にアデノシンを使用していることが多い印象ではあるが、特に修正バルサルバ手技は自宅で患者のセルフマネジメントを促すこともでき、病院受診を減らせるかもしれないので、積極的に取り入れていきたい。
・緊急時のカルディオバージョンもしミューレションしておきたいと思った。


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