希釈性貧血でどのくらいHbが低下するか?J Hematol. 2019;8(2):86-87


【入院中に貧血が進行したとき、輸液して希釈による影響でよいのか、出血を除外すべきか悩む状況において、希釈でどの程度説明できるか計算する方法】

例題)44歳女性。マラリアで入院。体重60kg。入院時(最初)のHb 12g/dL。4Lの0.9%生理食塩水を投与され、抗マラリア薬が開始された。翌日(輸液後)の採血でHb 9.8g/dLであった。
これは重症マラリアによる溶血の徴候か、希釈性の貧血か?

消化管出血や溶血などの血液喪失が全くない(輸液による希釈の影響だけ)と仮定すると、輸液後のHb濃度は下記の4ステップで計算できる。

Step 1. 最初の体内合計の血液量を計算する
いろいろな式があるが、もっとも単純な方法は
女性:65ml/kg ×(体重)
男性:75ml/kg ×(体重)

<例> 60kgの女性 60kg×65ml/kg=3900ml or 39dLの血液量と計算

Step 2. 最初の体内のヘモグロビン量を計算する
最初のHb濃度 (g/dL) × 体内合計血液量 で計算される

<例> 最初のHb濃度  12 (g/dL) × 39dL = 468 g
体内の合計Hb量 468g

Step 3.輸液後の体内合計の血液量を計算する

生理食塩水の1/4 が血管内に(3/4が間質に)分布する
糖液の1/12が血管内に(1/4が間質に、2/3が細胞内に)に分布する
<例> 4Lの生食輸液=1Lの血管内volumeの上昇
∴輸液後の合計血液量は3.9L+1.0L=4.9L=49dL

Step 4. 期待される輸液後のHb濃度を計算する
体内の合計Hb量は翌日も変わらないと仮定すると、
期待される輸液後のHb濃度= 468 g/49dL=9.55 g/dL
(12×39/49=9.55)

ゆえに、翌日の採血のHb 9.8g/dLは希釈の影響で矛盾しない範囲である。


以上、J Hematol. 2019;8(2):86-87より抜粋

●専攻医の先生からの質問: 血小板は希釈で低下するか?

大量出血、外傷→大量RBC輸血→希釈性血小板低下は、ありそうです。
(外傷不得手ですが、MAP:PLT:FFP=1:1:1で輸血するのでしたっけ?)

内科入院中に行う輸液程度で低下するかは微妙ですかね。
上記のマラリア患者さんで仮に
最初の血小板 20万/μLとして、翌日の血小板総量が変わらないとすると、希釈によって20万/μL×39/49=15.9万/μLと計算できると思います。
(ただ血小板は寿命が短く回転が早く、1日に35,000~70,000/μL程度産生されるようですし脾臓に1/3程度分布しているようですので「翌日の血小板総量が変わらない」という仮定が成り立つのかはよくわかりませんでした。)

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