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プロレスラーとテオティワカン


メキシコシティの標高の高さにやられてしまい、宿泊していた日本人宿に戻り水を飲み続けて落ち着いた時。

(高山病になっちゃった話はこちら)


上の階から、体格のいい男の人と小柄な女の人が降りてきた。

あの人たち、プロレスラーだよ、と近くにいた人が教えてくれる。

うわ、でた。


メキシコシティに到着した日、同じ宿に宿泊している年配男性から、この宿には日本人プロレスラーが数人暮らしているということを教えてもらった。

そして、彼らのプロレスの試合を見に行こうと誘われた。

プロレスや格闘技に対しては怖いイメージしかない。血も苦手でボクシングとかも見れない。

メキシコで暴行されて道端に捨てられた人の話を聞きたてほやほやの私は、メキシコのプロレスなんか絶対にやばいとしか思えなかった。

ただでさえぶっ飛んでいる場所でそんな恐ろしいものを見たら、きっと私は脳みその血管ぶち切れて死んでまう。

その年配男性のお誘いは即座にお断りした。


なのについに、というか早速、私はプロレスラーと出くわしてしまった。



吹っ飛ばされないように挨拶だけしておこう、と思い挨拶をしたその5分後には、私の固定観念はひっくり返されていた。

気づいた時には、彼らとベラベラと話し込んでいた。

男性プロレスラーさんはすごく若く、体は大きいものの犬みたいな人懐っこさがあって可愛らしいなあ、と思った。

女性プロレスラーさんは笑った顔が太陽みたいに明るい人で、友達のようにただただ楽しく話ができて、ほんまにこの人プロレスラーなんかな?という思いさえ湧いていた。

だけど腕とか肩とかが普通の人とはまったく違う、すごく綺麗な筋肉がついてることに気付く。やっぱりきっとプロレスラーや。


明日テオティワカン (ピラミッド等の遺跡があるところ) に行こうと思っていると話すと、彼女が私も一緒に行っていいですか?と。

メキシコシティの公共交通機関はまだよく分かってない。バスへの乗り継ぎもある。治安も良いとは言えない。

そんな場所で、私は強くて優しいプロレスラーを携えて遺跡を見に行けることになった。


そして彼は明日、試合があるらしい。

行ってみたい。

こんなに優しくて楽しい人たちがリングに上がったらどうなるのかという興味が、怖さを完全に上回ってしまった。

ということで翌日は、朝から彼女とテオティワカンへ行き、夜は同じ宿に宿泊している人達と一緒に彼の試合を見に行くことになった。

その日の夜部屋に戻ってから、彼らの名前を検索してみた。
ゴリゴリにちゃんとしたWikipediaが存在していた。めっちゃプロレスラーやん。

犬みたいで可愛いとか思ったことを、心の中でしっかりと謝罪してから就寝。


翌朝、地下鉄に乗り大きなバスターミナルへ。
1人だったらいつもしっかり調べて行くけれど、この時はなんにもしなかった。なぜなら私にはメキシコ在住のプロレスラーがついている。

彼女について行き、バスターミナルへ。

バスに乗り継ぎ、1時間くらいかけてテオティワカンへ向かう。

道中もいろんな話をしたり、彼女にメキシコのお菓子を分けてもらったり。遠足みたいで楽しかった。

階段をひたすら登る
太陽のピラミッドの頂上。
登れるピラミッドでは世界で1番大きい。
月のピラミッドの頂上。


下からの景色も、階段を登った上からの景色も圧巻だった。

写真でどこまで伝わるか分からないけど、階段が半端じゃなく急。

上りはまだいいものの
下りは結構ハード。床に手つきながら降りてる人も。


1人転がり落ちたら、これはみんないってまう。

1人で叫びながら降りなければいけなかったところ、彼女のおかげでこれも楽しめた。

ピラミッドまでの道にはお土産を売ってる人がたくさん。

私たちが日本人だと分かると、ほとんどタダ!と言って話しかけてくる人、多数。さすがに嘘すぎるやろ。

彼女と一緒にここに行けて本当によかった。



そして夜はついにプロレスの試合を観に行った。プロレスラーの彼女も一緒に観に行ってくれることに。

チケットを買ってスタジアムに入るまでの間、彼女は色んな人に話しかけられている。
スタジアムで働いてる人や、地元のファン。一緒に写真を撮ってほしいと頼む人もいた。

この国の人にすごく愛されてるのが、短時間でも分かった。

そして彼の試合は登場からグッとくるものがあった。
異国で、こんなに大勢の人が集まる熱気の凄いスタジアムで、日の丸を掲げて堂々と登場して名前を呼ばれている。

人懐っこい犬に見えた彼は別人だった。
ワンちゃんみたい!とか思って本当にごめんなさい。(2回目)

私も異国で働いていたから、日本を出て生活する大変さはそれなりには分かっているつもりだったけど、それとはまるで訳が違う。
恐ろしいくらいの注目とか、きっと考えられないくらいのプレッシャーとか、彼らにのしかかってるものを考えただけで吐きそう。

イラク人とか、ネパール人とかになぜか勝手にいっぱい写真撮られるくらいの注目しか浴びたことのない私には考えられない世界だった。

傍若無人に暴れまくる競技だと思っていた私の偏見はすぐにひっくり返された。

戦ってるけど、魅せるものだった。
技をかける瞬間だけじゃなくて、受ける瞬間にもワクワクさせてくれる。

こんなに人間離れした技をしながら誰も死なない時点で、彼らはどれだけのトレーニングを積んでいるんだろうとも思った。

ルールは何にも分からない。でも私の隣には、なんと解説をしてくれるプロレスラーがいる。

テンションが上がり、彼女にあほみたいな質問を色々してしまってたかも、と試合後に我に返る。いやきっと、あほみたいな質問しかできていない。

でも彼女は、普段客席から見ることってないから楽しかったー!と笑っていて、
きっとどこでも愛される理由が分かる出来事が、1日の中でたくさんあった。


この試合後、2人のプロレスラーと一緒にちゃっかりご飯にも行かせてもらってしまった。

好青年に戻っていっぱい食べる彼と、大好きになった彼女。2人のおかげで私のメキシコシティの旅は忘れられないものになった。



そしてこのメキシコの旅行で唯一心残りだったのが、滞在期間中に彼女の試合を観られなかったこと。

私はこの旅行から約半年後、日本で彼女の試合を観に行った。

リングの上でも太陽みたいで、本当にキラキラしてて、でも飛んだ時の俊敏さとか、技の迫力とかはたまらなくて。

プロレスの知識がなくても、彼女のユーモアも人間性も全部がリングの上で反映されてこんな人を惹きつけられるんだろうなということはすごく伝わってきた。


私の出会った2人のプロレスラーは今でも活躍していて、私は陰ながら応援している。

いつかまた観に行きたい。


最近も彼女はSNSで私のことを、メキシコで仲良くなったお友達、と書いてくれていた。


私には、とっても魅力的な、太陽みたいなプロレスラーのお友達がいる。

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