往診の加算について6月から改定。初めての患者さんに往診した場合は減算。都市部の市場原理に地方が振り回される。

2024年3月、厚生労働省から6月1日からの診療報酬の改定の内容が通知されています。
その中で往診についても改定がありました。
普段から訪問診療を行っていたり、外来で診たりしている患者さん以外に対しての夜間・休日往診加算と深夜往診加算が大幅に引下げされました。
深夜往診加算でいうと、2300点から485点に下がります。


何で厚生労働省がこんな改定をしたと思いますか?

公式文書では「適正化」しますとしか解説がありません。
今回、私はびっくりしてあれこれ調べました。あくまでネットでの情報しかないのですが、一部の医療機関が、休日や夜間さらには深夜にかかりつけ以外の患者さんに往診をしている。中には往診の必要がないものもあるのではないかと疑われる。それを産業化しているところも出ている。このまま休日や夜間・深夜の往診を保険診療として行い、高額の報酬を得るのは適正ではないといった議論が背景にはあると聞いています。

そのことについてはどう思いますか?

私から見ればそれは都市部の話です。
人が不足している地方で、初めての患者さんに休日夜間や深夜に往診するのはひたすら大変でしかない。お金のためになんかできない。
でも、先の症例に示したように、初めての人でも往診しないと救命できなかったかもしれないケースは、年に1例か2例はあります。(私の診療所の対象人口は約3万人)

そういうケースの診療は本当に怖いし、次の日はぐったりしながら仕事をしています。
それを、この6月からは適正ではないので点を下げます、と言われると精神的なショックは大きいですね。十分な説明がないことにはさらに打撃を受けました。何が起きているか分からないから、自分の人生を否定されたような気になります。

都市部と地方は事情が違うということですか?

多分、この改定で都市部の往診料の総額は、何千万、ひょっとすると億単位で変わるのではないかと予測します。
それに比べると私の診療所(在宅医療を専門としていて対象人口3万人くらい)では、改定による影響は年間せいぜい20-30万円くらいです。
私の診療内容を説明しても「そんなのレアなケースでしょう、放っておくと億単位で保険財政を圧迫するんですよ、保険財政のことを考えて我慢しなさい」と言われるかもしれない。
厚労省の真意は分からないし、いろんな事情はあると思います。私は収入源からいえば、健康保険制度に雇われているようなものなので、保険制度全体のことも考えないといけない立場だと自覚しています。
それでもやっぱり地方の末端にいる悲哀は感じますね。

本来はどうすべきだと考えますか?

ネット等で報じられている情報だけから推測しているので間違っているかもしれませんが、田舎の私から見ると、今回の往診料加算に対する診療報酬改定は、医療を市場原理で産業化する動きに対して、厚生労働省が市場原理で対抗しているように見えます。

本来は、往診や休日や夜間、あるいは深夜往診にあたっての注意事項を療養担当規則やその関連通知で定めて、あまり目に余る場合は監査に行くぞ、という手法を取るべきだと私は思います。
それは、私たち医療者にとっては取り締まりを強化されるということで非常に恐ろしいことではありますが、お互いにスッキリした方法だと思います。

それと、何を問題にしてこのような引き下げを行なったのかを正面から説明してもらいたいですね。今回の往診加算に関する改定内容に、「適正化」とだけ記されているので精神的には大打撃を受けました。
問題が起きているのであれば、それを説明して、根本的な解決策、新たなルール作りを示して欲しいと願っています。

今回の改定に対し、どんな危機を感じていますか?

私は、往診というものが公的医療保険でカバーされているということ自体に、日本の医療の大きな特徴があると思っています。
考えてみると、私的な医療機関が、個人の家に行って診療するのを、公的医療保険で包括していることの方が不思議であり、諸外国でそんなことができる国はあまりないと思います。
往診そのものも、ある日突然保険診療でなくなることもあり得ると思いました。

ただし、もしその選択肢をとった場合は救急医療体制の拡充ときめ細かさが必要になります。そうでないと救急は大変なことになります。今の救急医療現場は疲弊しています。そして政治や行政が考えている以上に「隙間」だらけです。それを最も端的に示したのがコロナ禍でした。

最後に言いたいことは?

田舎の初期救急現場では何が起こっているか、往診とは何なのか、をリアルに知ってほしいです。政治や行政の人には特に分かってほしいと思います。
現場の実際の症例にあたる感覚は大事です。机に上がってくる数字だけを見ると本質が分からなくなってしまう。
拙著「往診屋」は田舎の、リアルな往診現場を綴ったものです。ぜひ読んでいただきたいと思っています。
ありがとうございました。

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