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みなとみらいアコースティックス2023 コンサート 藤木大地 反田恭平 務川慧悟



これほど贅沢なコンサートはないだろう。
先行発売でよい席を購入でき、心待ちにしていたコンサート。
前日、コンサート当日は「みなとみらいスマートフェスティバル2023」が開催されるので会場周辺は混雑が予想されるとの情報を知り、少し早めに横浜まで行くことにした。
20年ぶりの横浜、コンサートの前にどこに行こうか?

みなとみらい線 元町・中華街駅で降りる。
ホテルニューグランド本館へ向かう。


ホテルニューグランド本館
ザ・カフェ

昭和2(1927)年、関東大震災後の新しい横浜の復興のシンボルとなるホテルとして建設、銀座和光ビルや東京国立博物館本館を手がけた渡辺仁わたなべじんによる設計

ホテルニューグランド本館・大階段
階段には「ニューグランド・ブルー」の絨毯
手摺はイタリア製の釉薬タイルでおおわれている
階段上には時計と天女が楽器を奏でながら舞う姿を描いた「天女奏楽之図」綴織つづれおり
ホテルニューグランド本館・2階ロビー
1992年に横浜市認定歴史的建造物、
2007年に経済産業省が選んだ近代化産業遺産の認定を受けている

昭和、平成、令和の96年間の歳月を横浜とともに生き続けるクラシックホテルでの時間は、創業当時の華麗で豪奢な調度品が、セピア色でやわらかく包まれたぬくもりに変化した安らぎの時間を追慕でき、ザ・カフェでの食事を含むわずか一時間あまりの滞在なのに、横浜のエッセンスを感じ取れ、コンサート前のアペタイザー相応ふさわしい時間となった。

かなり混んできた地下鉄に乗り、みなとみらい駅で降りる。

横浜みなとみらいホールへ

ときめく音楽を 海の見えるホールから

花火会場へと連なる人々をロビーから眺め、開演を待つ

日本から世界に羽ばたいた3人のアーティストたちが
最高の音響を誇る日本有数のコンサートホールで
再会を果たす特別な一夜

そう、まるで音楽家たちが主役のコミックストーリーみたいにときめく夜。

ちょうど10年前に僕らは出会いました。33歳の僕と、10代のふたり。
コンビニで買ってきたおもちゃを使って楽屋でマジックを(勝手に)披露して「アニキ〜あそぼ〜」と懐いてくる恭平。
サシの対面で黙々と味噌煮込みうどんを啜りつつ、自分からは話しかけてこない慧悟。
それからの10年のことは、みなさんもよくご存知だと思います。
この公演は、わたしたちが誇る横浜みなとみらいホールを大きな楽器として、その響きを存分に楽しんでいただくコンサートです。
舞台では、2台のピアノと1つの声でお待ちしています。
アニキである僕は、国民的な音楽家となったかれらの、人生最初の歌手になりたいと思いました。
僕らの初めての真剣勝負がみなさんに届きますように。
わたしたちのホールの魅力をたくさんの方に知っていただけますように。
つなぐ、むすぶ、のこす。これが僕の、初代プロデューサーとしての最後の仕事です。
―――― 藤木大地

コンサートプログラム「藤木大地からのメッセージ」

2012年日本音楽コンクール1位の3人による初めてのコンサート

出演
藤木大地(♠)(カウンターテナー)
反田恭平(♦)(ピアノ)
務川慧悟(♧)(ピアノ)

曲目
シューマン:アラベスク ハ長調 作品18 ♧
シューマン:歌曲集《詩人の恋》 ♠♧
ルトスワフスキ:パガニーニの主題による変奏曲 ♦♧
モーツァルト:夕べの想い ♠♦
シューベルト:ミューズの子 ♠♦
ベートーヴェン:連作歌曲集《遥かなる恋人に》 ♠♦
ブラームス:永遠の愛について ♠♦
ショパン:バラード第3番 変イ長調 作品47 ♦
反田恭平(務川慧悟 作詞):遠ゆく青のうた ♠♦♧


大ホールは2,020席
コンサートホールには最適と言われるシューボックス型をベースに、
舞台が見やすいアリーナ型の客席配置を取り入れた「囲み型 シューボックス形式」


務川慧悟さんのピアノ演奏からコンサートが始まる。
シューマン:アラベスク ハ長調 作品18

アラベスク模様のように音が織りなされ、変化し、水の流れを思わせるせせらぎと激流となり、それらの音楽が彼らしい知性と理性で上品にまとめられた演奏。


藤木大地さん登場
シューマン:歌曲集《詩人の恋》

今回務川さんにとって初めての声楽家との共演。
ドイツリートの中でも特に大切な曲だという務川さんとカウンターテナー藤木大地さんの詩人の恋16曲が繰り広げられる。
ピアノは伴奏というより、シューマンの楽曲が声楽とピアノの共演で端正に創り上げられているといったイメージ。
ドイツリートの持つドイツ語の発音が耳に心地よいけれど、ドイツ語が解せないことが残念。
静かに歌が終わり静寂の時間、そして満場の拍手。
(フライイング拍手が少しあったのが残念)

ちょうど7時30分から始まった花火の打ち上げられる低音とゆるい振動がホールにほんのわずか響いていて、休憩時間にひょっとしたら花火のクライマックスが観られるかなと期待していたら、見事に当たった。

休憩時間にロビーは花火観覧の最高の席となる。


スカイシンフォニー in ヨコハマ presented by コロワイド
 25分間で約20,000発の花火

花火のクライマックスをホールのロビーで観覧できるという夏のビッグプレゼントに観客は歓声と拍手

第二部

ステージには2台のピアノ

反田恭平 務川慧悟 2台のピアノ
ルトスワフスキ:パガニーニの主題による変奏曲

今年1月のコンサート以来の二人のピアノ演奏、同じ曲目でもあり、今回また聴けるのを楽しみにしていた。
前回はピアノによる端正なフェンシングの試合といった印象だったけれど、今回は反田さんのパートの特に左手演奏がかなり荒々しい演奏で、ボクシングの打ち合いといった印象。圧巻の格闘技。

藤木大地さん登場
モーツァルト:夕べの想い 
シューベルト:ミューズの子 
ベートーヴェン:連作歌曲集《遥かなる恋人に》 
ブラームス:永遠の愛について

反田さんにとってやはり公の場では初の声楽伴奏、ドイツ語で歌われる藤木さんのカウンターテナーソロをピアノが包み込み、歌いやすくフォローしつつ、各作曲家の個性を匂わせる素晴らしいピアノ伴奏。
務川さんと反田さんの、楽曲への伴奏アプローチの違いの妙を味わえた。

反田恭平
ショパン:バラード第3番 変イ長調 作品47

リサイタル2023でのプログラムの一曲。
安定の演奏、おおらかなゆとりある演奏。

藤木さん、反田さん、務川さんがマイクを持って登場。
軽妙なトークで三人の出会いと今回の演奏会のリハーサル話などが語られる。
そして今回のプログラムでシューマンより誰よりも難しかったと藤木さんがおっしゃる最後の曲が演奏される。


反田恭平(務川慧悟 作詞):遠ゆく青のうた
反田さんが何年か前に混声四部合唱曲として作曲した(新幹線の中で作曲、歌詞は務川さんカフェでワインを飲みながら作詞)曲が、藤木大地さんのカウンターテナーで、遠ゆく青~青春を清々しく透明感のあるうたに昇華される。

アンコール
小さな空 作詞・作曲:武満徹

2012年日本音楽コンクールでの藤木さんが歌われた曲のひとつを、反田さんと務川さんの二人のピアノ伴奏で藤木さんが歌うという贅沢で心温まるアンコール。

画像は藤木大地 / Daichi Fujiki Twitterよりお借りしました
アニキと弟二人といった微笑ましいシーン

小さな空
青空みたら 綿のような雲が
悲しみをのせて 飛んでいった
いたずらが過ぎて 叱られて泣いた
こどもの頃を 憶いだした

夕空みたら 教会の窓の
ステンドグラスが 真赤に燃えてた
いたずらが過ぎて 叱られて泣いた
こどもの頃を 憶いだしたた

夜空をみたら 小さな星が
涙のように 光っていた
いたずらが過ぎて 叱られて泣いた
こどもの頃を 憶いだした

いたずらが過ぎて 叱られて泣いた

こどもの頃を 憶いだした

作詞・作曲:武満徹

歌っていいな、真っ直ぐに心に響いてくる音楽っていいな、どんな音楽コミックより感動的だったコンサートだった。

まだまだ混雑する横浜から満員電車で帰宅。


コンサートの後の楽しみは、動画での演奏鑑賞



ルトスワフスキ:パガニーニの主題による変奏曲 反田恭平 務川慧悟


藤木さんの日本語の歌で、大好きな曲がこの曲。
日本語の美しさがメロディーとなり、藤木さんの歌声で詩情あふれる名曲となっている。特に「だろう」という言葉の表現が秀逸。

藤木大地 Daichi Fujiki /もしも歌がなかったら~アルバム『いのちのうた』

横隔膜や声帯、口蓋を完璧にコントロールし、声の至芸を極めると、聴衆の鼓膜ばかりか、情動まで震わせ、かつジェンダーを超越した響きが生まれる。歌われることで、コトバの一つ一つが磨き上げられ、眠っていた詩が目覚める。高原の空気や岩清水にも似た、濁りも淀みもないその声に触れると、にわかに奇跡を信じたくなるし、もっと自由になれる気がしてくる。藤木大地は心折れる現実を浄化するシャーマンである。(島田雅彦/作家)

【Kinginternational】藤木大地 Daichi Fujiki /もしも歌がなかったら~アルバム『いのちのうた』帯書きより


さすが作家の帯書きは鋭くて的を得ていて、その歌声、シャーマンの歌声だからこそ、会えなくなって久しい人たちにまた会いたいと思わせられた藤木大地さんのさとうきび畑です。戦争について考え、お盆の夏に聴きたい曲。

藤木大地 さとうきび畑


Ave Maria  Vocals: Daichi Fujiki Composer: Giulio Caccini



Krystian Zimerman - Chopin - Ballade No. 3 in A flat major, Op. 47


記録としての note 
ずい分長くなってしまいました。

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